「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・逃狼抄 5
麒麟を巡る話、第327話。
央北征服計画。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「未来――いや、もう変化は起こってるから、『元の世界』とでも言った方が適切なのかな」
マークは写真をフィオに返し、話の続きを聞くことにした。
「まず、今日。双月歴566年3月3日、午後。
君、マーク・トラスはあのホテルから転落し、即死した。しかしその事実は白猫党によって隠され、君は白猫党党員に仕立て上げられる。その『影武者』に言われるがままトラス王国は操作され、最終的に『新央北』の勢力圏はそっくり、白猫党のものになる。
一方で今回のクーデターによりヘブン王国は陥落し、王国を牛耳っていた『天政会』議員も全員、暗殺されている。
これについては、君の場合とは逆に、大々的に公表されることになる」
「え……、どうして?」
「公表された方が、『天政会』にとっては結局、都合が悪いからさ。
105名もの犠牲者を出した以上、通常の国家であれば何らかの報復を行うことになる。しかし『天政会』にはそれができない。『天政会』自体には軍事組織が無いから、報復するとなれば傘下にある国から、軍を引っ張ってこなきゃならない。
しかしそれをすれば、その国に対して『借り』を作ることになるし、報復行動中は軍部の意見を大なり小なり聞き入れる必要も生じる。それは『天政会』にとって、傘下国に対する大きな弱み、隙を作ることになる。それ故に、絶対的上位に立ちたがる『天政会』は報復策を取りたがらないんだ。
でも、かと言って百を超える人的被害、一国を失う政治的被害を被っておいて何もしない、動かないなんて言うんじゃ、それこそ体制維持に関わる。傘下国からも不興を買うだろうし、何かしら行動を起こさなきゃいけない。
その焦り、ジレンマで身動きできなくなっているところを、白猫党は密かに襲撃する。その結果、『天政会』は瓦解する。
そして関係を解消した各国は順次、白猫党の傘下に収められていくことになり……」
「『新央北』と『天政会』の両陣営の掌握――それが央北全土の、征服」
「そう言うことさ。
だけどもう、その未来は訪れない。何故なら君が、生きているからだ」
「僕が……?」
「君が生きている以上、白猫党が君を騙ってトラス王を操ることはできないからさ。
それどころか、君がトラス王国に戻り、ヘブン王国の惨状をトラス王に伝えれば、トラス王はきっと白猫党を『新央北』圏内に入れさせないよう、全力で対策を講じるはずだ。彼の政治力を以ってすれば、それは容易だろう」
「うん、確かに。父上なら、やろうと思えばやってくれるはずだ」
「と言うわけで」
フィオは立ち上がり、マークに手を差し伸べた。
「次は君を、故郷に送る。そしてこの現状を伝えて欲しい。
彼らの計画は、決して実現させてはいけないんだ。そのために僕は、未来から送り込まれたんだ」
「……分かった。
息も大分整ってきたし、そろそろ行こう」
フィオを先頭にし、マークがそれに付いていく形で、二人は森を進む。
「フィオくん、……は」
「ん?」
その途中、マークがぽつぽつと尋ねる。
「未来人なんだよね?」
「そうだ」
「どれくらい未来から?」
「さっき、アオイの写真を見たろ?」
「うん。30歳くらい……、に見えた」
「それくらい先ってことさ」
それを受けて、マークはゼミ時代の記憶をたどる。
「今、……確かアオイさんは、19歳だったから」
「そうだ。もっともあの写真の時代のアオイは、魔術で肉体年齢をある程度いじってるだろうけど、だからってそんなに遠い話じゃない。
大体、僕が生まれたのが……」
と、ここでフィオが立ち止まる。
「……マーク。僕には色々やらなきゃいけないことがあるし、だから当然、ここで死にたくは無い。
でも万が一、僕が死ぬことがあったら、君が遺志を継いでくれ」
「え?」
「囲まれた。まずいかも知れない」
その言葉と同時に、前後左右からガサガサと音を立て、軽機関銃を手にした党員たちが現れた。
「よお、マーク。……それからそっちは、もしかしてフィオか?」
と、その先頭に立つ形で、赤いメッシュが入った金髪の狐獣人が現れた。
「君は……」
「久しぶりやなぁ、1年ぶりくらいか?」
「……っ」
白猫党の党章を付けたその狐獣人――かつての同窓生、マロがニヤニヤと笑いながら、二人の前に立ちはだかった。
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央北征服計画。
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「未来――いや、もう変化は起こってるから、『元の世界』とでも言った方が適切なのかな」
