黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狷狼録 5

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    晴奈の話、第150話。
    謀略実行。

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    5.
    「おお、ウィル」
    「う、……父上、ご機嫌麗しゅうございます」
     ウィルバーは父に分からない程度に顔をしかめ、すぐに笑顔を作った。
    (クソ、めんどくせえ)
    「お前も元気そうで何よりだ。ところでウィル、ワルラスを知らんか?」
    「叔父上、ですか? ……」
     何かが記憶の底から浮き上がりかけたが、それが何なのか把握できないまま、忘れ去る。
    (あれ? 何か、あったような? 叔父貴が、何か、……えーと?)
     考えても、何も思い出せない。ウィルバーのそんな様子を心配しているのか、ウィリアムは顔を見つめてくる。
    「ウィル?」
    「あ、いえ。見てません、が」
    「そうか……」
     ウィリアムは困ったように、狼耳をしごいている。
    「いやな、つい先ほど、私宛に手紙をよこしてきおって。何でも『風流な場所で碁が打ちたい』とか。恐らく先日の決定に納得が行かず、私を懐柔しようとするつもりなのだろうな。
     それで、探しておったのだが」
    「はあ、そうですか」
     困ったようにきょろきょろと辺りを見回すウィリアムを見て、ウィルバーはうんざりする。
    「(めんどくせえぇ)それじゃ、オレはこれで……」「おい、おい、ウィル」
     その場を離れようとしたウィルバーを、ウィリアムが苦笑しつつ引き止める。
    「つれないじゃないか、一緒に探してくれ」
    「はあ……(うぜぇ)」
     いくら傲慢不遜のウィルバーと言えど、父に頼まれれば嫌とは言えない。仕方なく、父に付き添ってワルラスを探すことになった。
     風流な場所とはどこだろうかと考えるうち、頭の中で一瞬、けたたましく言葉が響く。
    (てんぼうだい)(てんぼうだいに)(てんぼうだい)「てんぼうだい?」
    「ん?」
     思わず口に出してしまい、ウィリアムが聞き返す。
    「あ、いえ。……その、風流な場所、と言えば展望台じゃありませんか? 何となくですが、そんな気が」
    「なるほど、なるほど。では、そちらに向かおうか」
     ウィルバーの「予想」通り、黒鳥宮の最北、崖側に設けられた展望台にワルラスはいた。
    「おや、兄上、……それにウィル」
     にこやかに手を振るワルラスを見て、ウィリアムは呆れる。
    「何が『おや』だ……。探したぞ、ワルラス」
    「どうも、叔父上」
     ウィルバーが頭を下げると、ワルラスはニコニコ笑いながら2人に近寄ってきた。
    「ほら、今日は美しい夕焼けが見えますよ」
     そう言って、ワルラスはウィリアムを展望台の柵近くに引っ張っていく。
    「ほお……」
     確かにワルラスの言う通り、屏風山脈の頂上から見下ろす水平線は、夕日と海の鮮やかな赤と、空の濃密な藍のコントラストで彩られ、まさに絶景であった。
    「なるほど、なるほど。確かに風流」
    「そうでしょう、そうでしょう。この按配なら、もう少し待てば美しい月や星も眺められましょう。
     それまでどうでしょう? 一局、お手合わせ願いたいのですが」
    「ふむふむ、それは風雅だな。では、一局付き合わせてもらおうか。ウィル、すまないがお茶を……」「ああ、ああ、兄上。私の付き人に、持ってこさせます。ウィルもこの、絶景を楽しんでいきなさい」
    「はあ……」
     引き止められ、ウィルバーは仕方なく父と叔父の間、碁盤の横に座る。
    (めんどくせえのが、二人。……うぜーよぉー、夕焼けとか星とか、どーでもいーっての)

     ウィルソンとワルラス、二人の対局は順調に進み、結果、ウィリアムが僅差で勝利した。
    「はは、参りました。……おお、見てください、兄上」
    「ん?」
     ワルラスが立ち上がってウィリアムの手を引き、そのままもう一度、柵のところまで連れて行く。
    「ほら、兄上。ご覧ください」
    「ん? ……おお!」
     辺りはすっかり暗くなり、すでに満天の星空が広がっていた。標高が高いせいか、頭上の星々は宝石箱のようなきらめきを見せている。
    「ううむ、これは素晴らしい」
    「そうでしょう、そうでしょう」
     ワルラスはウィリアムから手を離して一歩後ろに下がり、わずかに口角を上げてこう言った。
    「……兄上、あの星を、ご覧ください」
     その瞬間、後ろに座りぼんやり茶をすすっていたウィルバーの目つきが変わった。
    「……おす」
    「ん?」
     ウィルバーの声に、ウィリアムが振り向いた。
    「おす。おす。おす……」
    「何だ、ウィル?」
    「おす。おす。おす」
    「……?」
     うわごとのようにつぶやくウィルバーを見て、ウィリアムの血の気がさっと引いた。
    「おい、ウィル? 正気か……!?」
    「おす」
     ウィルバーは答えず、ウィリアムに突進した。計画成功を確信したワルラスは、笑い出す。
    「フフフ……」
    「ワルラス? ……お、おい、ウィル!?」
    「押す!」
     ウィルバーは父に体当たりし、柵の外の断崖へと突き飛ばした。
    「わ、わあああぁぁ……ッ!」
    「フフ、フハハ……!」
     ワルラスは笑い、ウィルバーの背中を叩く。その衝撃で、ウィルバーの催眠が解けた。
    「……え? あ、れ? ……?」
     何が起こったのか分からず、ウィルバーはきょとんとしている。ワルラスは彼から離れ、大声で叫ぶ。
    「ウィリアム猊下が突き落とされた! 犯人はウィルバーだ!」
    「は? ……え!?」
     ようやく目を覚まし、ウィルバーは叫ぶ。
    「お、おい!? どう言うことだ!? 俺が、何したって!?」
    「うるさい、殺人犯め! 私はこの目で、しっかりお前が突き落とすところを見た! 早く来てくれ! 早くこの、殺人犯を捕まえてくれ!」
    「な、……ふざけんな! オレは何もやって……」
     うろたえるウィルバーを、ワルラスはなお罵り続ける。
    「白々しい! 私の付き人も、お前の凶行を目撃しているんだ! そうだろう、皆!」
     付き人たちは、震えながらもうなずく。
    「は、はい」「この目で……」「見ました」
    「おい……!?」
     ウィルバーの顔から血の気が引く。
     だがこの時に至ってもまだ、ウィルバーは何が起こったのか――父が本当に落ちたかどうかも、ワルラスが自分を罠にかけたことも――分かっていなかった。

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    2010.06.03 加筆修正
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