「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・堕天抄 5
麒麟を巡る話、第321話。
悪法の成立。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
議席の内容が一新されてすぐに会議が開かれることになり、第一議会は騒然としていた。
「いや、まさか私なんかが議席を得られるとは、思ってもみませんでした」
「いやいや、あの目障りな坊主共が割り込んでさえいなければ、こうなって当然でしょう」
議会の席から「天政会」筋の人間が一掃され、開会前の時点で既に、「天政会」排斥の雰囲気が漂っていた。
そして同時に――。
「しかし不気味なのは、あの白猫党だ」
「確かに。突然現れるなり、なんと69議席も手中に収めるとは」
王国側の議員たちにとっては、白猫党もまた、軽視できない存在であった。
「わしには不安でならんよ……。『天政会』がそのまま白猫党に代わっただけではないか、とな」
「何としてでも、この機会に我々の復権を成さねばなりませんな」
会議が始められ、すぐさま白猫党が議題を挙げた。
「我々は貴国の政治的安定を確立すべく、以下の法案を提言いたします。
まず、当議会のシステムについて確認いたしますが、前期まで事実上、当議会において多数派となっている派閥が舵取りを行い、それに則って執政を行っていたと、我々は認識しております。
この認識に間違いはございますか?」
党側の問いに、王国側の代表が応じる。
「その認識に、事実と異なる点は無いものと思われます」
「ご回答ありがとうございます。
しかしこれを容認する法律は定められていません。これは当議会における理念、貴国の安寧秩序の向上および維持と言う目標・目的に照らし合わせますと、この状態・状況を甚だ不安定にさせている要素、重大な原因ではないかと、我々は憂慮しております。
つきましてはこの権利・権限を明文化し、確固たる法として示すべきではないかと、我々は当議会に検討をお願いしたく存じます」
「……っ」
この提言に慌てたのは、わずかに残った「天政会」の議員たちである。これが通れば、彼らの発言権は完全に封殺されるからである。
「反対します!」
「理由をどうぞ」
「1つの派閥に権力を集中させることは、議会の存在をないがしろにするものであり、それは従来の王政と何ら変わりません! 議会と言うものの存在を鑑みれば、そのような法を制定すべきではありません!」
「しかし前期まで、多数派であるあなた方が議会の主導権を担っていたのは事実です。その事実を明文化し、あなた方の行為の正当性を認めようと、我々は述べているつもりです。
これを否定されるのであれば、あなた方はこの20年間における、王国での行為の一切を自ら否定することとなります」
「詭弁だ!」
「詭弁かどうかはともかく、この法案を否決するのであれば、あなた方がこれまで当議会において行ってきた行為は、法的根拠・制約の無いものであったことを認めることとなります」
あからさまに「天政会」を糾弾する白猫党の動きに、王国側も同じ始めた。
「そ……、そうだそうだ!」
「今まであんたたちがやってきたことだ!」
「今までしてきたことを無かったことにはさせんぞ!」
議会は一瞬、騒然としかけたが――。
「静粛にお願いします」
「あ、……うむ」
終始冷静な姿勢を見せた白猫党の対応により、場はあっさりと静まる。
結局、王国側と白猫党によって賛成多数となり、白猫党が提言したこの法案――議会内の多数派派閥が議会における最高権力を持つことを明文化した「議会与党委任法」は可決され、その日のうちに発効となった。
議会での経緯を夕刊の新聞で知ったマークは、さらに不安を覚えた。
(何て言うか……、確かにこの法案によって、晴れて王国側の人たちが合法的に参政できるようにはなったわけだけど、『天政会』から報復を受ける可能性を忘れてるんじゃないだろうか……?
いや、それよりも、……どうして白猫党は自分たちに利益の出ない、こんな法案を通したのか、すごく気になる。元々は『議席の過半数を』って言ってたんだから、この国で権力を手に入れようとしていたのは明白だ。
考えられることとしては……、これから王国の人たちに取り入って、連立的に政権を、……とか?)
新聞を眺めながら、ロビーのソファにもたれかかった、その時だった。
「違うよ」
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悪法の成立。
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5.
