「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・蹂躙抄 4
麒麟を巡る話、第349話。
ワンサイドゲーム。
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4.
緒戦は白猫党の勝利に終わった。
デリック博士の開発した、毒ガス弾をはじめとする数々の新兵器が、攻城戦において絶大な効果を発揮したこと。加えて、連合が想定していたよりもはるかに長距離からの攻撃手段を有していたことにより、前線に配備されていた連合軍兵士は、その半分以上が敵と接触すること無く、全滅。連合軍は前線全域からの撤退を余儀なくされた。
そのため前線が置かれていた連合側の数ヶ国は、そのまま白猫党に占領されることとなった。
出鼻をくじかれ、連合側の首脳陣は戦々恐々としていた。
「ここまで一方的な結果になろうとは……」
「まったくだ」
「現状、奇妙なことに防御を固めれば固めるほど、大ダメージを受ける結果となっている。
かと言って無計画に攻めるなど、それこそ自殺行為だ」
「戦闘による状況の打開は難しい、と言うことか」
序盤から敗色濃厚な空気が漂い、首脳陣は揃って頭を抱える。
「これでは戦うどころではない……」
「ああ、確かに。どうにか白猫党と交渉し、停戦に持ち込まねば」
「しかし、前回の交渉は決裂している。同条件で望んでも無意味だろう」
「……仕方がない。虐殺事件における謝罪・賠償は諦めざるを得ん。占領された数ヶ国も、放棄しよう。
これ以上攻めこまれ、残る陣地までもが占領されるよりはましだ」
だが、前回よりはるかに下手に出たこの条件でも、白猫党は納得しなかった。
圧倒的優位を確信していた白猫党は、連合を解体した上で、その領地をすべて党の支配下に置くことを、停戦の条件として突きつけてきた。
到底、こんな条件は納得できるものではなく、連合は戦争を継続せざるを得なくなり――その後の戦争は、白猫党による侵略戦争と化した。
連合の総合的な軍事力は、最新鋭の兵器で武装した白猫党に到底対抗できるものでないことは明らかであり、連合側は最後まで、白猫党の嬲り者にされることとなった。
勿論その間にも、政治的な駆け引きにより停戦に持ち込もうとしなかったわけではない。だが連合単体の交渉はことごとく蹴られ、まったく成立しなかった。
そのため、「新央北」やその他の大規模な政治組織と協力、あるいは停戦交渉の仲裁を申し込んだが――。
「お前が聞いた通りだ。彼らに手を貸したり、あまつさえ仲裁するなどと言うことは、今はとてもできんのだ」
「新央北」の宗主、トラス王は、これを拒否した。
「何故ですか、父上!? 同じ央北の人間を、見捨てると言うのですか!?」
この決定を聞いたマークは憤り、その怒りをトラス王にぶつけたが、彼は渋い顔をしつつ、こう答えた。
「まず第一に、形勢を見ての結論である、と言うことだ。
連合が白猫党に、軍事的に劣っていることは明白だ。戦争全体を鑑みても、局地の戦いぶりを見ても、白猫党に蹴散らされ、ことごとく敗走していることは広く知られている。
彼らと組み、我々の兵力を付加し、最大限協力したとしても、情況を覆すことは不可能だろう。
一方で停戦交渉の仲裁役を買って出たとしても、我々では今の、波に乗った白猫党に言うことを聞かせることはできん。恥をかかされるのがオチだろう。
冷たい言い方をすれば、我々が動いたとしても、戦費や外交費の無駄になるだけだ」
「……本当に、冷たい言い方ですね」
「お前に、そして連合の人間に非道と思われるのは承知だ。
だが、私にもこの共同体を維持し、域内の安寧秩序を守る責任がある。道連れになって共に崩壊し、白猫党に支配されるなどと言う道は、到底選べん。
そして第二の理由だが、我々の側の体力の温存と、敵側の消耗を狙ってのことだ。残念ながら我々の総力は、現在の白猫党に劣っていることは明白だ。今戦えば確実に、我々は負ける。
だが白猫党が連合を下し、彼らを支配下に置き、そして統治していくとなれば、彼らの組織・領地は肥大化し、維持するにも拡大するにも、相当の疲労が発生するだろう。
その疲労が蓄積し、白猫党の動きが鈍りきったその時にしか、我々の勝機は到来し得ない。その機が来るまで、我々は体力を温存しておかねばならないのだ。
分かってくれ、マーク。この戦いに、負けるわけにはいかんのだ。どんな犠牲を払ってでも、……だ」
「……はい」
マークはそう返し、うなだれるしかなかった。
「新央北」の拒否に続き、他の政治組織も、敗色濃厚な連合と関係することを嫌ったため、連合はさらに窮地に立たされた。
そのうちに、連合内でも「早めに白猫党に下った方が被害が少なくて済む」として、次々と離反が起こった。
そして双月暦567年、暮れ。結成当初20以上加盟していた央北西部連合は、そのすべてが白猫党の支配下に置かれることとなり、解体。
