「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・蹂躙抄 3
麒麟を巡る話、第348話。
新兵器。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
それでも連合は、どうにか急ごしらえの砦に軍を集結させ、守りを固めさせた。
「敵の姿は?」
「まだありません」
「了解した。引き続き、警戒してくれ」
砦の指揮を任された将校も、兵士たちと同様、はじめは愚痴をこぼしていたものの、いざ防衛に着手したところで、ようやくそれらしい態度になった。
「繰り返すが、ここは交通の要所だ。そのため広域にわたって整備されており、この周辺には身を隠しつつ、ここを攻撃できるような場所は無い。最も近隣の森からも1キロ以上は離れているし、南にある丘陵地帯も、ここからその状況を確認することが容易だ。
……まあ、はっきり言って、こんなところを攻めるのは阿呆のやることだ。そんなものは100%確実に迎撃される。自分たちから死にに来るとしか思えん」
「はは……」
冗談めかした上官の言葉に、兵士たちから笑いが漏れる。それを受けて上官もニヤッとしたが、すぐ真面目な顔に戻る。
「とは言え、今後の戦況を考えれば、物資の補給路として活躍するであろうと予測されている。万が一、ここを落とされるようなことがあれば、連合軍の兵站に重大な支障をきたす。
全員、気を抜かず防衛に当たるように」
「了解であります!」
上官・兵卒共に、どうにかそれらしい雰囲気を作り、ようやく両者の士気も上がってくる。
「散々振り回されてきたが……、ともかく、我々はこの砦を守りきり、勝利すれば……」
さらに気合を入れようと、上官が扇動しかけた、その時だった。
「南、丘陵地帯に不審な影、多数確認! 敵と思われます!」
伝令から、報告が飛んでくる。
上官は演説できず、多少残念そうな様子を見せたが、すぐに応じた。
「……っと。よし、すぐに警戒態勢を取れ! 追い返してやるんだ!」
「了解!」
命令は各部署に伝えられ、あちこちで準備が整えられた。
その、丘陵地帯。
到着した白猫党の軍小隊は、本営と連絡を取っていた。
《様子は?》
「我々に気付いた模様。迎撃準備を整えています」
《ククク……、悠長なことだ》
本営内で状況を伝え聞いていたマラガは、笑いながら命令した。
《新兵器のお披露目と行こうか。たっぷりお見舞いしてやれ!》
「了解!」
命令を受け、兵士たちは「装置」の組み立てを始めた。
命令を下したところで、マラガは隣で様子を見守っていたデリック博士に尋ねた。
「で、今回の新兵器についてだが、詳しいことを聞いていなかったな、博士」
「説明したはずだが」
「お前はしただろうが、俺は聞いとらん。改めてしてもらおう」
「……」
いつものように憮然とした顔をしつつも、デリック博士は説明する。
「発射機構自体は、そんなに複雑なものではない。従来の高射砲とほとんど同じものだ。無論、携行性を高めるために若干の軽量化は行っているが。
『新兵器』としているのは弾の方だ。発射される砲弾が、従来のような弾ではないのだ」
「どう違う?」
「大まかに分類するならば榴散弾、即ち命中すれば炸裂し、周囲に猛スピードで鉛弾をバラ撒くタイプの砲弾と言える。
しかし今回の新兵器がバラ撒くのは、鉛ではない」
迎撃準備が整えられている間も当然、連合軍側は白猫軍の動きを監視していた。
「敵影、依然動きません」
「了解した」
そう返したところで、上官はいぶかしがる。
「敵の数は小隊程度、と言っていたな?」
「はい」
「既に我々に動きを捉えられているであろうことは明白だ。だが、そのまま動きが無いと言うのは、妙だな?」
「斥候、……にしては多過ぎますし」
「向こうも砦を構える気だろうか? ……とすれば、相当準備が遅いが」
