「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・逃狼抄 7
麒麟を巡る話、第329話。
猫とドレス。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「え……?」
目の前に現れたその猫獣人に、マークは既視感を覚えていた。
「なんや、お前……! 自殺するんやったら他を当たれ! こっちゃ忙しいんじゃ、ボケ!」
顔に布を当てたまま、マロが怒鳴る。
しかし猫獣人の方は意に介する様子もなく、こう返した。
「死ぬのはアンタよ。あたしを相手にすれば、だけど」
「は……!?」
マロは怒りに任せ、党員たちに命じる。
「構うな、殺せッ!」
「了解!」
党員たちは軽機関銃を構え、猫獣人と、その横に立つ派手なドレスの女性に向けて発砲した。
しかしその手前で、銃弾はことごとく弾かれる。
「……チッ、『マジックシールド』か! けったいな術使いよって」
弾丸が弾かれたのを見て、マロが怒鳴る。
「やめ、やめっ! 撃つな撃つな! 今解呪したるから……」
マロは顔に手を当てたまま、呪文を唱える。
この時顔半分以上が布で覆われており、彼の視界は非常に狭くなっていた。それに加え、呪文に集中したこともあってか――猫獣人は彼のすぐ眼前にまで、やすやすと迫ることができた。
「……えっ」
「アンタ、間抜けね」
猫獣人がそう言い放った次の瞬間、マロは3メートルは弾き飛ばされ、背後の木に叩きつけられていた。
「ごっ、……」
マロは木の根元にうずくまったまま、ピクリとも動かなくなる。どうやら気を失ったらしい。
「こっ、このっ」
残る党員らが軽機関銃を向けたが、猫獣人は依然、意に介した様子を見せない。
「マーク。それから……、誰かしら」
「……フィオだ。あなたは?」
「あたしのことは後でいいわ。マークとフィオ、二人ともこっちに来なさい」
言われるがまま、マークたちは猫獣人の方へ歩み寄る。
「う、動くな! 動くと撃つぞ!」
猫獣人に気圧されつつもなお、党員たちは銃を構える。
それを見て、猫獣人ははーっ、と呆れ気味にため息をついた。
「パラ。殺さない程度にはフッ飛ばしていいわ」
「承知いたしました」
猫獣人に命じられ、パラと呼ばれたドレスの女性はしゃなりとお辞儀を返し、ぼそ、と何かを唱えた。
「うわあ……っ」「ぐえ……っ」
突然、党員たちがほとんど真上に向かって飛んで行く。まるではるか上空から釣り上げられたかのように、次々と姿を消す。
10秒もしないうちに、そこにはマークたちと猫獣人、そしてパラと、未だ気を失ったままのマロだけになった。
「な、なにを……?」
唖然としているマークの問いに、フィオが彼女たちの代わりに答えた。
「高出力の風術だ。下から上に突き上げるように、吹き上げさせたんだろう」
「ご明察で……」「パラ」
恭しくお辞儀をしかけたパラを、猫獣人が咎めた。
「もっと簡単でいいって言ったでしょ。誰に対しても慇懃なのは却って無礼よ」
「失礼いたしました」
パラは猫獣人にぺこ、と頭を下げ、マークたちにこう言い直した。
「当たりです」
「……ぷっ」
妙に三文芝居じみたパラの挙動に、マークは思わず噴き出した。
5分後――マロが目を覚ます頃には、既に彼らの姿は無かった。
「つまり、取り逃がしたと言うわけか」
さらに1時間後、マロは白猫党幹部から詰問を受けていた。
「わざわざ財務対策本部長、即ち本来ならばこんな現場作業に携わる必要のない君が出張っておいて、そしてその結果、死者は出さないまでも部隊を全滅させた、と」
中心的にマロを問いただしているのは党幹事長、エルナンド・イビーザである。
「……間違いありまへん」
党内の階級ではマロよりイビーザの方が高く、マロは叱られた犬のようにしょんぼりとしていた。
「はっきり言おう。君は阿呆だ」
「言葉もありまへん」
「無い? 言ってもらわなければ困る。君の権限に無い行為をしてくれた上に、本来出るはずのない被害を出したのだから、それなりに言い繕ってもらわねば。
でなければ即、除名だ」
「いや、それは……」「イビーザ」
と、党首シエナが口を挟む。
「構わないわよ」
「と仰いますと?」
「釈明の必要は無い、ってコトよ。『預言者』から既に、こうなるコトは聞いていたもの」
「へっ?」「何ですって?」
シエナの言葉に、マロもイビーザも、目を丸くする。
「閣下、何故それを我々に教えて下さらなかったのです?」
「『預言者』からそう託ったからよ。『言っても未来が変わるわけじゃないし、この啓示を無視した分、マロの処分が重くなるだけだ』ってね。
だから既にゴールドマン、あなたの処分は決定しています。あなたが行動を起こす前から」
「と言うと……」
かつての同窓生から乞うような目で見つめられたシエナは、軽いため息とともにこう返した。
「給与3ヶ月分のカット。この分の給与は今回あなたの指示によって傷害を負った党員たちへ、特別手当として支給します」
「う……、分かりました」
苦い顔をするが、マロはそれ以上抗弁することも無く、その処分を受け入れた。
白猫夢・逃狼抄 終
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猫とドレス。
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7.