議席の内容が一新されてすぐに会議が開かれることになり、第一議会は騒然としていた。
「いや、まさか私なんかが議席を得られるとは、思ってもみませんでした」
「いやいや、あの目障りな坊主共が割り込んでさえいなければ、こうなって当然でしょう」
議会の席から「天政会」筋の人間が一掃され、開会前の時点で既に、「天政会」排斥の雰囲気が漂っていた。
そして同時に――。
「しかし不気味なのは、あの白猫党だ」
「確かに。突然現れるなり、なんと69議席も手中に収めるとは」
王国側の議員たちにとっては、白猫党もまた、軽視できない存在であった。
「わしには不安でならんよ……。『天政会』がそのまま白猫党に代わっただけではないか、とな」
「何としてでも、この機会に我々の復権を成さねばなりませんな」
会議が始められ、すぐさま白猫党が議題を挙げた。
「我々は貴国の政治的安定を確立すべく、以下の法案を提言いたします。
まず、当議会のシステムについて確認いたしますが、前期まで事実上、当議会において多数派となっている派閥が舵取りを行い、それに則って執政を行っていたと、我々は認識しております。
この認識に間違いはございますか?」
党側の問いに、王国側の代表が応じる。
「その認識に、事実と異なる点は無いものと思われます」
「ご回答ありがとうございます。
しかしこれを容認する法律は定められていません。これは当議会における理念、貴国の安寧秩序の向上および維持と言う目標・目的に照らし合わせますと、この状態・状況を甚だ不安定にさせている要素、重大な原因ではないかと、我々は憂慮しております。
つきましてはこの権利・権限を明文化し、確固たる法として示すべきではないかと、我々は当議会に検討をお願いしたく存じます」
「……っ」
この提言に慌てたのは、わずかに残った「天政会」の議員たちである。これが通れば、彼らの発言権は完全に封殺されるからである。
「反対します!」
「理由をどうぞ」
「1つの派閥に権力を集中させることは、議会の存在をないがしろにするものであり、それは従来の王政と何ら変わりません! 議会と言うものの存在を鑑みれば、そのような法を制定すべきではありません!」
「しかし前期まで、多数派であるあなた方が議会の主導権を担っていたのは事実です。その事実を明文化し、あなた方の行為の正当性を認めようと、我々は述べているつもりです。
これを否定されるのであれば、あなた方はこの20年間における、王国での行為の一切を自ら否定することとなります」
「詭弁だ!」
「詭弁かどうかはともかく、この法案を否決するのであれば、あなた方がこれまで当議会において行ってきた行為は、法的根拠・制約の無いものであったことを認めることとなります」
あからさまに「天政会」を糾弾する白猫党の動きに、王国側も同じ始めた。
「そ……、そうだそうだ!」
「今まであんたたちがやってきたことだ!」
「今までしてきたことを無かったことにはさせんぞ!」
議会は一瞬、騒然としかけたが――。
「静粛にお願いします」
「あ、……うむ」
終始冷静な姿勢を見せた白猫党の対応により、場はあっさりと静まる。
結局、王国側と白猫党によって賛成多数となり、白猫党が提言したこの法案――議会内の多数派派閥が議会における最高権力を持つことを明文化した「議会与党委任法」は可決され、その日のうちに発効となった。
議会での経緯を夕刊の新聞で知ったマークは、さらに不安を覚えた。
(何て言うか……、確かにこの法案によって、晴れて王国側の人たちが合法的に参政できるようにはなったわけだけど、『天政会』から報復を受ける可能性を忘れてるんじゃないだろうか……?
いや、それよりも、……どうして白猫党は自分たちに利益の出ない、こんな法案を通したのか、すごく気になる。元々は『議席の過半数を』って言ってたんだから、この国で権力を手に入れようとしていたのは明白だ。
考えられることとしては……、これから王国の人たちに取り入って、連立的に政権を、……とか?)
新聞を眺めながら、ロビーのソファにもたれかかった、その時だった。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
ワイマール共和国段階をすっ飛ばしての全体主義体制樹立作戦ですか。
白猫さんやりすぎのような気が(^^;)
先読みもできて作戦は完璧かもしれないけれど、
読めてないところから足元すくわれるんじゃないかなあ。
だいいち、勝ち戦が続くと敵を過小評価しがちだからなあ。ナポレオンもそれで帝位を失ったからなあ……。
白猫さんやりすぎのような気が(^^;)
先読みもできて作戦は完璧かもしれないけれど、
読めてないところから足元すくわれるんじゃないかなあ。
だいいち、勝ち戦が続くと敵を過小評価しがちだからなあ。ナポレオンもそれで帝位を失ったからなあ……。
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NoTitle
それが具体的にはどう言う政治・社会構築をしていくかは、
後々の展開をお楽しみに、と言うことで。
勝てる要素が揃っていれば揃っているほど、
ちょっとした失着から大敗を喫する。
盛者必衰ですね。