「案外、戦下手なのかも」
「いや」
楽観的じみた側近の意見を、上官は首を振って否定する。
「これまでの盤外戦の周到さを考えてみろ。実際に戦闘が行われる前に、あれだけ我々連合軍をやり込めてきた奴らだ。
何か、我々の予想をはるかに超えるような手段で攻撃してくるのでは……」
と、その時――ポン、と鼓を打つような音が、砦中に響いた。
「……? 今のは?」
「確認します!」
待機していた伝令が、大急ぎで司令室から出て行った。
だが、5分経っても、10分経っても、伝令は戻ってこない。それどころか、立て続けにポンポンと音が繰り返されているにもかかわらず、砦内には動きが見られない。
「おかしい……。どうしたんだ、一体?」
しびれを切らし、上官が窓の外を見ようと動きかける。
「あ、いや、私が」
それを側近が制し、代わりに窓を開けた。
それが地獄の始まりだった。
「……」
「何か見えるか?」
「……」
上官が尋ねたが、側近は答えない。ずっと窓の外を眺めている。
いや――窓枠にかけていた手が、ブルブルと震えている。
「どうした?」
やがてその震えは、肩、頭、そして全身に回り、側近は両手をだらりと下げ、窓枠に首をかけて痙攣し始めた。
「おい!? どうしっ、た、た、たたっ、た……」
そして窓の付近にいた者たちも、同様にビクビクと震え、倒れていく。
「……!」
異常事態に気付き、上官は慌てて部屋から出た。
「……が、……っ、……」
その直後――上官も同様に、全身を痙攣させて倒れた。
「撃ち方やめ!」
30発ほど撃ち込んだところで、白猫軍は砲弾の発射をやめた。
《状況はどうだ?》
「敵拠点、完全に沈黙しました」
《分かった。博士によれば、効果は30分くらいとのことだ。
ああ、そうそう。まだ突入はするなよ。うかつに近付けば、お前らも死ぬぞ》
「了解です。待機します」
《そうしてくれ。突入は1時間後でいい。それまでコーヒーでも飲んでろ》
「ありがとうございます」
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新兵器。
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3.
それでも連合は、どうにか急ごしらえの砦に軍を集結させ、守りを固めさせた。
「敵の姿は?」
「まだありません」
「了解した。引き続き、警戒してくれ」
砦の指揮を任された将校も、兵士たちと同様、はじめは愚痴をこぼしていたものの、いざ防衛に着手したところで、ようやくそれらしい態度になった。
「繰り返すが、ここは交通の要所だ。そのため広域にわたって整備されており、この周辺には身を隠しつつ、ここを攻撃できるような場所は無い。最も近隣の森からも1キロ以上は離れているし、南にある丘陵地帯も、ここからその状況を確認することが容易だ。
……まあ、はっきり言って、こんなところを攻めるのは阿呆のやることだ。そんなものは100%確実に迎撃される。自分たちから死にに来るとしか思えん」
「はは……」
冗談めかした上官の言葉に、兵士たちから笑いが漏れる。それを受けて上官もニヤッとしたが、すぐ真面目な顔に戻る。
「とは言え、今後の戦況を考えれば、物資の補給路として活躍するであろうと予測されている。万が一、ここを落とされるようなことがあれば、連合軍の兵站に重大な支障をきたす。
全員、気を抜かず防衛に当たるように」
「了解であります!」
上官・兵卒共に、どうにかそれらしい雰囲気を作り、ようやく両者の士気も上がってくる。
「散々振り回されてきたが……、ともかく、我々はこの砦を守りきり、勝利すれば……」
さらに気合を入れようと、上官が扇動しかけた、その時だった。
「南、丘陵地帯に不審な影、多数確認! 敵と思われます!」
伝令から、報告が飛んでくる。
上官は演説できず、多少残念そうな様子を見せたが、すぐに応じた。