「え……?」
目の前に現れたその猫獣人に、マークは既視感を覚えていた。
「なんや、お前……! 自殺するんやったら他を当たれ! こっちゃ忙しいんじゃ、ボケ!」
顔に布を当てたまま、マロが怒鳴る。
しかし猫獣人の方は意に介する様子もなく、こう返した。
「死ぬのはアンタよ。あたしを相手にすれば、だけど」
「は……!?」
マロは怒りに任せ、党員たちに命じる。
「構うな、殺せッ!」
「了解!」
党員たちは軽機関銃を構え、猫獣人と、その横に立つ派手なドレスの女性に向けて発砲した。
しかしその手前で、銃弾はことごとく弾かれる。
「……チッ、『マジックシールド』か! けったいな術使いよって」
弾丸が弾かれたのを見て、マロが怒鳴る。
「やめ、やめっ! 撃つな撃つな! 今解呪したるから……」
マロは顔に手を当てたまま、呪文を唱える。
この時顔半分以上が布で覆われており、彼の視界は非常に狭くなっていた。それに加え、呪文に集中したこともあってか――猫獣人は彼のすぐ眼前にまで、やすやすと迫ることができた。
「……えっ」
「アンタ、間抜けね」
猫獣人がそう言い放った次の瞬間、マロは3メートルは弾き飛ばされ、背後の木に叩きつけられていた。
「ごっ、……」
マロは木の根元にうずくまったまま、ピクリとも動かなくなる。どうやら気を失ったらしい。
「こっ、このっ」
残る党員らが軽機関銃を向けたが、猫獣人は依然、意に介した様子を見せない。
「マーク。それから……、誰かしら」
「……フィオだ。あなたは?」
「あたしのことは後でいいわ。マークとフィオ、二人ともこっちに来なさい」
言われるがまま、マークたちは猫獣人の方へ歩み寄る。
「う、動くな! 動くと撃つぞ!」
猫獣人に気圧されつつもなお、党員たちは銃を構える。
それを見て、猫獣人ははーっ、と呆れ気味にため息をついた。
「パラ。殺さない程度にはフッ飛ばしていいわ」
「承知いたしました」
猫獣人に命じられ、パラと呼ばれたドレスの女性はしゃなりとお辞儀を返し、ぼそ、と何かを唱えた。
「うわあ……っ」「ぐえ……っ」
突然、党員たちがほとんど真上に向かって飛んで行く。まるではるか上空から釣り上げられたかのように、次々と姿を消す。
10秒もしないうちに、そこにはマークたちと猫獣人、そしてパラと、未だ気を失ったままのマロだけになった。
「な、なにを……?」
唖然としているマークの問いに、フィオが彼女たちの代わりに答えた。
「高出力の風術だ。下から上に突き上げるように、吹き上げさせたんだろう」
「ご明察で……」「パラ」
恭しくお辞儀をしかけたパラを、猫獣人が咎めた。
「もっと簡単でいいって言ったでしょ。誰に対しても慇懃なのは却って無礼よ」
「失礼いたしました」
パラは猫獣人にぺこ、と頭を下げ、マークたちにこう言い直した。
「当たりです」
「……ぷっ」
妙に三文芝居じみたパラの挙動に、マークは思わず噴き出した。
5分後――マロが目を覚ます頃には、既に彼らの姿は無かった。
「つまり、取り逃がしたと言うわけか」
さらに1時間後、マロは白猫党幹部から詰問を受けていた。
「わざわざ財務対策本部長、即ち本来ならばこんな現場作業に携わる必要のない君が出張っておいて、そしてその結果、死者は出さないまでも部隊を全滅させた、と」
中心的にマロを問いただしているのは党幹事長、エルナンド・イビーザである。
「……間違いありまへん」
党内の階級ではマロよりイビーザの方が高く、マロは叱られた犬のようにしょんぼりとしていた。
「はっきり言おう。君は阿呆だ」
「言葉もありまへん」
「無い? 言ってもらわなければ困る。君の権限に無い行為をしてくれた上に、本来出るはずのない被害を出したのだから、それなりに言い繕ってもらわねば。
でなければ即、除名だ」
「いや、それは……」「イビーザ」
と、党首シエナが口を挟む。
「構わないわよ」
「と仰いますと?」
「釈明の必要は無い、ってコトよ。『預言者』から既に、こうなるコトは聞いていたもの」
「へっ?」「何ですって?」
シエナの言葉に、マロもイビーザも、目を丸くする。
「閣下、何故それを我々に教えて下さらなかったのです?」
「『預言者』からそう託ったからよ。『言っても未来が変わるわけじゃないし、この啓示を無視した分、マロの処分が重くなるだけだ』ってね。
だから既にゴールドマン、あなたの処分は決定しています。あなたが行動を起こす前から」
「と言うと……」
かつての同窓生から乞うような目で見つめられたシエナは、軽いため息とともにこう返した。
「給与3ヶ月分のカット。この分の給与は今回あなたの指示によって傷害を負った党員たちへ、特別手当として支給します」
「う……、分かりました」
苦い顔をするが、マロはそれ以上抗弁することも無く、その処分を受け入れた。
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