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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・密襲抄 1

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    麒麟を巡る話、第335話。
    二つの敵。

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    1.
    「『預言者』から啓示があったわ」
     党首シエナの言葉に、白猫党の幹部たちは背筋を正した。
     彼らにとって預言者からの言葉は、間違いなく、自分たちに並々ならぬ益と幸福を与えてくれるものだったからである。
    「今回の啓示は2つよ。
     まず、『天政会』の今後の動向について。こないだの元議員105名の排除が、彼らに大きな波紋を起こしていることは想像に難くないわ。でも、彼らは動かないそうよ」
    「なに……?」「んなアホな」「何もしないわけが……」
     この報告に、幹部の半分はけげんな顔をする。
     しかし政務部長トレッドは、「ふむ」とうなずいて返した。
    「納得が行ったような顔をしていらっしゃいますな、政務部長」
     けげんな顔をしていた党防衛隊長マラガに、トレッドはもう一度うなずいてみせた。
    「ええ。彼らならそうするだろう、と思っていたので」
    「それは何故に……?」
    「彼らは極力、軍組織との関わりを避けたい。恐らくはそうした意向からでしょう」
    「ええ、その通りよ」
     シエナもうなずいて返し、こう説明した。
    「知っての通り『天政会』は、天帝教を母体とした政治結社よ。平和的に支配圏を拡げたいと言う意図があるから、その行動はあくまで政治的、あるいは経済的な力によるものにするよう努めてる。
     でも結成初期、対抗組織だった『新央北』と戦うに当たって、傘下に置いた国から軍組織を借りたことがある。そのツケが今、回ってきてるのよ」
    「存じております。その件のためか年々、軍事組織からの圧力が高まっており、近年では『天政会』の、傘下国へおける態度が非常に軟化、弱体化しているとか」
    「『天政会』としては、政治や経済で動かせない敵を作りたく無かったでしょうに。目先に囚われた結果ね。……ま、ソレは置いといて。
    今言ってた通り、近年の『天政会』には結成当初の積極性が無く、逃げ腰の組織になってる。ヘブン王国の諸問題を丸投げしたのは、その証拠と言えるわね。
     そしてそれ故に、今回の議員排除も半ば見て見ぬ振り、対外的には『無かったこと』にして処理しようとしてるらしいわ。……と、ココまでが『預言者』の話。
     ココからは実際に、アタシたちが動く話よ。この件が内部で封殺された場合、『天政会』に穴は開けられないわ。いいえ、正確に言えば『内部から穴が開くコトは無い』のよ。
     この件は大々的に吹聴するわ。そうすれば『天政会』傘下国は騒然とするでしょうね」
    「でしょうな。新興勢力、新参者たる我々からこれほどの大打撃を受けたのですから、組織として体面を大きく損ねたと軍事勢力、特にタカ派の者たちは考えるはず。
     しかし中枢である『天政会』は逃げ腰の上、そうした軍事組織との関係を避けようとする。そうなれば、彼らと軋轢が生じることは明白でしょう。
     ここ数年で関係が脆くなりつつある『天政会』とその傘下国に、決定的なヒビが入ることは確実でしょうな」
    「そう言うコト。敵が内輪もめすればするほど、アタシたちは奴らを攻略しやすくなる。実際に戦うまでに、徹底的に相手を弱めるのよ」
    「承知しました。では政務部は今回の件を、央北全域に喧伝するとしましょう」
     うなずいたトレッドに、シエナはニヤッと笑って返した。
    「ええ、頼んだわ。
     そしてもう一つの啓示だけど、コレは『反対側』の敵についてよ」
    「ほう……、つまり『新央北』の件ですな」
     これを聞いて、マラガの目が光る。
    「どのように攻略すると?」
    「そうじゃないのよ」
    「うん?」
     対するシエナは、肩をすくめて見せた。
    「『しばらくの間は一切、攻め込むな』と伝えられたわ。今は何をどうしたとしても、我々にとってマイナスにしかならないそうよ」
    「何ですと?」
     マラガはいかにも腑に落ちなさげに、声を荒らげた。
    「ではトラス王子の件も放っておけと言うのですか?」
    「『新央北』関係は全面的に保留するように、と言ってたから、マークの件もそうでしょうね」
    「そんな馬鹿な! 彼は我々白猫党の内部事情を知っているのですぞ!? もしそれがあのトラス王の耳に入れば……」
    「とっくに知ってるでしょうね。かれこれ、もう1週間は経ってるんだし。だから今更マークを襲ったって、もう遅いのよ」
    「いやいや、常識的に考えれば、まだ彼奴らは我々の支配圏内にいるはず!
     こんなこともあろうかと、私はかねてより『新央北』との境界近辺に兵力を置いております! 今から命じれば、トラス王子らを迎え撃つことは十分に……」「マラガ」
     シエナは冷たい目で、マラガをにらんだ。
    「あなたは『預言者』の言葉に背く、と言うのね?」
    「そうではなく、これは極めて常識的な戦術、戦略の問題で……」
    「常識が通用するの? 『預言者』の言葉に対して」
    「……うぐ……」
     抗える雰囲気ではないことを察したらしく、マラガは口をつぐんだ。
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