「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・逃狼抄 3
麒麟を巡る話、第325話。
党からの逃亡。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
市街戦の勃発から3日が経過し――「預言者」による啓示の通りに――あれだけ激しかった襲撃は、急に鎮まり始めていた。
「分かり切ってるコトだけど、あえて分析するとすれば、コレは恐らく、相手側の人員の疲弊・死傷、それと物資の不足が原因ね。
平たく言えば、相手はもう戦える状態じゃないのよ」
「元々が市民や貴族、そして除け者にされた末端将校の集まりですからね。我々の装備と陣容をもってすれば、3日や4日防衛することなど、たやすいことです」
この日も幹部による会議が開かれ、シエナが今後の対応について指示を送った。
「と言うワケだから、マラガは残存勢力の掃討を。アローサもソレに同行し、残存勢力の中で、我が党に恭順する意思を示した者については武装を解除して連行した上で、然るべき地位もしくは処分を与えるコト」
「了解であります」
「分かりました」
党防衛隊隊長のエンリケ・マラガと、党員管理部長のミリアム・アローサは同時にシエナへ敬礼し、会議の場を後にしようとした。
「あ、マラガ」
と、それをシエナが呼び止める。
「はい」
「トラス殿下はどうしてる?」
「政権奪取から以後、ずっと寝室内に籠っているとの報告を受けております。いやはや、風雲児と称されたあのトラス王の子息にしてはいささか、臆病者であると……」「マラガ」
シエナはマラガをにらみ、発言をたしなめた。
「彼は人質である前に、アタシの友人よ。それを忘れないでちょうだい」
「……失礼いたしました」
2時間後――シエナの命令に従い、党防衛隊と党員管理部の者たちが、ホテルを出た。
(あれ……?)
この時、静かになった外を恐る恐る眺めていたマークは、この一行を目にし、彼らの身に何も起こらないことをいぶかしんでいた。
(白猫党の徽章や腕章を付けて、あんなに堂々と歩いてるのに、襲撃を受けるどころか、誰も寄ってすら来ないなんて……?
いや、そもそもつい昨日まで、あれほど銃弾が飛び交っていたのに、今日はまだ、一発も銃声が聞こえない。
もしかして、国民側はもう、襲撃を諦めたんだろうか? ……だとしたら)
マークは音を立てないよう、こそこそと荷物をまとめ、窓を覆うカーテンを裂き、長いロープを作った。
(多分、この状況になっても、僕が平然と外に出ることはできないだろう。2階から降りようものなら、即座に止められる。『まだ安全が確認できない』とか何とか言われて。
だって、明らかだもの。白猫党が僕を拘束しようとしているのは、間違い無い。でなければ、あんなに執拗に手紙を送ってきたり、半ば強制的にホテルに泊めたりなんてしない。
党は恐らく、父上の言っていた通り、僕を党に引き込むか、さもなくば今後『新央北』へ攻め入る際の足がかりにしようとしているか、そう言う類の意図を持っているんだ。
それは父上同様、決して容認・看過できない話だ。この街の惨状を見れば、そうとしか判断できない。もしこのまま僕が白猫党に取り込まれるようなことがあれば、いつかはトラス王国が、この国と同じ目に遭う。
逃げよう。このままこのホテルに留まっていたらいずれ、党に入れられることになる。
……アオイさんと、ちゃんと話ができなかったのは残念だけど、睡眠発作症を患っているって話だったし、こっちから話をしようとしても、多分できないだろう。未練は無いな)
かばんを背中に括りつけ、マークはもう一度、窓の外を確認する。
(人の姿は無い。今なら脱出できるかも)
マークはベッドにカーテンの一端を巻きつけ、もう一端を窓の外に垂らして、それを掴んで窓の外に出た。
この時、マークの体重は51キロであり、16歳・164センチの少年としては、少々軽めと言える。
しかしこれにかばんの重さ2キロ半を足した総重量は、カーテンで作った間に合わせのロープには到底、耐えられるものではなかった。
「……えっ」
3階から2階部分へと下った辺りで、びり……、と布が裂ける音が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっ、まっ」
待って、と言う間もなく――カーテンは無常にも千切れ、マークを空中へ放り出した。
「うわっ、わっ、わああああー……ッ!」
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党からの逃亡。
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3.
