黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狷狼録 6

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    晴奈の話、第151話。
    追う猫、追われる狼。

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    6.
    「さあ、早く連行しろ!」
     勝ち誇り、ウィルバーを指差し罵っていたワルラスは、ようやくやって来た猫獣人の僧兵たち2名に指示を出す。
    「おい、待てよ、オレは何も……」
    「ええい、黙れ黙れ!
     われわれは実際に、この眼で猊下が落とされるのを見たのだ! 何をどう言い訳しようとも、お前の犯行は明白! 大人しくしろッ!」
    「んな、バカな……!」
     ウィルバーは呆然としたまま、僧兵たちに腕をつかまれた。
     と、その時。
    「ワルラスぅぅぅ……!」
     崖の方から、怨嗟に満ちた声がする。その場にいた全員が、その声にぎょっとする。
    「お……、親父!?」
     なぜならその声は教団教主、ウィリアムのものだったからだ。

     ゆっくりと、浮き上がってくる。
     少し薄くなった頭、狼耳、驚きに満ちた目、怒りに震える唇――ウィリアムは大火に抱きかかえられる形で、展望台に戻された。
    「お、あ、……兄上、ご無事でしたか」
    「何を、白々しい……! 事の次第を、すべて聞いたぞ!」
    「は、い……?」
     ウィリアムは大火から離れ、ワルラスに詰め寄りまくし立てる。
    「ウィルを操って、私に手をかけたと言うではないか!」
    「な、何のことですか! 兄上、あなた自身、ウィルに突き飛ばされたでしょう!?」
    「その、後のことだが」
     大火が、ワルラスの弁解をさえぎる。
    「なぜ、笑った? 自分の兄の惨死を目の当たりにして笑い出すなど、まともな事情がありそうには、思えんがな」
    「……何だと?」
     大火の指摘を受けたワルラスは彼を――目の前にいるのが自分たちの崇める神だとは、毛ほども気付いていないらしく――睨み、指差し、怒鳴りつける。
    「な、何だ、貴様はっ!? いきなりしゃしゃり出て、何を勝手なことを言う!?
     ……そっ、そうか、この事件は貴様が仕組んで、ぼ、傍観していたのだな!?」
    「クク……、頭は良く回るが、苦しい言い逃れだな」
     大火はニヤ、と笑いながら、懐に手をやる。
    「これを残しておくとは、策士としてはあまりにも愚かでは無いのか?」
     大火は懐から、紙束を取り出す。それを見たウィリアムが尋ねる。
    「何ですか、それは?」
    「こいつの暗殺計画書……」「馬鹿な! それは焼い……、ッ!」
    「クク、策略家の弱点だな。思いもよらないことが起こると、面白いようにボロが出る。
     まあ、俺が出張ることなど――『神様が助けてくれる』などと想定する方が、普通は愚かなのだが、な」
     大火は笑いながら、紙束をウィリアムに渡す。読み上げたウィリアムが、目を丸くした。
    「『狐雑貨・小物店 毎週火・氷曜定休』、……チラシ、ですか」
    「どう見ても暗殺計画書には見えんな、クク」
     暗殺計画が露見し、ワルラスの顔色は真っ青になっている。
     そしてウィリアムを助けたこの真っ黒な男の正体にも、ようやく気付いたようだ。
    「まさか、貴様は……!?」
     指差したまま震え出すワルラスを見て、大火はニヤリと笑った。
    「おや、ようやく気付いたか。そうとも、俺は克大火――この黒炎教団で、神と呼ばれる男だ」
    「ひ……」
    「これでお前も終わりだな。教主の暗殺を企て、神に弓引いたのだからな、クククク」
     ワルラスはようやく大火を指していた指を下ろし、黙り込む。
    「さあ、どうする? 大人しく獄に入って余生を閉じるか? それとも潔く磔刑になって罪をあがなうか? 好きな方を選べ」
    「……く」
     ワルラスの目は血走り、脂汗がとめどなく流れている。どう見ても、窮地に立たされ絶望した者の顔だ。
     だがそれでも策士の端くれらしく、素早く呪文を唱えた。
    「……『ホワイトアウト』、さらばだッ!」
     ボン、と言う音と共に、白い煙が辺りに充満する。
    「待て、ワルラス! 逃げる気か!」
     ウィリアムが叫ぶが、ワルラスは足を止めない。
    「当たり前だ! 私はこんなところで幕を下ろす気など、微塵も無い!」
     煙はほんの4、5秒ほどで薄れていく。そのわずかな間に、ワルラスは展望台から姿を消していた。
     そしてほぼ同時に、ウィルバーのいた辺りから、どさ、と言う重たい音が聞こえる。そこにいた全員が振り向くと、倒れたウィルバーの姿があった。
     彼を拘束していた僧兵も、大火も、いつの間にか姿を消していた。



     僧兵服を着て展望台に紛れ込んでいた晴明姉妹は、ワルラスが煙幕を使って逃げた直後――とりあえず、拘束していたウィルバーが余計なことをしないように殴り倒しておいて――その後を追いかけていた。
    「待て、ワルラス! 往生際が悪いぞ!」
    「はッ、私はまだ、死ぬ予定など無い! 往生際も何も、あるものか!」
     ワルラスもなかなかの実力者らしく、逃げながら魔術で攻撃してくる。それを明奈が防御魔術で防ぐ間に晴奈が叫ぶと言う追いかけっこを、ひたすら続けていた。
     そのうちに黒狼殿を抜け、北大聖堂、修練所を通り、僧兵用の宿舎に達する。
    「頭でっかちの、うらなり風と、見ていたが、流石『狼』か。よくもまあ、ここまで止まらず、走り通したものだ」
    「お姉さま、提案が、あります」
     明奈は追いかけながら、晴奈に提案する。
    「何だ?」
    「挟み撃ちは、いかがでしょう? この方向だと、南聖堂を横切ると、思います。わたしが回りこんで、そこで足止めします。お姉さまはそのまま、追いかけてらして」
    「ふむ……、よし、それで行こう」
     晴奈は明奈と分かれて、追跡を続行した。

     そして明奈の言う通り、程なく黒鳥宮南側の大聖堂にたどり着く。
    「ハァ、ハァ……し、しつこい、『猫』め……」
     ここでようやく、ワルラスに疲れの色が見えた。眼鏡がずり落ち、整えた髪もクシャクシャに乱れている。その反面、晴奈は汗こそかいたものの、ほとんど息切れしていない。
     と、聖堂南側の出入り口から明奈が飛び込んできた。良く似た顔立ちの「猫」たちに囲まれ、ワルラスは憎々しげにうめいた。
    「う……ぐぅ……」
    「さあ観念しろ、ワルラス!」
     晴奈は刀を抜き、ワルラスに向かって構えた。

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    2010.06.03 加筆修正
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