「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・帰郷抄 1
麒麟を巡る話、第330話。
フィオからの福音。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「馬鹿者め」
マークは故郷、トラス王国に戻ってくるなり父、トラス王から叱咤された。
「私があれほど、あんな正体の分からぬ有象無象と関わるなと言ったにもかかわらず、お前自らのこのこと敵陣奥深くへ入り込み、あまつさえ罠にかかるとは!
これが馬鹿者でなくて何だ!」
「申し訳ございません、父上」
「……」
深々と頭を下げ、謝ったマークに対し、トラス王はしばらく無言で睨みつけていたが、やがて顔をくしゃ、と崩し、心底悲しそうな顔をして見せた。
「まったく、お前という奴は! どれだけこの半月、私たちが心配したと思っているのだ!
いいか、今度からはちゃんと私や母さんと相談してから国外へ出るんだ。今度のようなことが起こってからでは遅いのだ。
こう言うことが起こった上でなお、ここに戻って来られたと言うのは、奇跡以外の何物でもないのだからな」
「はい……」
叱責が一通り終わったところで、トラス王はずい、とマークに歩み寄った。
「それでマーク。お前もただ、いたずらに危険へ身を投じに行ったわけではあるまい? 何か成果はあったのか?」
「残念ながら、まったく。……いえ、ひとつだけ」
マークは横に引き、自分の後ろに佇んでいたフィオを紹介した。
「僕を助けてくれた旧友、フィオリーノ・ギアトと会いました。彼がいなければ僕は、2回は死んでいたでしょう」
これを聞き、今度はトラス王が、フィオに向かって深々と頭を下げた。
「うむ。ギアト君、息子を助けてくれて、本当にありがとう」
「いえ、彼が生きていてくれなくては、今後の世界情勢が大きく変わりますから」
「うん?」
一転、きょとんとした顔をしたトラス王に、フィオはマークを交え、自分が未来から来た人間であることを説明した。
「……なんと。いや、ううむ、……何と言えば良いか」
「僕を胡散臭い人間とお考えであること、重々承知しております」
「いやいや、息子を助けてくれた恩人だ。胡散臭いなどと思うものか。……まあ、多少は思ったのは確かであるが。
いや、……そうだな、率直に言おう。容易には信じ難い話だ。何か信じるに足る証拠を提示して欲しいのだが」
「……では」
フィオはチラ、とマークを見、それからトラス王を見て、こんなことを言い始めた。
「国王陛下。今年2月、20年ぶりに后妃陛下が見目麗しいお顔を取り戻されたこと、誠に心躍る出来事だったでしょう」
「うん? まあ、うむ、確かにな」
「その凛々しき美貌を久方ぶりに目にし、心燃えるものがあったのでは?」
「……う、うむ? まあ、……まあ、な」
「やはり」
フィオはニヤッと笑い、トラス王に耳打ちした。
「……なにっ!?」
耳打ちされた途端、トラス王の狼耳がぴん、と直立した。
「僕の知る限りでは4日後、后妃陛下から伝えられるはずです」
「う、うむ。そ、そうであるか」
トラス王は顔を真っ赤にし、ぼそ、と答えた。
「父上? どうされたのです?」
何が何だか分からず、マークは父に尋ねる。
代わりにフィオが、こう返した。
「君、妹がいたね」
「うん。2人いるよ」
「今年の暮れには3人になるよ。ちなみに君と妹2人は『狼』だったけど、今度の妹は『猫』だ」
「……えっ?」
これを聞き、マークは顔を赤くして、父に尋ねた。
「本当に?」
息子に尋ねられ、トラス王は顔を真っ赤にしたまま、しどろもどろに答えた。
「ま、まだ分からん。だが、彼の言う通り、……まあ、……思い当たる節は、無くはないと言うか、その、まあ、うむ。
まあ、なんだ、確かにそれがすべて事実であれば、君は本当に未来人なのだろう。そんなことを言い当てられるのは神か、未来を知る者だけだからな」
フィオの予言通り――4日後、プレタ王妃が懐妊したことがトラス王に伝えられ、その日のうちに、トラス王はこれを公表。王国は歓喜の声に包まれた。
「でもなんで、そんなこと知ってたの? 細かい日にちまで……」
後日、マークからそう尋ねられ、フィオは笑いながら答えた。
「今、トラス王が大喜びであっちこっちに公表してるだろ? 僕の元いた世界でも、同じ様に公表して回っていたんだ。
……ま、『こっちの世界』では、君が行方知れずになっていた時だからね。君の不在をごまかすために使われた話題だったし、それに比べたら、トラス王の喜び方も断然違うよ」
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「馬鹿者め」
マークは故郷、トラス王国に戻ってくるなり父、トラス王から叱咤された。
「私があれほど、あんな正体の分からぬ有象無象と関わるなと言ったにもかかわらず、お前自らのこのこと敵陣奥深くへ入り込み、あまつさえ罠にかかるとは!