市街戦の勃発から3日が経過し――「預言者」による啓示の通りに――あれだけ激しかった襲撃は、急に鎮まり始めていた。
「分かり切ってるコトだけど、あえて分析するとすれば、コレは恐らく、相手側の人員の疲弊・死傷、それと物資の不足が原因ね。
平たく言えば、相手はもう戦える状態じゃないのよ」
「元々が市民や貴族、そして除け者にされた末端将校の集まりですからね。我々の装備と陣容をもってすれば、3日や4日防衛することなど、たやすいことです」
この日も幹部による会議が開かれ、シエナが今後の対応について指示を送った。
「と言うワケだから、マラガは残存勢力の掃討を。アローサもソレに同行し、残存勢力の中で、我が党に恭順する意思を示した者については武装を解除して連行した上で、然るべき地位もしくは処分を与えるコト」
「了解であります」
「分かりました」
党防衛隊隊長のエンリケ・マラガと、党員管理部長のミリアム・アローサは同時にシエナへ敬礼し、会議の場を後にしようとした。
「あ、マラガ」
と、それをシエナが呼び止める。
「はい」
「トラス殿下はどうしてる?」
「政権奪取から以後、ずっと寝室内に籠っているとの報告を受けております。いやはや、風雲児と称されたあのトラス王の子息にしてはいささか、臆病者であると……」「マラガ」
シエナはマラガをにらみ、発言をたしなめた。
「彼は人質である前に、アタシの友人よ。それを忘れないでちょうだい」
「……失礼いたしました」
2時間後――シエナの命令に従い、党防衛隊と党員管理部の者たちが、ホテルを出た。
(あれ……?)
この時、静かになった外を恐る恐る眺めていたマークは、この一行を目にし、彼らの身に何も起こらないことをいぶかしんでいた。
(白猫党の徽章や腕章を付けて、あんなに堂々と歩いてるのに、襲撃を受けるどころか、誰も寄ってすら来ないなんて……?
いや、そもそもつい昨日まで、あれほど銃弾が飛び交っていたのに、今日はまだ、一発も銃声が聞こえない。
もしかして、国民側はもう、襲撃を諦めたんだろうか? ……だとしたら)
マークは音を立てないよう、こそこそと荷物をまとめ、窓を覆うカーテンを裂き、長いロープを作った。
(多分、この状況になっても、僕が平然と外に出ることはできないだろう。2階から降りようものなら、即座に止められる。『まだ安全が確認できない』とか何とか言われて。
だって、明らかだもの。白猫党が僕を拘束しようとしているのは、間違い無い。でなければ、あんなに執拗に手紙を送ってきたり、半ば強制的にホテルに泊めたりなんてしない。
党は恐らく、父上の言っていた通り、僕を党に引き込むか、さもなくば今後『新央北』へ攻め入る際の足がかりにしようとしているか、そう言う類の意図を持っているんだ。
それは父上同様、決して容認・看過できない話だ。この街の惨状を見れば、そうとしか判断できない。もしこのまま僕が白猫党に取り込まれるようなことがあれば、いつかはトラス王国が、この国と同じ目に遭う。
逃げよう。このままこのホテルに留まっていたらいずれ、党に入れられることになる。
……アオイさんと、ちゃんと話ができなかったのは残念だけど、睡眠発作症を患っているって話だったし、こっちから話をしようとしても、多分できないだろう。未練は無いな)
かばんを背中に括りつけ、マークはもう一度、窓の外を確認する。
(人の姿は無い。今なら脱出できるかも)
マークはベッドにカーテンの一端を巻きつけ、もう一端を窓の外に垂らして、それを掴んで窓の外に出た。
この時、マークの体重は51キロであり、16歳・164センチの少年としては、少々軽めと言える。
しかしこれにかばんの重さ2キロ半を足した総重量は、カーテンで作った間に合わせのロープには到底、耐えられるものではなかった。
「……えっ」
3階から2階部分へと下った辺りで、びり……、と布が裂ける音が聞こえてきた。
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