「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・悖乱抄 4
麒麟を巡る話、第344話。
消えた資金。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「天政会」が解散となったものの、これまでその傘下にあった各国がそのまま、元のように独立独歩の道を歩むようなことにはならなかった。
元々、経済難から「天政会」に援助を求めてきた各国である。このまま瓦解しては、またも経済危機を迎えかねない。
そのため彼らは、今度は「央北西部連合」と名乗って結託し、「天政会」が蓄えているはずの運営資金を手に入れようと、再度マーソルに押しかけた。
ところが――。
「無い!?」
「何をふざけておるか!」
詰めかけた連合に対し、「天政会」の後処理を行っていた枢機卿は、思いもよらないことを告げた。
なんと「天政会」が蓄えていたはずの運用資金数十億エルが、一切残っていないと言うのだ。
「申し訳ございません……。
元々『天政会』はかなり独立性・機密性が高く、母体たる我々にも知らせていない情報が多数、あったようでして。
運営資金についても、その大部分が、どこの銀行や金融機関、投資筋に預けたのか――いえ、それ以前に、総額がいくらであったのかも、我々には一切知らされていないのです」
「あなた方が知る知らないは、我々には関係ない。
我々にとって重要なのは、その運営資金が、我々の手に戻ってくるか否かだ。何しろ、我々の国から各個、拠出されたものなのだからな。
それが戻ってこないと言うのならば、あなた方には何らかの補償をしてもらわねばならない」
「それについては……、本当に、申し訳ないとしか、言いようが……」
枢機卿は深々と頭を下げ、こう返した。
「申し上げました通り、運営資金はその全てが、所在も運用先も不明瞭なものとなっておりまして……。
恐らくは全額、元会員らが持ち逃げしたものと……」
「なんと……」
「確かに仰る通り、本来であれば我々が、何らかの補償をしてしかるべきであるとは思っているのですが、なにぶん、額が額でありまして……。
支払えるとしても、恐らくは数千万が限界かと」
「……むう」
これ以上この枢機卿を責めたとしても、大した額を回収できないであろうことは明白である。
「もういい。済まなかったな」
資金回収を諦めた連合は、今後の方針を定めるべく、ひとまず会議を開くことになった。
一方、白猫党が本拠を移したここ、クロスセントラルに、その行方不明となった元「天政会」会員20余名が集められていた。
と言っても、彼らの意思で集まってきたのではない。教皇暗殺の前後に、白猫党の防衛隊員が拉致したのである。
「吐け」
「ひぐっ……」
散々に合金製ロッドで打ち据えられ、全身痣(あざ)だらけになったその僧侶に、隊員が冷たく言い放つ。
「お前が任されていた資金はいくらだ? どこに預けていた?」
「ふぁ、ひぁ……」
何かを言うが、口の中はズタズタに切れており、また、歯も半分近く折られているため、まともな言葉にならない。
「はっきり言えッ!」
もう一度ロッドで頬を殴られ、さらに歯が一本飛ぶ。
「ひぃ、ひぃ……。ほぅひゅうほ……」
「ん? おい、止めろ」
と、拷問の様子を眺めていたマラガ隊長が、隊員を止める。
「口が利けんらしい。筆談させろ」
「はい」
隊員は僧侶にペンを握らせ、彼が言おうとしていた内容を書かせた。
「ふむ……。ゴールドマン部長、これで分かるか?」
「へー、へー」
マラガと同じように眺めていたマロは、紙に書かれた内容を確認する。
「ああ、バッチリですわ。市国の信用金庫ですな。このくらいの額やったら、ちょっと一筆書いてもろてサイン見せたら、受け取りが代理人であっても、すぐ引き出せますわ」
「なるほど。おい、書かせろ」
「はい」
もう一度ペンを握らせ、サインと預金引き出しを願う旨の文章を書かせたところで、マラガはこう言い放った。
「次に行くぞ。椅子を開けろ」
「了解であります」
隊員は胸のホルスターから拳銃を取り出し、僧侶の頭に押し当てる。
その様子を見たマロは、直後の銃声に紛れるように、こうつぶやいた。
「えげつないわ……」
双月暦566年の暮れまでに、白猫党は「天政会」が運用していた資金の大部分を回収した。
