「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・逃狼抄 1
麒麟を巡る話、第323話。
夜が明けて。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
ガラスや床板の割れる音、扉を蹴る音、怒鳴り声――その度に銃声が数度響き渡り、そして静寂が訪れる。
「ひ……い……」
喧騒に怯み、窓を閉めるが、騒ぎはなお聞こえてくる。
(怖い……怖い、怖い……!)
マークは怯えていた。自分が投宿し、白猫党が本拠地にしていたホテルに、暴徒が幾度となく押しかけてきていたためである。
白猫党による政権奪取と同時に独裁状態となった後、議会を追われた貴族や白猫党に招かれなかった軍幹部、そして国王に信頼を寄せる市民などが団結し、実力行使で彼らを排除しようとした。
しかし白猫党も、自前の私兵――彼らは「党防衛隊」と呼んでいる――に加え、王国軍幹部らの大半を党員にしたことで事実上、王国軍を傘下に収めている。
白猫党に襲い掛かった暴徒たちは、党防衛隊と王国軍が合わさったこの大軍にことごとく返り討ちにされ、その結果、この2日でホテル周辺は修羅場と化していた。
(もう勘弁してくれ……! こんな狂乱が、いつまで続くって言うんだ!?)
マークは頭から布団を被り、ベッドの中で震えていた。
ホテルの2階から下には党防衛隊が配備され、ホテルに押し入った暴徒たちを次々に射殺していた。
「『預言者』によれば、今日が襲撃のピークよ。今日を凌げば、この騒ぎは鎮静化に向かうわ。みんな、油断しないで!」
「はい、総裁!」
党首シエナの応援を受け、党員たちの士気が上がる。
「まとめてかかって来い!」
「全員蜂の巣にしてやる!」
拳銃や小銃だけでは無く、最新鋭の重機関銃までも持ち出し、党員たちはホテルの床をさらに、赤く染め上げていった。
と――その様子を確認したところで、シエナは同じように横で状況を見守っていた幹部たちに、静かに手招きする。
「『預言者』から啓示があったわ。作戦会議よ」
「かしこまりました、総裁」
シエナたちは4階に上がり、会議室として使っている部屋へ向かった。
「みんないるわね?」
幹部全員が揃っていることを確認し、シエナは席に着く。
「それじゃ、今回の啓示について説明と指示を行うわね。
第1に、アタシたちが議会から追い出した『天政会』側の議員について。
『預言』では彼らは今後、天帝教直轄領、マーソルへ帰還した後に態勢を整え、『天政会』配下国を通じて威圧、および政権奪還を試みるそうよ。
この『預言』を実現させないよう、早急に元議員たちを排除すること」
「了解しました」
「第2に、現在の戦闘状況について。
アタシたちが政権奪取してから既に2日が経過し、襲撃も下火になり始めてる。もう一両日中には鎮静化するでしょうね。『預言者』もそう言ってたわ。
それを受けて、現在拘束中の王族から、自分たちの身柄解放および統治権についての話し合いの場を設けるよう、打診されるそうよ。
勿論コレに関しては、全面的にノーを突きつけるように。彼らの統治能力に任せては、王国は10年と持たないわ。『預言者』もコレは断言してる。
百歩譲って身柄を解放、軟禁状態に移すのはいいとしても、彼らには一切、政治に関わらせないように手を回してちょうだい」
「承りました」
「第3、現在このホテルにて保護および監視しているマーク・トラス殿下について。
今のところは外の状況に怯え、部屋に閉じこもってるみたいだけど、『預言者』によれば明日、逃亡を試みるそうよ。
今後の『新央北』側との政治的交渉を行う上で、彼はかなり重要な『カード』になる。ココで手放すわけには行かないわ。
監視の目を増やして、逃げ出さないよう見張ってて」
「分かりました」
「それから、……ああ、まあ、コレはいいわ」
シエナは4つ目の啓示については言わず、会議を締めた。
「これからの2日間が、我々がこの央北全土を掌握できるかどうかの分かれ目になるわ。
みんな、まだまだ気を抜けない局面は続くけど、頑張ってちょうだい」
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夜が明けて。
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ガラスや床板の割れる音、扉を蹴る音、怒鳴り声――その度に銃声が数度響き渡り、そして静寂が訪れる。
「ひ……い……」
喧騒に怯み、窓を閉めるが、騒ぎはなお聞こえてくる。
(怖い……怖い、怖い……!)
