「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・堕天抄 3
麒麟を巡る話、第319話。
選挙戦。
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3.
ホテルに宿泊した、その翌日。
「……?」
マークはホテルの異様な静けさに、またも困惑していた。
昨夜は廊下を歩けば、白猫党のバッジを付けた党員たちと何度もすれ違っていたが、今朝は誰にも出会わない。
思い切って4階にも足を運んでみたが、やはり人の姿は無い。
「……えーと」
どうしていいか分からず、マークは立ち尽くしていた。
と、廊下の奥から、ホテルの従業員らしき女性が現れる。
「あのー」
「はい」
「白猫党の人たちって、もうチェックアウトしちゃったんですか?」
「しろねこ……? ああ、あの猫ちゃんのバッジ付けてる人たちですか?
今日は皆さん、選挙に向かわれてるみたいですよ」
「選挙?」
尋ね返したマークに、従業員は部屋から回収してきたらしき新聞を広げて見せる。
「捨ててあったもので恐縮ですけど……、ほら、これ」
「……『ヘブン王国第一議会選挙 本日投票日』?
と言うことは皆さん、投票に? でも白猫党の人たちって、王国にとっては外国の人じゃないんですか? 普通、外国人に投票権って与えられないんじゃ……?」
「ええ、こちらで党員を集めたりもされてるみたいですけど、ほとんど外国の方ですよ。
でも……」
従業員は小声で、マークに耳打ちした。
「この国ってそう言うところがおかしいらしくって、王様は外国人に参政させても平気みたいなんですって。今だって『天政会』筋の人を大臣に据えたりされてますもん。……って白猫党? でしたっけ、みなさん仰ってました。
だからみなさんも、こぞって立候補したみたいですよ」
「え? 投票じゃなくて……、立候補したんですか!?」
「はい。チラッと聞いた話では、85議席獲得が目標だって仰ってました」
「その第一議会って、議席は全部でいくつなんですか?」
「さあ? ……あ、書いてありました。150だそうです」
「議席の過半数を……? いくらなんでも無茶じゃ……」
「でもみなさん、『勝てる』って言ってましたねぇ」
「……どうやって勝つつもりなんでしょう」
「さあ?」
マークの心配をよそに、選挙は例年にない熱気を見せていた。
「ああ、疲れた……」
例年、ほとんど暇を潰すのに終始していた選挙管理委員は、思いもよらない事態を迎えていた。
いつもならば1時間にせいぜい1人か2人と言う程度の投票者が、今年は何十人も押しかけてきていたためだ。
「い、忙しい」
「腹減った……。ゆっくり弁当も食べられない」
「何で今年はこんなに一杯……?」
「分からん」
その様子を離れて眺めていたシエナとトレッドは、嬉しそうに笑っていた。
「まさかここまで忙殺されるとは思っていなかったようですな、彼らも」
「でしょーね。多分、今回の投票数は7~8万を超えるんじゃないかしら」
「彼らにそれを集計できる能力がありますかね」
トレッドは肩をすくめ、こう続ける。
「投票数自体、『天政会』の指示で仕方なく算出している数字でしょう? 実際のところ、実数を無視した適当な数字でしたし」
「ま、そうね。前回までに出てた数字も、9割9分水増しって話だったし」
「それがどうだ、今回はここまで大勢押しかけてきたわけだ。彼らの処理能力では、本日中に開票しきるのは難しいでしょうね」
「そのためにも、あたしたちがテコ入れしてるのよ」
「ええ、分かっておりますとも」
通常であれば一部の関係者のみが細々投票していたこの選挙は、今回は王国各地から多数の国民が押し寄せた。
シエナたちの予想通り、今回の選挙の投票数は、王国としては異例の10万票を超える結果となった。
ちなみに前回の投票数は――「天政会」からの圧力による、公表時点での水増しを加えても――わずか400票足らずである。
この騒ぎは、これから起こる一大政変の幕開けとなった。
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選挙戦。
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ホテルに宿泊した、その翌日。
「……?」
マークはホテルの異様な静けさに、またも困惑していた。
昨夜は廊下を歩けば、白猫党のバッジを付けた党員たちと何度もすれ違っていたが、今朝は誰にも出会わない。
思い切って4階にも足を運んでみたが、やはり人の姿は無い。
「……えーと」
どうしていいか分からず、マークは立ち尽くしていた。
と、廊下の奥から、ホテルの従業員らしき女性が現れる。
「あのー」
「はい」
「白猫党の人たちって、もうチェックアウトしちゃったんですか?」
「しろねこ……? ああ、あの猫ちゃんのバッジ付けてる人たちですか?
