「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・悖乱抄 1
麒麟を巡る話、第341話。
逃げ腰の「天政会」。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
白猫党によるヘブン王国の議員、「天政会」傘下105名の虐殺は、央北の西側世界――「天政会」の支配圏に、大きな波紋を起こした。
あらゆる点から鑑みても、これは紛れも無い、最低最悪の所業である。まともな政治交渉と評価できる点は一切存在せず、軍事行為とも言えない。
倫理的にも、道義的にも悖(もと)る、おおよそ「政治結社」と名乗る団体が起こすような、まともな行動ではなかった。
だが、明らかに相手側に非のあるこの行為に対し、「天政会」は報復するような姿勢を見せず、くすぶっていた。
「猊下、傘下国からまた、抗議声明が……」
多大な被害を出しておきながら、全く対応する姿勢を見せない「天政会」に、傘下国が一斉に「消極的」「逃げ腰」であると遺憾の意を表し、こぞって抗議したのである。
「……はぁ」
「天政会」を立ち上げた初代議長であり、現在は天帝教の教皇となったカメオ・タイムズは、四代目議長の枢機卿から受けた、この何度目かの相談に、明らかに不快そうなため息を漏らした。
「その件は既に私の手から離れています。あなたの裁量に一任しています。……と、何度あなたにそう返答したか、覚えていますか?」
「そう仰られましても、これ以上はもう、私の手には……」「よいですか」
カメオは心底うざったそうに、こう言い捨てた。
「『大卿行北記』、第5章第1節の3。
『エリザが言われた、あなたはくじけてはならない。また、逃げてはならない。あなたの後ろを見よ、あなたには幾百の、幾千の兵士が付いている。彼らは皆、あなたが命を下すことを望んでいる。繰り返し、はっきりと言う。あなたは逃げてはならない』。
あなたも既に、数多くの人の上に立つ身。『自分の手には負えない』などと、泣き言を言っても許されはしないのです。
どんな決断であれ、あなた自身が成さねばならないのです」
「……っ」
傍から見れば、その言葉はそっくり、カメオ自身に跳ね返っているのは明白だった。
しかしここには、上位にふんぞり返るカメオ教皇と、下位に佇む枢機卿しか居ない。何の反論も許されず、枢機卿はただ、頭を下げることしかできなかった。
「……御意」
「期待していますよ、枢機卿」
「はい……」
半ば涙声で答えつつ、枢機卿はカメオの前から去った。
「……ふん」
一人になったカメオは、忌々しそうにつぶやいた。
「もう私にそんな汚れを押し付けないでもらいたいものだ。
もう『天政会』の『て』の字さえ、私は見たくない……」
クラム暴落や莫大な借款の返済、さらには「天政会」そのものの責任からも――「新央北」との停戦以後、カメオが見せてきた逃げ腰の姿勢はそのまま、「天政会」の行動そのものと言えた。
創始者であるカメオの興味と情熱を失った「天政会」は、年を追うごとにその勢いを落とし続けていた。
しかし一方で「央北全域を政治的・経済的に、天帝教の傘下に収める」と言う当初の目的は未だ果たされていないため、無碍に解散させることもできない。
求心力、活気が失われているにもかかわらず、冗長的に延命させ続けられた結果、「天政会」は機能不全に陥っていた。
カメオ以降に就いた議長は軒並み心身を患い、引退を余儀なくされている。そのため設立直後から懸念されていた、傘下国の政府を始めとする各組織、とくに軍事勢力からの圧力に毅然と対抗できる者が無く、その力関係は対等になりつつある。
また、傘下国から集めるだけ集めた資金も、積極的な投資にはほとんど回されず、一部を申し訳程度に借款返済に宛てるばかりで、結果的に溜まっていく一方である。そして溜まれば溜まった分、管理も甘くなり、不明瞭な入出金も増えていく。近年においては天帝教における、新たな疑惑を生み続ける温床となっていた。
最早「天政会」は、対内的には余計な仕事と疑惑を増やし、有能な僧侶の将来を奪うだけの暗黒機関、対外的にはただ金を吸い上げ、右往左往するばかりの迷惑組織と化していた。