マークは写真をフィオに返し、話の続きを聞くことにした。
「まず、今日。双月歴566年3月3日、午後。
君、マーク・トラスはあのホテルから転落し、即死した。しかしその事実は白猫党によって隠され、君は白猫党党員に仕立て上げられる。その『影武者』に言われるがままトラス王国は操作され、最終的に『新央北』の勢力圏はそっくり、白猫党のものになる。
一方で今回のクーデターによりヘブン王国は陥落し、王国を牛耳っていた『天政会』議員も全員、暗殺されている。
これについては、君の場合とは逆に、大々的に公表されることになる」
「え……、どうして?」
「公表された方が、『天政会』にとっては結局、都合が悪いからさ。
105名もの犠牲者を出した以上、通常の国家であれば何らかの報復を行うことになる。しかし『天政会』にはそれができない。『天政会』自体には軍事組織が無いから、報復するとなれば傘下にある国から、軍を引っ張ってこなきゃならない。
しかしそれをすれば、その国に対して『借り』を作ることになるし、報復行動中は軍部の意見を大なり小なり聞き入れる必要も生じる。それは『天政会』にとって、傘下国に対する大きな弱み、隙を作ることになる。それ故に、絶対的上位に立ちたがる『天政会』は報復策を取りたがらないんだ。
でも、かと言って百を超える人的被害、一国を失う政治的被害を被っておいて何もしない、動かないなんて言うんじゃ、それこそ体制維持に関わる。傘下国からも不興を買うだろうし、何かしら行動を起こさなきゃいけない。
その焦り、ジレンマで身動きできなくなっているところを、白猫党は密かに襲撃する。その結果、『天政会』は瓦解する。
そして関係を解消した各国は順次、白猫党の傘下に収められていくことになり……」
「『新央北』と『天政会』の両陣営の掌握――それが央北全土の、征服」
「そう言うことさ。
だけどもう、その未来は訪れない。何故なら君が、生きているからだ」
「僕が……?」
「君が生きている以上、白猫党が君を騙ってトラス王を操ることはできないからさ。
それどころか、君がトラス王国に戻り、ヘブン王国の惨状をトラス王に伝えれば、トラス王はきっと白猫党を『新央北』圏内に入れさせないよう、全力で対策を講じるはずだ。彼の政治力を以ってすれば、それは容易だろう」
「うん、確かに。父上なら、やろうと思えばやってくれるはずだ」
「と言うわけで」
フィオは立ち上がり、マークに手を差し伸べた。
「次は君を、故郷に送る。そしてこの現状を伝えて欲しい。
彼らの計画は、決して実現させてはいけないんだ。そのために僕は、未来から送り込まれたんだ」
「……分かった。
息も大分整ってきたし、そろそろ行こう」
フィオを先頭にし、マークがそれに付いていく形で、二人は森を進む。
「フィオくん、……は」
「ん?」
その途中、マークがぽつぽつと尋ねる。
「未来人なんだよね?」
「そうだ」
「どれくらい未来から?」
「さっき、アオイの写真を見たろ?」
「うん。30歳くらい……、に見えた」
「それくらい先ってことさ」
それを受けて、マークはゼミ時代の記憶をたどる。
「今、……確かアオイさんは、19歳だったから」
「そうだ。もっともあの写真の時代のアオイは、魔術で肉体年齢をある程度いじってるだろうけど、だからってそんなに遠い話じゃない。
大体、僕が生まれたのが……」
と、ここでフィオが立ち止まる。
「……マーク。僕には色々やらなきゃいけないことがあるし、だから当然、ここで死にたくは無い。
でも万が一、僕が死ぬことがあったら、君が遺志を継いでくれ」
「え?」
「囲まれた。まずいかも知れない」
その言葉と同時に、前後左右からガサガサと音を立て、軽機関銃を手にした党員たちが現れた。
「よお、マーク。……それからそっちは、もしかしてフィオか?」
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今日の旅岡さん

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NoTitle
うわあ、きっつい展開になってきたなあ。序盤の学園物が、ここにきてボディブローみたいに効いてきた感じ。
何人死ぬんだこの話!(^^;)
何人死ぬんだこの話!(^^;)
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NoTitle
「白猫夢」後半はハードな展開が続く予定となっています。
前半部も結構醜い展開がありましたが……。
主要人物も、少なからず亡くなるだろうと考えています。
ただ、現時点でマークとフィオは死なないだろうな、とも。