今日は皆さん、選挙に向かわれてるみたいですよ」
「選挙?」
尋ね返したマークに、従業員は部屋から回収してきたらしき新聞を広げて見せる。
「捨ててあったもので恐縮ですけど……、ほら、これ」
「……『ヘブン王国第一議会選挙 本日投票日』?
と言うことは皆さん、投票に? でも白猫党の人たちって、王国にとっては外国の人じゃないんですか? 普通、外国人に投票権って与えられないんじゃ……?」
「ええ、こちらで党員を集めたりもされてるみたいですけど、ほとんど外国の方ですよ。
でも……」
従業員は小声で、マークに耳打ちした。
「この国ってそう言うところがおかしいらしくって、王様は外国人に参政させても平気みたいなんですって。今だって『天政会』筋の人を大臣に据えたりされてますもん。……って白猫党? でしたっけ、みなさん仰ってました。
だからみなさんも、こぞって立候補したみたいですよ」
「え? 投票じゃなくて……、立候補したんですか!?」
「はい。チラッと聞いた話では、85議席獲得が目標だって仰ってました」
「その第一議会って、議席は全部でいくつなんですか?」
「さあ? ……あ、書いてありました。150だそうです」
「議席の過半数を……? いくらなんでも無茶じゃ……」
「でもみなさん、『勝てる』って言ってましたねぇ」
「……どうやって勝つつもりなんでしょう」
「さあ?」
マークの心配をよそに、選挙は例年にない熱気を見せていた。
「ああ、疲れた……」
例年、ほとんど暇を潰すのに終始していた選挙管理委員は、思いもよらない事態を迎えていた。
いつもならば1時間にせいぜい1人か2人と言う程度の投票者が、今年は何十人も押しかけてきていたためだ。
「い、忙しい」
「腹減った……。ゆっくり弁当も食べられない」
「何で今年はこんなに一杯……?」
「分からん」
その様子を離れて眺めていたシエナとトレッドは、嬉しそうに笑っていた。
「まさかここまで忙殺されるとは思っていなかったようですな、彼らも」
「でしょーね。多分、今回の投票数は7~8万を超えるんじゃないかしら」
「彼らにそれを集計できる能力がありますかね」
トレッドは肩をすくめ、こう続ける。
「投票数自体、『天政会』の指示で仕方なく算出している数字でしょう? 実際のところ、実数を無視した適当な数字でしたし」
「ま、そうね。前回までに出てた数字も、9割9分水増しって話だったし」
「それがどうだ、今回はここまで大勢押しかけてきたわけだ。彼らの処理能力では、本日中に開票しきるのは難しいでしょうね」
「そのためにも、あたしたちがテコ入れしてるのよ」
「ええ、分かっておりますとも」
通常であれば一部の関係者のみが細々投票していたこの選挙は、今回は王国各地から多数の国民が押し寄せた。
シエナたちの予想通り、今回の選挙の投票数は、王国としては異例の10万票を超える結果となった。
ちなみに前回の投票数は――「天政会」からの圧力による、公表時点での水増しを加えても――わずか400票足らずである。
この騒ぎは、これから起こる一大政変の幕開けとなった。
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