@au_ringさんをフォロー
逃げ腰の「天政会」。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
白猫党によるヘブン王国の議員、「天政会」傘下105名の虐殺は、央北の西側世界――「天政会」の支配圏に、大きな波紋を起こした。
あらゆる点から鑑みても、これは紛れも無い、最低最悪の所業である。まともな政治交渉と評価できる点は一切存在せず、軍事行為とも言えない。
倫理的にも、道義的にも悖(もと)る、おおよそ「政治結社」と名乗る団体が起こすような、まともな行動ではなかった。
だが、明らかに相手側に非のあるこの行為に対し、「天政会」は報復するような姿勢を見せず、くすぶっていた。
「猊下、傘下国からまた、抗議声明が……」
多大な被害を出しておきながら、全く対応する姿勢を見せない「天政会」に、傘下国が一斉に「消極的」「逃げ腰」であると遺憾の意を表し、こぞって抗議したのである。
「……はぁ」
「天政会」を立ち上げた初代議長であり、現在は天帝教の教皇となったカメオ・タイムズは、四代目議長の枢機卿から受けた、この何度目かの相談に、明らかに不快そうなため息を漏らした。
「その件は既に私の手から離れています。あなたの裁量に一任しています。……と、何度あなたにそう返答したか、覚えていますか?」
「そう仰られましても、これ以上はもう、私の手には……」「よいですか」
カメオは心底うざったそうに、こう言い捨てた。
「『大卿行北記』、第5章第1節の3。
『エリザが言われた、あなたはくじけてはならない。また、逃げてはならない。あなたの後ろを見よ、あなたには幾百の、幾千の兵士が付いている。彼らは皆、あなたが命を下すことを望んでいる。繰り返し、はっきりと言う。あなたは逃げてはならない』。
あなたも既に、数多くの人の上に立つ身。『自分の手には負えない』などと、泣き言を言っても許されはしないのです。
どんな決断であれ、あなた自身が成さねばならないのです」
「……っ」
傍から見れば、その言葉はそっくり、カメオ自身に跳ね返っているのは明白だった。
しかしここには、上位にふんぞり返るカメオ教皇と、下位に佇む枢機卿しか居ない。何の反論も許されず、枢機卿はただ、頭を下げることしかできなかった。
「……御意」
「期待していますよ、枢機卿」
「はい……」
半ば涙声で答えつつ、枢機卿はカメオの前から去った。
「……ふん」
一人になったカメオは、忌々しそうにつぶやいた。
「もう私にそんな汚れを押し付けないでもらいたいものだ。
もう『天政会』の『て』の字さえ、私は見たくない……」
クラム暴落や莫大な借款の返済、さらには「天政会」そのものの責任からも――「新央北」との停戦以後、カメオが見せてきた逃げ腰の姿勢はそのまま、「天政会」の行動そのものと言えた。
創始者であるカメオの興味と情熱を失った「天政会」は、年を追うごとにその勢いを落とし続けていた。
しかし一方で「央北全域を政治的・経済的に、天帝教の傘下に収める」と言う当初の目的は未だ果たされていないため、無碍に解散させることもできない。
求心力、活気が失われているにもかかわらず、冗長的に延命させ続けられた結果、「天政会」は機能不全に陥っていた。
カメオ以降に就いた議長は軒並み心身を患い、引退を余儀なくされている。そのため設立直後から懸念されていた、傘下国の政府を始めとする各組織、とくに軍事勢力からの圧力に毅然と対抗できる者が無く、その力関係は対等になりつつある。
また、傘下国から集めるだけ集めた資金も、積極的な投資にはほとんど回されず、一部を申し訳程度に借款返済に宛てるばかりで、結果的に溜まっていく一方である。そして溜まれば溜まった分、管理も甘くなり、不明瞭な入出金も増えていく。近年においては天帝教における、新たな疑惑を生み続ける温床となっていた。
最早「天政会」は、対内的には余計な仕事と疑惑を増やし、有能な僧侶の将来を奪うだけの暗黒機関、対外的にはただ金を吸い上げ、右往左往するばかりの迷惑組織と化していた。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~