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消えた資金。
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「天政会」が解散となったものの、これまでその傘下にあった各国がそのまま、元のように独立独歩の道を歩むようなことにはならなかった。
元々、経済難から「天政会」に援助を求めてきた各国である。このまま瓦解しては、またも経済危機を迎えかねない。
そのため彼らは、今度は「央北西部連合」と名乗って結託し、「天政会」が蓄えているはずの運営資金を手に入れようと、再度マーソルに押しかけた。
ところが――。
「無い!?」
「何をふざけておるか!」
詰めかけた連合に対し、「天政会」の後処理を行っていた枢機卿は、思いもよらないことを告げた。
なんと「天政会」が蓄えていたはずの運用資金数十億エルが、一切残っていないと言うのだ。
「申し訳ございません……。
元々『天政会』はかなり独立性・機密性が高く、母体たる我々にも知らせていない情報が多数、あったようでして。
運営資金についても、その大部分が、どこの銀行や金融機関、投資筋に預けたのか――いえ、それ以前に、総額がいくらであったのかも、我々には一切知らされていないのです」
「あなた方が知る知らないは、我々には関係ない。
我々にとって重要なのは、その運営資金が、我々の手に戻ってくるか否かだ。何しろ、我々の国から各個、拠出されたものなのだからな。
それが戻ってこないと言うのならば、あなた方には何らかの補償をしてもらわねばならない」
「それについては……、本当に、申し訳ないとしか、言いようが……」
枢機卿は深々と頭を下げ、こう返した。
「申し上げました通り、運営資金はその全てが、所在も運用先も不明瞭なものとなっておりまして……。
恐らくは全額、元会員らが持ち逃げしたものと……」
「なんと……」
「確かに仰る通り、本来であれば我々が、何らかの補償をしてしかるべきであるとは思っているのですが、なにぶん、額が額でありまして……。
支払えるとしても、恐らくは数千万が限界かと」
「……むう」
これ以上この枢機卿を責めたとしても、大した額を回収できないであろうことは明白である。
「もういい。済まなかったな」
資金回収を諦めた連合は、今後の方針を定めるべく、ひとまず会議を開くことになった。
一方、白猫党が本拠を移したここ、クロスセントラルに、その行方不明となった元「天政会」会員20余名が集められていた。
と言っても、彼らの意思で集まってきたのではない。教皇暗殺の前後に、白猫党の防衛隊員が拉致したのである。
「吐け」
「ひぐっ……」
散々に合金製ロッドで打ち据えられ、全身痣(あざ)だらけになったその僧侶に、隊員が冷たく言い放つ。
「お前が任されていた資金はいくらだ? どこに預けていた?」
「ふぁ、ひぁ……」
何かを言うが、口の中はズタズタに切れており、また、歯も半分近く折られているため、まともな言葉にならない。
「はっきり言えッ!」
もう一度ロッドで頬を殴られ、さらに歯が一本飛ぶ。
「ひぃ、ひぃ……。ほぅひゅうほ……」
「ん? おい、止めろ」
と、拷問の様子を眺めていたマラガ隊長が、隊員を止める。
「口が利けんらしい。筆談させろ」
「はい」
隊員は僧侶にペンを握らせ、彼が言おうとしていた内容を書かせた。
「ふむ……。ゴールドマン部長、これで分かるか?」
「へー、へー」
マラガと同じように眺めていたマロは、紙に書かれた内容を確認する。
「ああ、バッチリですわ。市国の信用金庫ですな。このくらいの額やったら、ちょっと一筆書いてもろてサイン見せたら、受け取りが代理人であっても、すぐ引き出せますわ」
「なるほど。おい、書かせろ」
「はい」
もう一度ペンを握らせ、サインと預金引き出しを願う旨の文章を書かせたところで、マラガはこう言い放った。
「次に行くぞ。椅子を開けろ」
「了解であります」
隊員は胸のホルスターから拳銃を取り出し、僧侶の頭に押し当てる。
その様子を見たマロは、直後の銃声に紛れるように、こうつぶやいた。
「えげつないわ……」
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