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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・帰郷抄 4

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    麒麟を巡る話、第333話。
    20年ぶりの再会。

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    4.
     協力し合うことを約束した後、研究を行う場所や今後の白猫党、および葵への対策などを簡単に相談したところで、マークとフィオはルナたちの宿を後にした。
    「……ふー」
     パラと二人きりになったところで、ルナは軽くため息をついた。
    「……」
     無言で自分の様子を眺めていたパラに、ルナはにこっと笑ってみせる。
    「何でもないわよ。……ただ、ちょっと居心地悪いなーってね」
    「居心地が悪い、と申しますと」
    「知ってるでしょ? あたしは昔、この国で暮らしてた。今更戻ってきちゃったって言うのが、なーんか、……ね」
    「非論理的です」
     パラは眉をひそめ、ルナに尋ねる。
    「それならば何故、マークにあんな提案をなさったのですか。あんなことを言わず、早急に街を去ればよろしかったのに」
    「さっき言った通りよ。あのパステルブルーの髪した鼻っ柱の強いお子ちゃまだけじゃ、マークは到底守れないわ。
     それに、マークに言った通りの事情もあるもの。あなただって、人形のままでいたくないでしょ?」
    「……否定はしかねます。しかし」「ふふっ」
     うつむいたパラの頭を、ルナはぽんぽんと優しく撫でる。
    「合理的なアンタの考えは十分、分かってるわ。人形のままなら、修理や換装ができる分、まだ多少はあたしを守れる可能性が高まるかも、って思ってるんでしょう?
     でもあたしたちは、半人半人形から人間になった、あの百戦錬磨の騎士団長を知ってるじゃない。半端に人形でいるより、きっちり人間になってくれた方がよっぽど、助けになりそうよ。
     それにあたし、元々から人間だけど、もう人形のアンタより桁違いに強いし、そうそう死なない体になってる。アンタもさっさと人間になって、めいっぱい修行して、あたしと並んで立ってくれた方が、断然嬉しいわ。
     来てよ、パラ。あたしのところに」
    「……努力いたします」
     パラはぎゅっと、ルナに抱きついた。

     と――ルナはパラを押し、離れるよう促す。
     そして同時に、ドアに向かって声をかけた。
    「誰?」
     声をかけてから一瞬間を置いて、トントンとノックが返ってくる。
    「……」
     しかしそれ以上の反応が無く、ふたたび沈黙が訪れる。
    「……開けるわ」
     ルナはパラに目配せし、ドアを開けさせた。
    「こんばんは。ルナで良かったのかしら、今は?」
     入ってきたのは――マークの母、プレタ王妃だった。
    「……っ」
     その姿を目にした途端、ルナは絶句した。
     その間にプレタはドアを後ろ手に閉め、ルナに近付く。
    「……あんまり、動き回らない方が、いいんじゃないの?」
     絞り出すようにそう声をかけたルナに、プレタはにこ、と微笑む。
    「これくらい、大した運動じゃないわ。若い頃はそれなりに鍛えていたもの」
    「そうじゃないわよ。今や一国の妃になったご身分で、こんな裏町の安宿にホイホイ来ていいの、って意味よ」
    「誰にも見られてないわ。まだスニーキング(潜伏術)の腕は衰えてないわよ。
     わたしがここに来ているのを知ってるのは、あなたとわたしだけよ。……それと、このお嬢さんね」
    「……」
     パラにも軽く会釈し、プレタはルナのすぐそばに寄る。
    「あなたがマークに会ったのは、これが二回目よね」
    「……!」
     たじろいだルナを見て、プレタはもう一度、にこ、と笑った。
    「10年位前かしら、あの子が『わたしみたいな人に会った』って言っていたから。……ふふ、そう、それなんだけどね。あの子、あなたのことを『顔が全部あるわたし』って言ってたのよ」
    「笑えないわよ」
     ルナは顔をしかめさせるが、プレタはクスクス笑っている。
    「笑い話よ。もうあれから20年も経ってるんだから。
     ……そう、20年。わたしも相応に歳を取ったし、夫ももう、おじいちゃんに片足突っ込んでるわ。白髪も多くなってきたし、後ろから見ると、……ちょっとハゲてきてるし」
    「ぷっ」
    「なのにあなた、……変わらないわね。あの頃のまま」
    「色々やってたからね。そのついでで、歳を取らない術も手に入れたから」
    「聞いてみたいところだけど……」
    「アンタはやらない方がいいかもね。子供、できたんでしょ?」
    「ええ」
    「施術の初期段階で代謝異常やら自家中毒やらバンバン起こるから最悪、流産しかねないわよ」
    「あら、怖い。……ま、元々やるつもりはないけど」
    「……そう」
    「わたしは普通の人間のままで人生、終えるわ。そうじゃないと、夫があの世で寂しがるもの」
    「あはは、そうね。そんなタイプよね、あの人」
    「でしょう?」
     二人でひとしきり笑ったところで、ルナはプレタから目をそらし、うつむいた。
    「どうしたの?」
    「……今更、会える義理なんて無いのに。まさかアンタから会いに来るなんて、思わなかったわ」
    「あら、そんなこと気にしてたの?」
    「気にしてたわよ」
     あっけらかんとしたプレタの応答に、ルナは口をとがらせた。
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