「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・帰郷抄 2
麒麟を巡る話、第331話。
放浪の魔術剣士。
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2.
王室に起こった吉事に国中が喜ぶ中、マークとフィオは街の宿へ赴き、自分たちを助けてくれた猫獣人の旅人、ルナ・フラウスと、その同行者である長耳、パラの二人と会っていた。
「改めて、助けていただいたこと、感謝します」
「いいわよ、別に。アンタに感謝なんて、してもらう気は無いわ」
マークたちをヘブン王国で助け、さらには『テレポート』まで使ってトラス王国まで運んでくれたルナたちだったが――マークから感謝の意を伝えられ、王宮に案内すると提案した途端、彼女はそれをすべて拒否したのである。
「そんな……。ルナさんたちがいなかったら、僕たちは……」
「あたしが好きでやったことよ」
「どう言うことです?」
ルナの返答に、マークは首を傾げる。
「僕とフィオくんを助けたのは、単に親切心か何かでやったことだと?
大変失礼な物言いであるのは承知ですが――ルナさんはあまり、何と言うか、そんなタイプには……」
「失礼ね。でも確かにそうよ。そう言うタイプ。
でもそれ以上に、あたしの気質は気紛れなの。たまには酔狂にも、か弱い子犬を助ける気になってた、ってことよ。
ま、事実がどうだったとしても、結果的にはアンタたちが助かってるんだから、それでいいじゃない」
「……まあ、そうですね」
マークが黙ったところで、今度はフィオが口を開く。
「質問がある」
「なに? ヘンなこと聞かないでよ」
「そちらの……、パラ、だっけ。その人……」
「パラがどうしたの?」
「……」
ルナの横には、パラが無言で佇んでいる。
「隠す様子が無いから率直に聞くけど、その人、人形だよね?」
「え?」
フィオの質問に、マークはぎょっとした。
「人形だって? パラさんが?」
「……」
パラは何も答えず、依然、直立したままでいる。
「フィオくん、いくらなんでも失礼じゃないか。人のことを人形だなんて」「いいえ」
と、ルナが薄く笑みを浮かべながら答える。
「そうよ、パラは人形。それもただの木偶なんかじゃないわ。自分で考えて自分で動く、自律人形よ」
「仰る通りでございます」
ぺこ、と大仰に頭を下げ、パラもそれに同じる。
「やっぱり」
「え? え?」
話の展開が自分の常識を飛び越え、マークは呆然としている。
その様子を見たルナが、クスクス笑いながら声をかけた。
「マーク、ちょっとこっち、来なさい」
「え? は、はい?」
マークが素直にルナのそばに寄ったところで、ルナはパラに声をかけた。
「パラ。上、脱いで。マークに観察させてあげなさい」
「かしこまりました」
「え、ちょ、ちょっ、ちょおっ!?」
顔を真っ赤にしてうろたえるマークに構わず、パラはドレスの胸部分をはだけさせ、肌着だけになった上半身を見せた。
「……!」
その肌を見て、マークは絶句する。
マークも自分の魔術研究を進めるにあたって、人体の構造や機能についても、相応に知識を蓄えている。
その深い知識が、彼女の透き通るような肌の下に仄見える骨の不自然な配置、そしてどこにも血管が見当たらないことに、強い違和感を抱かせた。
「……これは……」
「実はね、マーク。あたしたちはアンタの特殊な治療術研究のうわさを聞いて、後を追ってきたのよ。理由は、分かってもらえたかしら?」
「いえ……?」
パラが元通り服を着直してもなお、上の空になっているマークの代わりに、フィオが答えた。
「パラさんを人間にしたい、と?」
「ご明察。実は一度、半分人形で半分人間だって言うのを完璧な人間にした、って人にお願いしたことがあるのよ。
でもその人、ケチ臭くてね。人間にするのは可能だけど、代わりに何か差し出せって言ってきたのよ。でもあたしもパラも素寒貧だから、渡せるようなものは無し。
結局その人には、にべもなく断られた。だから仕方なく、自分で研究することにしたんだけど……」
何とか平静を取り戻したマークが、ようやく話の輪に入る。
「人形を人間にする、ですか。おとぎ話程度には聞いたことはありますけど、それは非常に難しいこと、……と言うより、到底非現実的な話と思うんですけど。
少なくとも、普通の人間が軽々とできるようなことじゃ無いですよね?」
「ええ。色々調べてやってみたけど、全然ダメ。古代の魔術書がある遺跡を回ったりとか錬金術の研究してる人に相談したりとか、この20年近く色々当たってみたけど、今のところ全部空振りよ。
そんな時に聞いたのが、アンタの治療術だったのよ」
「……なるほど。つまり僕の研究成果が、パラさんの人間化に応用できるのではないか、と」
「実際、皮膚程度は成功してるんでしょ?」
「ええ、確かに。しかし筋肉や骨、神経、血管などの、生物として活動するために必要な他の組織を再現することは、まだできていません。
現状の技術でパラさんに施術を行っても、血の通わない皮膚が張り付くだけです。恐らく2日も経たないうちに、ことごとく腐り落ちてしまうでしょう」
「そこでマーク、そしてフィオ」
ルナはマークの手を取り、にやっと笑った。
「交換条件よ。アンタたちの戦いに、あたしとパラが手を貸してあげる。
その代わりアンタと共同で、あたしにその治療術を研究させなさい」
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王室に起こった吉事に国中が喜ぶ中、マークとフィオは街の宿へ赴き、自分たちを助けてくれた猫獣人の旅人、ルナ・フラウスと、その同行者である長耳、パラの二人と会っていた。
「改めて、助けていただいたこと、感謝します」
「いいわよ、別に。アンタに感謝なんて、してもらう気は無いわ」
マークたちをヘブン王国で助け、さらには『テレポート』まで使ってトラス王国まで運んでくれたルナたちだったが――マークから感謝の意を伝えられ、王宮に案内すると提案した途端、彼女はそれをすべて拒否したのである。
「そんな……。ルナさんたちがいなかったら、僕たちは……」
「あたしが好きでやったことよ」
「どう言うことです?」
ルナの返答に、マークは首を傾げる。
「僕とフィオくんを助けたのは、単に親切心か何かでやったことだと?