マークは怯えていた。自分が投宿し、白猫党が本拠地にしていたホテルに、暴徒が幾度となく押しかけてきていたためである。
白猫党による政権奪取と同時に独裁状態となった後、議会を追われた貴族や白猫党に招かれなかった軍幹部、そして国王に信頼を寄せる市民などが団結し、実力行使で彼らを排除しようとした。
しかし白猫党も、自前の私兵――彼らは「党防衛隊」と呼んでいる――に加え、王国軍幹部らの大半を党員にしたことで事実上、王国軍を傘下に収めている。
白猫党に襲い掛かった暴徒たちは、党防衛隊と王国軍が合わさったこの大軍にことごとく返り討ちにされ、その結果、この2日でホテル周辺は修羅場と化していた。
(もう勘弁してくれ……! こんな狂乱が、いつまで続くって言うんだ!?)
マークは頭から布団を被り、ベッドの中で震えていた。
ホテルの2階から下には党防衛隊が配備され、ホテルに押し入った暴徒たちを次々に射殺していた。
「『預言者』によれば、今日が襲撃のピークよ。今日を凌げば、この騒ぎは鎮静化に向かうわ。みんな、油断しないで!」
「はい、総裁!」
党首シエナの応援を受け、党員たちの士気が上がる。
「まとめてかかって来い!」
「全員蜂の巣にしてやる!」
拳銃や小銃だけでは無く、最新鋭の重機関銃までも持ち出し、党員たちはホテルの床をさらに、赤く染め上げていった。
と――その様子を確認したところで、シエナは同じように横で状況を見守っていた幹部たちに、静かに手招きする。
「『預言者』から啓示があったわ。作戦会議よ」
「かしこまりました、総裁」
シエナたちは4階に上がり、会議室として使っている部屋へ向かった。
「みんないるわね?」
幹部全員が揃っていることを確認し、シエナは席に着く。
「それじゃ、今回の啓示について説明と指示を行うわね。
第1に、アタシたちが議会から追い出した『天政会』側の議員について。
『預言』では彼らは今後、天帝教直轄領、マーソルへ帰還した後に態勢を整え、『天政会』配下国を通じて威圧、および政権奪還を試みるそうよ。
この『預言』を実現させないよう、早急に元議員たちを排除すること」
「了解しました」
「第2に、現在の戦闘状況について。
アタシたちが政権奪取してから既に2日が経過し、襲撃も下火になり始めてる。もう一両日中には鎮静化するでしょうね。『預言者』もそう言ってたわ。
それを受けて、現在拘束中の王族から、自分たちの身柄解放および統治権についての話し合いの場を設けるよう、打診されるそうよ。
勿論コレに関しては、全面的にノーを突きつけるように。彼らの統治能力に任せては、王国は10年と持たないわ。『預言者』もコレは断言してる。
百歩譲って身柄を解放、軟禁状態に移すのはいいとしても、彼らには一切、政治に関わらせないように手を回してちょうだい」
「承りました」
「第3、現在このホテルにて保護および監視しているマーク・トラス殿下について。
今のところは外の状況に怯え、部屋に閉じこもってるみたいだけど、『預言者』によれば明日、逃亡を試みるそうよ。
今後の『新央北』側との政治的交渉を行う上で、彼はかなり重要な『カード』になる。ココで手放すわけには行かないわ。
監視の目を増やして、逃げ出さないよう見張ってて」
「分かりました」
「それから、……ああ、まあ、コレはいいわ」
シエナは4つ目の啓示については言わず、会議を締めた。
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