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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・密襲抄 3

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    麒麟を巡る話、第337話。
    叔母と甥っぽい。

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    3.
     トラス王国郊外。
    「この小屋なんかどうでしょう?」
    「小さいわね」
     マークは新たな共同研究者、ルナと共に、研究に使うための施設を探していた。
     元々、マークは自分の住む屋敷の一室を研究室にしていたのだが、ルナが「もっと人のいないところで静かに研究したい」と願い出たため、こうして郊外の空き家や小屋を見て回っているのだ。
    「小さいって……。ざっと見た感じ、設備は全部入りそうな程度には大きいと思いますけど。僕が元々抱えてた研究チームを全員入れても、十分な余裕は……」
    「あたしとパラが住めないじゃない。まさかビーカー眺めながら寝ろって言うの?」
    「ああ、そう言うつもりで……。なるほど、それだと確かに小さいかも知れませんね」
    「できれば4、5部屋は欲しいわね。寝室とキッチンと研究室と、あと休憩室とお風呂と」
    「研究室さえ無ければ、市内で条件を満たせそうですけどね」
    「それ無かったら意味無いじゃない」
    「そうでした」
     マークがぺろ、と舌を出し、二人でクスクス笑っていた。

     と――その様子を、離れた林の中から眺めている者がいた。
    (確かにトラス王子のようだ。隣にいるのは……)
    (分からん。どうやら猫獣人のようだが、顔をマフラーで覆っていて、良く見えん。まさかプレタ王妃か……?)
    (いや、報告によれば王妃は静養中とのことだ。それに両目があるようだし)
    (そうだな。……では誰だ?)
    (さあ……?)
     彼らは互いに顔を見合わせ、間を置いて会話を続ける。
    (とにかく、王子がこの国内にいるのは確かだ。となれば……)
    (ああ。一度基地に戻り、暗殺部隊を組織しよう)
     そこで互いにうなずき、その場から立ち去った。

    「じゃあ、ここから南の方にある家なんかどうでしょう?」
    「……」
    「……ルナさん?」
     相手の反応がなかったため、マークはちょん、とルナの肩を叩いた。
    「ん? ああ、ごめん。ボーっとしてたわ」
    「大丈夫ですか?」
    「ええ、大丈夫よ。ちょっと気になったことがあったから」
    「どうしたんです?」
    「何でもないわ。で、どこって?」
    「南です。あっちの、あの白い屋根の家」
     マークが示した家を見て、ルナは小さくうなずいた。
    「確かにここより大きそうね。行ってみましょ」
     ルナはマークの手を引き、歩き出した。
    「ちょ、ちょっとルナさん」
    「なに?」
    「一人で歩けますよ」
    「いいじゃない。まだ寒いんだし」
    「手袋してるじゃないですか」
    「じゃあ冷え性なの」
    「手、ぽっかぽかですよ? 『じゃあ』って何ですか」
    「なんだっていいじゃない。それともあなた、女の子の手を握ったことも無いの?」
    「子?」
    「なによ」
    「いえ。……まあ、はい。手を握るくらいなら、別に」
    「じゃ、行きましょ」
    「ええ」
     二人で手をつなぎながら、目的の家の前まで歩く。
    「ふーん……。確かに大きめね」
    「元々は牛小屋だったみたいですね。ちょっと改装すれば、きちんとした研究所になりそうですよ」
    「牛? 牧場があったようには、……見えないわね」
    「元々この街って、扱う産業が色々と変わってたらしいですから。
     麦農業が盛んだった時もあれば、酪農したり軽工業に走ったり、……と、主軸産業がコロコロ変わってたそうです」
    「へえ? 初めて聞いたわね」
    「僕も街の歴史を勉強した時、初めて知りました。生まれも育ちもここですけど、先祖代々住んでたわけじゃないですから」
     マークの話を聞き、ルナは建物の壁を、ちょんとつついてみる。
    「じゃあ、この建物って相当古いのかしら」
    「うろ覚えですけど……、酪農が盛んだったのは、1世紀の半ばと3世紀後半、それと今世紀はじめの頃、まだ中央政府があった頃に、らしいです。
     だから現存してる建物のほとんどは多分、今世紀に造られたものだと思います」
    「じゃ、建て付けの心配は無さそうね。……臭いとか大丈夫かしら」
     ルナはマフラーを外し、くんくんと鼻をひくつかせる。
     と、その横顔を見て、マークがうなった。
    「うーん……」
    「ん? どうしたの?」
    「不思議なんですよね。なんでルナさん、母上とそんなに顔が似てるんだろうなって」
    「……うーん」
     ルナはふたたびマフラーで顔を隠すが、マークは追求をやめない。
    「もしかしてルナさん、母の妹に当たる、……とか」
    「ぶっ、……んなわけないじゃない。そんな偶然、あってたまるもんですか」
    「でも、似てる説明が……」
    「他人の空似ってこともあるじゃないの。あたしも初めて会った時、マジかって思ったくらいだし」
    「え? 母と会ったことが……?」
    「あー、ほら、トラス卿、……じゃない、トラス王がアンタのお母さんと一緒に懐妊報告してたじゃない。あの時見たのよ」
    「卿? 父がそう呼ばれていたのは、随分前の話と聞いてますが……?」
    「……ああ、もぉ! めんどくさいわね!」
     ルナはマークの両方の狼耳を、ぐにっとつねる。
    「いたっ、いたたたっ!?」
    「なんだっていいじゃないのよ、もう! 細かい質問しないの!」
    「あいだだだだ、わかっ、分かりましたっ」

     30分後、マークとルナはこの小屋を購入した。
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