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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・帰郷抄 3

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    麒麟を巡る話、第332話。
    チーム結成。

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    3.
    「共同で……、研究を?」
     きょとんとしたマークに、ルナはニヤッと笑って見せる。
    「これでも魔術の腕は相当よ。アンタたち、克天狐のところで勉強してたんでしょ?」
    「え? ええ、はい」
    「あたしもね、別の克一門の人に修行を付けてもらった身なのよ。言ってみればあたしとアンタとは、遠縁の同門って言えるのよ」
    「強引な理屈だなぁ」
     そうつぶやくフィオをよそに、ルナはマークの手をぎゅっと握ったまま、頼み込んでくる。
    「だから、ね? そのよしみもあるし、一緒に研究しましょうよ。間違いなく、アンタの研究にとってプラスになるわよ」
    「でも、……その、交換条件って言うのが、よく分からないんですが」
    「ん?」
     マークは手をつかまれたまま、ルナに尋ねる。
    「僕たちの戦いって、何ですか?」
    「え」「あら?」
     マークのその問いに、フィオとルナが同時に驚いたような声を上げた。
    「な、何ですか?」
    「マーク、君は……」「まだ自覚してないのね」
     そして同時に、二人はマークを責める。
    「アンタまさか、このまま王国に引き籠もっていられる、なんて思ってたんじゃないでしょうね?」
    「だとしたら相当、楽天家だ。
     君は白猫党の実情を知り、そして彼らの手から逃げ延びた。彼らが君を狙わないはずがないじゃないか」
    「そうよ。恐らく『天政会』潰しが終わり次第、白猫党は今度は『新央北』、いいえ、この国に照準を定めてくるわ。
     元より央北全土の征服を狙っている上に、アンタの存在もある」
    「王国は早晩、危険にさらされることになるだろう。
     ……だと言うのに、君はのんき過ぎるよ!」
    「ご、ごめん」
     二人に挟まれ、マークは頭を下げるしかない。
    「……ま、そんなわけだから、アンタの身柄は今、とてつもなく危険なのよ。
     と言って、アンタを守ってくれるのは王国の兵士たちと、フィオだけ。これじゃ、殺されるのを待ってるも同様よ」
    「ひどい言い草だ」
     ルナの言葉に、フィオがむくれる。
    「僕だってマーク同様、テンコちゃんのところで魔術を研究した身だ。それも攻撃魔術をね」
    「え? 君って確か、神器研究してたんじゃなかったっけ?」
     マークにそう問われ、フィオは肩をすくめる。
    「表向きはね。みんなに――特にアオイに――気付かれないよう、こっそり修行してたのさ」
    「その割にはアンタ、死にそうになってたじゃない」
     ルナに突っ込まれ、フィオは顔をしかめた。
    「……あれは、その、慢心があったから」
    「そんな言い訳で流せる話かしら? アンタ、マークを守りたいっつって、その結果があのザマじゃない。
     あたしがいなかったらアンタたち、間違いなく殺されてたわよ。アンタの言う『未来』を回避するどころか、自分もろとも突っ込んでいくところだったじゃないの」
    「……」
     何も言い返せず、フィオはうつむいた。
    「ともかく、アンタたちにとって、これは決して悪い話じゃないはずよ。
     マークにとっては、より精度の高い研究ができる。フィオにとっては頼もしい味方が増える。まさか断ろうだなんて、思ってないわよね?」
    「……正直に言わせてもらえば、思ってないことは、……無い」
     まだ若干へこんだ様子が残っているものの、フィオはなお強情を張る。
    「あまりにも僕たちにとって話がうますぎるし、出来すぎてる。
     第一、あんなにタイミング良く現れたこと自体、僕には納得が行かない。たまたまだなんて、いくらなんでも……」
    「ふーん」
     ルナは薄く笑い、こう返した。
    「フィオ、アンタはこの世の因果が、何から何まで見えてるって言うの?」
    「ん、……え?」
    「未来人って話だし、そりゃこの先、何が起こるかは知ってるんでしょうね。それ自体は特に否定しないし、信じてあげてもいい。
     でもだからって、アンタは未来が『読める』わけじゃない。ただ『知ってる』ってだけでしょ?」
    「まあ……、そうだ」
    「その『知識』としてのアンタの未来視に無い、あたし。次にどう出るのか、まったく見通せない、解せない、不確定の存在。
     さぞ、不安でならないでしょうね。もしや白猫党が放った刺客じゃないのか、と思ってるんでしょう?」
    「思わない人間はいない」
    「一理あり、ね。だけど大丈夫よ、あたしは信用を得た途端に掌返すような、そんなせこい奴じゃないわ。……って言っても、証拠なんてものも持ってないけどね。
     ま、本当にまったく信用ならない、こんな怪しい女は近くに置いておけない、……って言うんなら、あたしたちはこれで失礼するわ。二度とアンタたちの前に現れない。
     あたしと組むか、それとも組まないか。マーク、アンタが決めなさい」
    「ぼ、僕? いや、フィオの意見も……」
    「……いや、マーク」
     フィオは神妙な顔で、こう返した。
    「今、ルナさんが言ったことは、そっくりそのまま、僕にも当てはまることだ。
    『未来を知っている』といくら僕が主張したところで、他人にとっては信じ難い話だ。怪しいと言う点で言えば、僕もルナさんも同列だ。
     だからマーク、僕も含めて、組むかどうかを決めて欲しい。もし少しでも僕のことを疑っているのなら、はっきりノーと言ってくれて構わない」
    「……」
     マークは二人をチラチラと見て、そしてうなずいた。
    「居て欲しいです。フィオくんのことは勿論、信用してるし、ルナさんにも感謝しています。
     その二人が僕を助けてくれると言うのなら、それを無碍にはできません。是非、お願いします」
    「……ありがとう」
    「よろしく、マーク」
     フィオもルナも、どことなくほっとした様子で、マークと握手を交わした。
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