「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・蹂躙抄 2
麒麟を巡る話、第347話。
盤外戦。
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2.
元々、傍系とは言え金火狐一族であり、経済に明るいマロが党内におり、彼が「預言」を元に順調な投資・投機を繰り返していたことから、白猫党には相応の資金があった。
それに加え、「天政会」会員を拉致・拷問して得た情報により、その運営資金を強奪したことで、白猫党はさらに潤沢な軍資金を獲得していた。
その金に物を言わせ、白猫党は双月暦567年初頭――央北西部連合との戦争を間近に控えたこの時、半端な国家よりもよほど堅固な装備を整えていた。
しかし、それだけ派手な運用をしていたにもかかわらず、相手側にはその情報は、まったく伝わっていなかった。
これは白猫党の対情報の堅牢さ――兵器設計・開発・製造から兵士の訓練内容はおろか、その組織と配備に至るまで、すべて本拠地内でのみ完結させていたためである。
さらにその上で、対外的には大量の偽情報を流し、相手である連合を混乱させていた。
「我が国の諜報部が集めた情報によれば、白猫党はヴァーチャスボックスに巨大な兵器廠を建設し、小銃を月間一千挺単位で製造しているとのことだ」
「うん? 我々の情報では、兵器廠はアークフォードに建設中であると……」
「いや? 既に完成していると聞いているぞ?」
「……? 情報がまったく統一できないな。
皆、もう一度教えてくれ。兵器はどこで製造されていると?」
何度聞いても、敵の重要拠点を何一つ、正確に割り出すことができない。
「疑わしい箇所を、全て回ることは?」
「難しいでしょう。何しろ敵の勢力圏は既に、央北の3分の1に及んでいます。
確かに我々の兵力を総合すれば20万を超えますが、それを疑わしいところへすべて行き渡らせた場合、一箇所につき3~4000名を割るような配置となってしまいます」
「うーむ……。敵兵力がどれだけあるかによるが、重要拠点を防衛しているとなれば、少なく見積もっても5000以上は確実だろう」
「我々の情報網によれば、敵兵力は10万とのことです」
「いや、5万程度であるとの調べが付いている。これは確かな筋からの……」
「いやいや、我々の方ではもっと多いと聞いているし、近代装備で武装していることを考えれば……」
「その装備だが、ほとんどが金火狐のコピー品らしいぞ。性能は高くあるまい」
「いや……、独自設計のものも多数あるとのことだ」
「それについてだが、まだ開発段階であり、大部分は従来使用していた金火狐製品をコピー中であると……」
あまりに錯綜する情報に、議長はついに頭を抱えた。
「……何が本当なんだ?」
このように、相手の状況がほとんどつかめず、明確な攻撃目標が定められないでいた連合に、さらに頭を悩ませる事態が発生した。
いよいよ戦争が始まるかと言う双月暦567年のはじめになって、連合加盟国のうち3ヶ国が突然、白猫党の傘下に収まったと公表したのである。
これは白猫党が「天政会」の解散騒ぎ以前から仕掛けていた罠であり、相手の情報を本営から堂々と盗み取ると言う、大胆不敵な策略だった。
しかもこの3ヶ国はいずれも小国とは言え、白猫党の有する領地のすぐ隣にあった、交戦地と目されていた地域である。土壇場で配備体制を整え直さねばならなくなり、連合は大慌てとなった。
さらにこの「裏切り」は、連合全体の士気を大きく落とし、互いに疑い合う状況を作り出した。連合側の陣営にはいつ、どの国が裏切るか分からないと言う疑心暗鬼の空気が漂い、最早一致団結し、戦争に迷いなく臨めるような環境ではなくなっていた。
開戦までに相手を徹底的にやり込め、極限まで弱体化させた白猫党にとって、連合との実戦はほとんど遊びにも近いもの――いや、言うなれば「軍事演習」にも等しいものとなった。
双月暦567年2月、ついに白猫党と連合との戦争が始まった。
だが事前の、白猫党からの執拗な戦外工作により、連合の士気は緒戦から低かった。
「……」
「……」
「……」
様々な国からの兵士で構成された連合軍は、一様に憮然とした顔で行軍している。
「……ざけんなって話だよ」
どこからともなく、声が漏れる。
「あ?」
「ボンド王国の奴らだよ。開戦直前に、敵に寝返ったんだろ?」
「ああ……、クソだな」
「フンク王国とサヴェジ王国もだろ?」
「ああ、そいつらもだ。本気でクズだな、マジ」
行軍中に出る話題は、決まって寝返った3ヶ国となる。
「あいつらのせいで、折角造ってた砦が無駄になったんだろ?」
「いや、無駄って言うより、分捕られたって感じだろ、白猫党に」
「裏切り者の上に泥棒、ってか?」
「マジふざけんなよ……」
本来ならば私語厳禁であるはずの行軍中でさえ、こうしてダラダラとした会話が続く。
この一事をとっても、統率が乱れているのは明らかだった。
