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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・逃狼抄 4

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    麒麟を巡る話、第326話。
    救出者の登場。

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    4.
     落ちていくその瞬間、マークの脳裏に様々な記憶が蘇ってくる。
     幼い頃から見てきた、ひょうきんな父の顔。あまり感情を表さず、常に薄く笑っていた、母の半顔。
     8歳の頃、怪我をした自分に治療術をかけてくれた、母――いや、母に似ているが――。
    (……あれ?)
     地面へ激突するかと言うその刹那、マークの脳内は記憶の彼方に一瞬浮かんだ、その猫獣人のことで一杯になった。
    (誰だっけ……? 母上に、似ている。でも母上じゃない。
     だって、顔が全部ある。そうだ、僕はあの人の顔を見て、きっと母上が顔をすべて取り戻したら、こんな凛々しい顔になるだろうって、そう思ったんだ。
     だから僕は、再生医療術の道を志した。きっと母の顔を、あの人のように、してみせるって、だから、アオイさんの、でも、今、ダメ、会えない、逃げ、……落ちる……ッ)
     マークの眼前に、血と硝煙で汚れた地面が迫ってきた。

     が――あと1メートルで衝突するかと言うところで、がくん、と体に衝撃が走った。
    「うげ……っ、……え?」
     自分の代わりにかばんが落ち、中身が地面にぶち撒けられる。
    「……な、なに? なんで?」
    「マーク、君がこんな無茶をするなんて思ってなかった。ゼミにいたあの時は」
     上から声が聞こえてくる。
     マークが顔を上げると、そこには淡い水色の髪の、長耳の少年が浮かんでいた。
    「……フィオ、くん? フィオリーノ・ギアト?」
    「そうだよ、フィオだ。……重たいから下ろすよ」
    「あ、う、うん」
     ゆっくりと着地し、マークは角がへこんだかばんを手に取りながら、まだ空中に浮いたままのフィオに尋ねた。
     フィオが浮いているのは魔術によるものかと思ったが、よく見れば彼の腰からホテルの屋上にかけて、鋼線が伸びている。
     どうやら屋上から飛び降り、落下しかけたマークをつかんでくれたらしい。
    「助けてくれたの?」
    「この行為を助けるって、君は言わないのか?」
    「いや、言うよ。ありがとう、フィオくん。でも今、僕は疑心暗鬼なんだ」
     マークがかばんの中身を拾い集めたところで、フィオも腰の鋼線を外し、着地する。
    「僕が白猫党の一員かも、ってこと? それなら答えはノーだ。僕は純粋に、君を助けるためにここに来たんだ」
    「助けに?」
     マークはその返答に、腑に落ちないものを感じた。
    「どう言うこと? 僕がここに閉じ込められてたこと、知ってたの?」
    「それは後で説明するよ。君の落としたかばんの音で多分、党員は君が逃げたことに気付く。囲まれる前に逃げよう」
    「あ、……そうだね、うん」
     マークは留め金が壊れたかばんを抱え、フィオとともに、その場から走り去った。



     王国首都、クロスセントラルから離れ、郊外の森林地帯に到達したところで、二人は立ち止まった。
    「はぁ、はぁ……。ここまで来れば多分、安全だろう」
    「ぜぇ、ぜぇ……、ねえ、フィオくん」
     マークは気になっていたことを、フィオに尋ねる。
    「さっきの話だけど、どうして僕があそこにいると知ってたのさ? 僕のことを監視したり、尾行したりしていた、ってこと?」
    「いや」
     と、フィオは大きく首を振り、否定した。
    「君がここに来ることは知っていたんだ。そして『僕の知識』では、君は今日死んでいたはずなんだ」
    「え?」
    「それが『元々の流れ』なんだ」
    「どう言うこと?」
     尋ねられたフィオは一瞬困った顔をしたが、やがて意を決したように、語り始めた。
    「まず、僕がこれからする話はすべて本当だと言うことを、分かってほしい。嘘はひとつも無い。
     僕の母は、とてつもない魔術を発明したんだ。それは時間の跳躍――究極の魔術だ。だけどそれは、単純な学術的興味や、ファンタジックな妄想から作られたんじゃない。必要に迫られて作り上げたものなんだ。
     過去に誰かを送り込む。そう言う必要があったから。そして送られたのは、僕だった」
    「えっ……?」
     突拍子も無い話に、マークは言葉を失う。
    「僕の母がそんな魔術を作り上げたのは、僕が元いた世界が、壊滅的被害を受けていたからだ。
     そう、アオイ・ハーミットによって」
    「アオイさんによって? アオイさんが、何をしたと?」
     マークの言葉に、フィオは表情を暗くする。
    「白猫党だよ。彼らはアオイの指示の下、この中央大陸各地で戦争を繰り広げた。まずはこの央北全土を掌握し、続いて央中を攻め、果てには西方や央南にも戦火を広げた。
     僕らの時代では、その大戦禍を『世界大戦』と呼んでいる。まさに世界的な戦争だった。そしてその戦争は、結果的には白猫党の勝利で終わる。でもあまりにも被害が大きすぎたために、白猫党はその責任を巡って内部分裂を起こし、彼らも自壊する。
     後に残ったのはアオイただ一人だ。彼女はその荒廃した世界において、女王として君臨するのさ」
    「そんな……」
    「嘘じゃないと言ったはずだ」
     フィオは自分の持っていたかばんから、何枚かの写真を取り出した。
    「……っ」
     フィオから手渡されたその写真には、今より大分年を取った葵が、どこかの玉座に座っている様子が写されていた。
     だが――その背後にもう一人、銀髪の猫獣人が立っている。写真の中の、葵のうつろな顔とあいまって、それはまるで、その「猫」が彼女を操っているようにも見えた。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    組織というものは大きくなってくると、
    何かしら狂気が生まれてくるようで。
    少なくともこれまでの「白猫夢」中において、
    集まって群れた挙句、暴挙に出る奴らは枚挙に暇がありません。

    フィオ一人じゃ、確かに無理。
    もっと仲間を集めなきゃ、返り討ちは目に見えてます。
    その辺りも今後の楽しみ、と言うことで。

    NoTitle 

    ナチスかと思ったらオ○ムでしたか。カルトというものは怖いですのう……。

    しかも最終戦争ネタを持ってきましたか。でもこの包囲網、フィオくんがターミネーターばりの戦闘力を持ってないと突破できないんじゃないかなあ……。

    次回が楽しみです。「君は生き延びることができるか」(ガンダム)
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