戦争は白猫党の圧倒的勝利となった。
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緒戦は白猫党の勝利に終わった。
デリック博士の開発した、毒ガス弾をはじめとする数々の新兵器が、攻城戦において絶大な効果を発揮したこと。加えて、連合が想定していたよりもはるかに長距離からの攻撃手段を有していたことにより、前線に配備されていた連合軍兵士は、その半分以上が敵と接触すること無く、全滅。連合軍は前線全域からの撤退を余儀なくされた。
そのため前線が置かれていた連合側の数ヶ国は、そのまま白猫党に占領されることとなった。
出鼻をくじかれ、連合側の首脳陣は戦々恐々としていた。
「ここまで一方的な結果になろうとは……」
「まったくだ」
「現状、奇妙なことに防御を固めれば固めるほど、大ダメージを受ける結果となっている。
かと言って無計画に攻めるなど、それこそ自殺行為だ」
「戦闘による状況の打開は難しい、と言うことか」
序盤から敗色濃厚な空気が漂い、首脳陣は揃って頭を抱える。
「これでは戦うどころではない……」
「ああ、確かに。どうにか白猫党と交渉し、停戦に持ち込まねば」
「しかし、前回の交渉は決裂している。同条件で望んでも無意味だろう」
「……仕方がない。虐殺事件における謝罪・賠償は諦めざるを得ん。占領された数ヶ国も、放棄しよう。
これ以上攻めこまれ、残る陣地までもが占領されるよりはましだ」
だが、前回よりはるかに下手に出たこの条件でも、白猫党は納得しなかった。
圧倒的優位を確信していた白猫党は、連合を解体した上で、その領地をすべて党の支配下に置くことを、停戦の条件として突きつけてきた。
到底、こんな条件は納得できるものではなく、連合は戦争を継続せざるを得なくなり――その後の戦争は、白猫党による侵略戦争と化した。
連合の総合的な軍事力は、最新鋭の兵器で武装した白猫党に到底対抗できるものでないことは明らかであり、連合側は最後まで、白猫党の嬲り者にされることとなった。
勿論その間にも、政治的な駆け引きにより停戦に持ち込もうとしなかったわけではない。だが連合単体の交渉はことごとく蹴られ、まったく成立しなかった。
そのため、「新央北」やその他の大規模な政治組織と協力、あるいは停戦交渉の仲裁を申し込んだが――。
「お前が聞いた通りだ。彼らに手を貸したり、あまつさえ仲裁するなどと言うことは、今はとてもできんのだ」
「新央北」の宗主、トラス王は、これを拒否した。
「何故ですか、父上!? 同じ央北の人間を、見捨てると言うのですか!?」
この決定を聞いたマークは憤り、その怒りをトラス王にぶつけたが、彼は渋い顔をしつつ、こう答えた。
「まず第一に、形勢を見ての結論である、と言うことだ。
連合が白猫党に、軍事的に劣っていることは明白だ。戦争全体を鑑みても、局地の戦いぶりを見ても、白猫党に蹴散らされ、ことごとく敗走していることは広く知られている。
彼らと組み、我々の兵力を付加し、最大限協力したとしても、情況を覆すことは不可能だろう。
一方で停戦交渉の仲裁役を買って出たとしても、我々では今の、波に乗った白猫党に言うことを聞かせることはできん。恥をかかされるのがオチだろう。
冷たい言い方をすれば、我々が動いたとしても、戦費や外交費の無駄になるだけだ」
「……本当に、冷たい言い方ですね」
「お前に、そして連合の人間に非道と思われるのは承知だ。
だが、私にもこの共同体を維持し、域内の安寧秩序を守る責任がある。道連れになって共に崩壊し、白猫党に支配されるなどと言う道は、到底選べん。
そして第二の理由だが、我々の側の体力の温存と、敵側の消耗を狙ってのことだ。残念ながら我々の総力は、現在の白猫党に劣っていることは明白だ。今戦えば確実に、我々は負ける。
だが白猫党が連合を下し、彼らを支配下に置き、そして統治していくとなれば、彼らの組織・領地は肥大化し、維持するにも拡大するにも、相当の疲労が発生するだろう。
その疲労が蓄積し、白猫党の動きが鈍りきったその時にしか、我々の勝機は到来し得ない。その機が来るまで、我々は体力を温存しておかねばならないのだ。
分かってくれ、マーク。この戦いに、負けるわけにはいかんのだ。どんな犠牲を払ってでも、……だ」
「……はい」
マークはそう返し、うなだれるしかなかった。
「新央北」の拒否に続き、他の政治組織も、敗色濃厚な連合と関係することを嫌ったため、連合はさらに窮地に立たされた。
そのうちに、連合内でも「早めに白猫党に下った方が被害が少なくて済む」として、次々と離反が起こった。
そして双月暦567年、暮れ。結成当初20以上加盟していた央北西部連合は、そのすべてが白猫党の支配下に置かれることとなり、解体。
戦争は白猫党の圧倒的勝利となった。
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