「……っと。よし、すぐに警戒態勢を取れ! 追い返してやるんだ!」
「了解!」
命令は各部署に伝えられ、あちこちで準備が整えられた。
その、丘陵地帯。
到着した白猫党の軍小隊は、本営と連絡を取っていた。
《様子は?》
「我々に気付いた模様。迎撃準備を整えています」
《ククク……、悠長なことだ》
本営内で状況を伝え聞いていたマラガは、笑いながら命令した。
《新兵器のお披露目と行こうか。たっぷりお見舞いしてやれ!》
「了解!」
命令を受け、兵士たちは「装置」の組み立てを始めた。
命令を下したところで、マラガは隣で様子を見守っていたデリック博士に尋ねた。
「で、今回の新兵器についてだが、詳しいことを聞いていなかったな、博士」
「説明したはずだが」
「お前はしただろうが、俺は聞いとらん。改めてしてもらおう」
「……」
いつものように憮然とした顔をしつつも、デリック博士は説明する。
「発射機構自体は、そんなに複雑なものではない。従来の高射砲とほとんど同じものだ。無論、携行性を高めるために若干の軽量化は行っているが。
『新兵器』としているのは弾の方だ。発射される砲弾が、従来のような弾ではないのだ」
「どう違う?」
「大まかに分類するならば榴散弾、即ち命中すれば炸裂し、周囲に猛スピードで鉛弾をバラ撒くタイプの砲弾と言える。
しかし今回の新兵器がバラ撒くのは、鉛ではない」
迎撃準備が整えられている間も当然、連合軍側は白猫軍の動きを監視していた。
「敵影、依然動きません」
「了解した」
そう返したところで、上官はいぶかしがる。
「敵の数は小隊程度、と言っていたな?」
「はい」
「既に我々に動きを捉えられているであろうことは明白だ。だが、そのまま動きが無いと言うのは、妙だな?」
「斥候、……にしては多過ぎますし」
「向こうも砦を構える気だろうか? ……とすれば、相当準備が遅いが」
「案外、戦下手なのかも」
「いや」
楽観的じみた側近の意見を、上官は首を振って否定する。
「これまでの盤外戦の周到さを考えてみろ。実際に戦闘が行われる前に、あれだけ我々連合軍をやり込めてきた奴らだ。
何か、我々の予想をはるかに超えるような手段で攻撃してくるのでは……」
と、その時――ポン、と鼓を打つような音が、砦中に響いた。
「……? 今のは?」
「確認します!」
待機していた伝令が、大急ぎで司令室から出て行った。
だが、5分経っても、10分経っても、伝令は戻ってこない。それどころか、立て続けにポンポンと音が繰り返されているにもかかわらず、砦内には動きが見られない。
「おかしい……。どうしたんだ、一体?」
しびれを切らし、上官が窓の外を見ようと動きかける。
「あ、いや、私が」
それを側近が制し、代わりに窓を開けた。
それが地獄の始まりだった。
「……」
「何か見えるか?」
「……」
上官が尋ねたが、側近は答えない。ずっと窓の外を眺めている。
いや――窓枠にかけていた手が、ブルブルと震えている。
「どうした?」
やがてその震えは、肩、頭、そして全身に回り、側近は両手をだらりと下げ、窓枠に首をかけて痙攣し始めた。
「おい!? どうしっ、た、た、たたっ、た……」
そして窓の付近にいた者たちも、同様にビクビクと震え、倒れていく。
「……!」
異常事態に気付き、上官は慌てて部屋から出た。
「……が、……っ、……」
その直後――上官も同様に、全身を痙攣させて倒れた。
「撃ち方やめ!」
30発ほど撃ち込んだところで、白猫軍は砲弾の発射をやめた。
《状況はどうだ?》
「敵拠点、完全に沈黙しました」
《分かった。博士によれば、効果は30分くらいとのことだ。
ああ、そうそう。まだ突入はするなよ。うかつに近付けば、お前らも死ぬぞ》
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