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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・堕天抄 2

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    麒麟を巡る話、第318話。
    白猫党との接触。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
    「あ、……あのー」
     マークは恐る恐る、スーツの男たちに声をかける。
    「うん? 僕たちに用かな?」
    「あ、えーと、あなたたちって、白猫党の方でしょうか?」
    「いかにも」
     紳士たちは恭しくうなずき、自己紹介した。
    「我々は白猫党政務対策部の者だ。
     近日、この王国において第一議会の選挙が行われると言うことで、こうして応援に来ているんだ」
    「応援ですか?」
     聞き返したマークに、白猫党員の一人がこう返した。
    「ああ。我々は政治・経済面から国家的・国際的に抑圧を受けている国や市町村を訪ね、その不正・不義を是正するべく活動している。
     ここ、ヘブン王国もそうした国の一つと我々は考えている。事実、『天政会』からの度重なる不当な指示・圧力により、半世紀前の威光など拝むべくもない有様だ。
     この鉛でごまかされた金貨・銀貨はその象徴と言えよう。『天政会』によって骨抜きにされ、今や国家としての体面は、うわべだけに過ぎない。この国は内情を少し探れば、一つの国として満たしているべき素養を、ほとんど有していないのだ。
     ……と、少し話が過ぎたな。初対面の少年にするような話では無かった。退屈してしまっただろう?」
    「いえ、とんでもありません。含蓄のあるお話を拝聴させていただきました」
    「うん?」
    「……ふむ」
     マークの少年らしからぬ返し方に、党員の一人が何かを感じ取ったらしい。
    「君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」
    「あ、マーク、……セブルスです」
    「セブルス君か」
     名前を聞くなり、彼は他の党員たちに向き直った。
    「殿下が来られたと、総裁に伝えてきてくれないか?」
    「では私が」
     党員が一人、店を離れる。
    「あ、……と」
     取り繕おうとしたが、使いに行かせた短耳の紳士は、それをやんわり遮った。
    「申し遅れた。私は白猫党政務対策本部長、フリオン・トレッドだ。党内の階級は第二位、チューリン総裁の直下の人間と思ってくれれば構わない。
     よろしくお見知り置きを、マーク殿下」

     マークは白猫党の者たちに連れられ、高級ホテルに入った。
    「マーク! 久しぶり!」
     と、ロビーに立っていたスーツ姿の女性が、マークを見て嬉しそうな声を上げた。
    「……シエナさん?」
     1年半前、天狐ゼミを卒業した当時の彼女を思い出していたマークは、内心とても驚いていた。
     当時は苦学生然とした、ひっつめ髪に地味なカーディガン姿だったが、今目の前にいるシエナはどう見ても、新進気鋭の政治家にしか見えない。
    「随分、何と言うか……、あの頃と変わりましたね」
    「もう学生じゃないもの。今は地位もあるし。
     ソレにしても、……いつも驚かされるわね、アオイには」
    「と言うと?」
     マークは辺りを見回したが、葵の姿は見当たらない。
    「アンタが今日来るコト、一昨日聞かされたのよ」
    「え? 今日、来る、……って?」
     シエナの言葉に、マークは戸惑った。
    「あの、一応お断りのお手紙を送ったんですが……」
    「ええ、受け取ってるわ。
     でもアオイは、『今日の昼過ぎ、フリオンさんがマークくんに会うよ』ってよげ、……言ってたのよ」
    「言ってた、って……?
     僕がどうして今日、ここに来ると分かったんですか? それにトレッドさんに会ったのは、偶然で……」
    「ま、いいじゃない、細かいコトは。とりあえず上の階に来てちょうだい」

     ホテルの3階および4階は、白猫党の全室貸切となっていた。
    「お金持ってるんですね、……すごく」
    「ええ、すっごく。ウチには優秀な財務担当者がいるから」
     3階へ上がったところで、シエナはある部屋の前に立ち、鍵を開けた。
    「マーク君、泊まるところ決めてないでしょ?」
    「ええ、まあ」
    「ココ、良かったら使って」
     シエナから鍵を手渡され、マークは面食らう。
    「えっ?」
    「手紙に書いてたアレがあるから、アオイに会うのはもうちょっとかかりそうなのよ。アタシにもいつ、あの子が起きるか分からないし」
    「ああ、確か『突発性睡眠発作症』でしたっけ。突然、眠りに落ちてしまうとか」
    「そ、そ。今もこのホテルで寝てるのよ。
     でも、ま、寝始めてからもう2日経ってるから、もうそろそろ起きるわ。……て言うか、明日くらいには起きてもらわないと困るんだけどね」
    「明日何か?」
    「ちょっと、ね。
     ま、長旅ご苦労様ってコトで、とりあえず今日は、ゆっくり休んで。ご飯とかは後でルームサービスが持って来るから」
     シエナはそこで話を切り上げ、階段を上って行った。
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