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盤外戦。
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元々、傍系とは言え金火狐一族であり、経済に明るいマロが党内におり、彼が「預言」を元に順調な投資・投機を繰り返していたことから、白猫党には相応の資金があった。
それに加え、「天政会」会員を拉致・拷問して得た情報により、その運営資金を強奪したことで、白猫党はさらに潤沢な軍資金を獲得していた。
その金に物を言わせ、白猫党は双月暦567年初頭――央北西部連合との戦争を間近に控えたこの時、半端な国家よりもよほど堅固な装備を整えていた。
しかし、それだけ派手な運用をしていたにもかかわらず、相手側にはその情報は、まったく伝わっていなかった。
これは白猫党の対情報の堅牢さ――兵器設計・開発・製造から兵士の訓練内容はおろか、その組織と配備に至るまで、すべて本拠地内でのみ完結させていたためである。
さらにその上で、対外的には大量の偽情報を流し、相手である連合を混乱させていた。
「我が国の諜報部が集めた情報によれば、白猫党はヴァーチャスボックスに巨大な兵器廠を建設し、小銃を月間一千挺単位で製造しているとのことだ」
「うん? 我々の情報では、兵器廠はアークフォードに建設中であると……」
「いや? 既に完成していると聞いているぞ?」
「……? 情報がまったく統一できないな。
皆、もう一度教えてくれ。兵器はどこで製造されていると?」
何度聞いても、敵の重要拠点を何一つ、正確に割り出すことができない。
「疑わしい箇所を、全て回ることは?」
「難しいでしょう。何しろ敵の勢力圏は既に、央北の3分の1に及んでいます。
確かに我々の兵力を総合すれば20万を超えますが、それを疑わしいところへすべて行き渡らせた場合、一箇所につき3~4000名を割るような配置となってしまいます」
「うーむ……。敵兵力がどれだけあるかによるが、重要拠点を防衛しているとなれば、少なく見積もっても5000以上は確実だろう」
「我々の情報網によれば、敵兵力は10万とのことです」
「いや、5万程度であるとの調べが付いている。これは確かな筋からの……」
「いやいや、我々の方ではもっと多いと聞いているし、近代装備で武装していることを考えれば……」
「その装備だが、ほとんどが金火狐のコピー品らしいぞ。性能は高くあるまい」
「いや……、独自設計のものも多数あるとのことだ」
「それについてだが、まだ開発段階であり、大部分は従来使用していた金火狐製品をコピー中であると……」
あまりに錯綜する情報に、議長はついに頭を抱えた。
「……何が本当なんだ?」
このように、相手の状況がほとんどつかめず、明確な攻撃目標が定められないでいた連合に、さらに頭を悩ませる事態が発生した。
いよいよ戦争が始まるかと言う双月暦567年のはじめになって、連合加盟国のうち3ヶ国が突然、白猫党の傘下に収まったと公表したのである。
これは白猫党が「天政会」の解散騒ぎ以前から仕掛けていた罠であり、相手の情報を本営から堂々と盗み取ると言う、大胆不敵な策略だった。
しかもこの3ヶ国はいずれも小国とは言え、白猫党の有する領地のすぐ隣にあった、交戦地と目されていた地域である。土壇場で配備体制を整え直さねばならなくなり、連合は大慌てとなった。
さらにこの「裏切り」は、連合全体の士気を大きく落とし、互いに疑い合う状況を作り出した。連合側の陣営にはいつ、どの国が裏切るか分からないと言う疑心暗鬼の空気が漂い、最早一致団結し、戦争に迷いなく臨めるような環境ではなくなっていた。
開戦までに相手を徹底的にやり込め、極限まで弱体化させた白猫党にとって、連合との実戦はほとんど遊びにも近いもの――いや、言うなれば「軍事演習」にも等しいものとなった。
双月暦567年2月、ついに白猫党と連合との戦争が始まった。
だが事前の、白猫党からの執拗な戦外工作により、連合の士気は緒戦から低かった。
「……」
「……」
「……」
様々な国からの兵士で構成された連合軍は、一様に憮然とした顔で行軍している。
「……ざけんなって話だよ」
どこからともなく、声が漏れる。
「あ?」
「ボンド王国の奴らだよ。開戦直前に、敵に寝返ったんだろ?」
「ああ……、クソだな」
「フンク王国とサヴェジ王国もだろ?」
「ああ、そいつらもだ。本気でクズだな、マジ」
行軍中に出る話題は、決まって寝返った3ヶ国となる。
「あいつらのせいで、折角造ってた砦が無駄になったんだろ?」
「いや、無駄って言うより、分捕られたって感じだろ、白猫党に」
「裏切り者の上に泥棒、ってか?」
「マジふざけんなよ……」
本来ならば私語厳禁であるはずの行軍中でさえ、こうしてダラダラとした会話が続く。
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