大変失礼な物言いであるのは承知ですが――ルナさんはあまり、何と言うか、そんなタイプには……」
「失礼ね。でも確かにそうよ。そう言うタイプ。
でもそれ以上に、あたしの気質は気紛れなの。たまには酔狂にも、か弱い子犬を助ける気になってた、ってことよ。
ま、事実がどうだったとしても、結果的にはアンタたちが助かってるんだから、それでいいじゃない」
「……まあ、そうですね」
マークが黙ったところで、今度はフィオが口を開く。
「質問がある」
「なに? ヘンなこと聞かないでよ」
「そちらの……、パラ、だっけ。その人……」
「パラがどうしたの?」
「……」
ルナの横には、パラが無言で佇んでいる。
「隠す様子が無いから率直に聞くけど、その人、人形だよね?」
「え?」
フィオの質問に、マークはぎょっとした。
「人形だって? パラさんが?」
「……」
パラは何も答えず、依然、直立したままでいる。
「フィオくん、いくらなんでも失礼じゃないか。人のことを人形だなんて」「いいえ」
と、ルナが薄く笑みを浮かべながら答える。
「そうよ、パラは人形。それもただの木偶なんかじゃないわ。自分で考えて自分で動く、自律人形よ」
「仰る通りでございます」
ぺこ、と大仰に頭を下げ、パラもそれに同じる。
「やっぱり」
「え? え?」
話の展開が自分の常識を飛び越え、マークは呆然としている。
その様子を見たルナが、クスクス笑いながら声をかけた。
「マーク、ちょっとこっち、来なさい」
「え? は、はい?」
マークが素直にルナのそばに寄ったところで、ルナはパラに声をかけた。
「パラ。上、脱いで。マークに観察させてあげなさい」
「かしこまりました」
「え、ちょ、ちょっ、ちょおっ!?」
顔を真っ赤にしてうろたえるマークに構わず、パラはドレスの胸部分をはだけさせ、肌着だけになった上半身を見せた。
「……!」
その肌を見て、マークは絶句する。
マークも自分の魔術研究を進めるにあたって、人体の構造や機能についても、相応に知識を蓄えている。
その深い知識が、彼女の透き通るような肌の下に仄見える骨の不自然な配置、そしてどこにも血管が見当たらないことに、強い違和感を抱かせた。
「……これは……」
「実はね、マーク。あたしたちはアンタの特殊な治療術研究のうわさを聞いて、後を追ってきたのよ。理由は、分かってもらえたかしら?」
「いえ……?」
パラが元通り服を着直してもなお、上の空になっているマークの代わりに、フィオが答えた。
「パラさんを人間にしたい、と?」
「ご明察。実は一度、半分人形で半分人間だって言うのを完璧な人間にした、って人にお願いしたことがあるのよ。
でもその人、ケチ臭くてね。人間にするのは可能だけど、代わりに何か差し出せって言ってきたのよ。でもあたしもパラも素寒貧だから、渡せるようなものは無し。
結局その人には、にべもなく断られた。だから仕方なく、自分で研究することにしたんだけど……」
何とか平静を取り戻したマークが、ようやく話の輪に入る。
「人形を人間にする、ですか。おとぎ話程度には聞いたことはありますけど、それは非常に難しいこと、……と言うより、到底非現実的な話と思うんですけど。
少なくとも、普通の人間が軽々とできるようなことじゃ無いですよね?」
「ええ。色々調べてやってみたけど、全然ダメ。古代の魔術書がある遺跡を回ったりとか錬金術の研究してる人に相談したりとか、この20年近く色々当たってみたけど、今のところ全部空振りよ。
そんな時に聞いたのが、アンタの治療術だったのよ」
「……なるほど。つまり僕の研究成果が、パラさんの人間化に応用できるのではないか、と」
「実際、皮膚程度は成功してるんでしょ?」
「ええ、確かに。しかし筋肉や骨、神経、血管などの、生物として活動するために必要な他の組織を再現することは、まだできていません。
現状の技術でパラさんに施術を行っても、血の通わない皮膚が張り付くだけです。恐らく2日も経たないうちに、ことごとく腐り落ちてしまうでしょう」
「そこでマーク、そしてフィオ」
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