これが馬鹿者でなくて何だ!」
「申し訳ございません、父上」
「……」
深々と頭を下げ、謝ったマークに対し、トラス王はしばらく無言で睨みつけていたが、やがて顔をくしゃ、と崩し、心底悲しそうな顔をして見せた。
「まったく、お前という奴は! どれだけこの半月、私たちが心配したと思っているのだ!
いいか、今度からはちゃんと私や母さんと相談してから国外へ出るんだ。今度のようなことが起こってからでは遅いのだ。
こう言うことが起こった上でなお、ここに戻って来られたと言うのは、奇跡以外の何物でもないのだからな」
「はい……」
叱責が一通り終わったところで、トラス王はずい、とマークに歩み寄った。
「それでマーク。お前もただ、いたずらに危険へ身を投じに行ったわけではあるまい? 何か成果はあったのか?」
「残念ながら、まったく。……いえ、ひとつだけ」
マークは横に引き、自分の後ろに佇んでいたフィオを紹介した。
「僕を助けてくれた旧友、フィオリーノ・ギアトと会いました。彼がいなければ僕は、2回は死んでいたでしょう」
これを聞き、今度はトラス王が、フィオに向かって深々と頭を下げた。
「うむ。ギアト君、息子を助けてくれて、本当にありがとう」
「いえ、彼が生きていてくれなくては、今後の世界情勢が大きく変わりますから」
「うん?」
一転、きょとんとした顔をしたトラス王に、フィオはマークを交え、自分が未来から来た人間であることを説明した。
「……なんと。いや、ううむ、……何と言えば良いか」
「僕を胡散臭い人間とお考えであること、重々承知しております」
「いやいや、息子を助けてくれた恩人だ。胡散臭いなどと思うものか。……まあ、多少は思ったのは確かであるが。
いや、……そうだな、率直に言おう。容易には信じ難い話だ。何か信じるに足る証拠を提示して欲しいのだが」
「……では」
フィオはチラ、とマークを見、それからトラス王を見て、こんなことを言い始めた。
「国王陛下。今年2月、20年ぶりに后妃陛下が見目麗しいお顔を取り戻されたこと、誠に心躍る出来事だったでしょう」
「うん? まあ、うむ、確かにな」
「その凛々しき美貌を久方ぶりに目にし、心燃えるものがあったのでは?」
「……う、うむ? まあ、……まあ、な」
「やはり」
フィオはニヤッと笑い、トラス王に耳打ちした。
「……なにっ!?」
耳打ちされた途端、トラス王の狼耳がぴん、と直立した。
「僕の知る限りでは4日後、后妃陛下から伝えられるはずです」
「う、うむ。そ、そうであるか」
トラス王は顔を真っ赤にし、ぼそ、と答えた。
「父上? どうされたのです?」
何が何だか分からず、マークは父に尋ねる。
代わりにフィオが、こう返した。
「君、妹がいたね」
「うん。2人いるよ」
「今年の暮れには3人になるよ。ちなみに君と妹2人は『狼』だったけど、今度の妹は『猫』だ」
「……えっ?」
これを聞き、マークは顔を赤くして、父に尋ねた。
「本当に?」
息子に尋ねられ、トラス王は顔を真っ赤にしたまま、しどろもどろに答えた。
「ま、まだ分からん。だが、彼の言う通り、……まあ、……思い当たる節は、無くはないと言うか、その、まあ、うむ。
まあ、なんだ、確かにそれがすべて事実であれば、君は本当に未来人なのだろう。そんなことを言い当てられるのは神か、未来を知る者だけだからな」
フィオの予言通り――4日後、プレタ王妃が懐妊したことがトラス王に伝えられ、その日のうちに、トラス王はこれを公表。王国は歓喜の声に包まれた。
「でもなんで、そんなこと知ってたの? 細かい日にちまで……」
後日、マークからそう尋ねられ、フィオは笑いながら答えた。
「今、トラス王が大喜びであっちこっちに公表してるだろ? 僕の元いた世界でも、同じ様に公表して回っていたんだ。
……ま、『こっちの世界』では、君が行方知れずになっていた時だからね。君の不在をごまかすために使われた話題だったし、それに比べたら、トラス王の喜び方も断然違うよ」
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