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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・蹂躙抄 5

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    麒麟を巡る話、第350話。
    不協和音の排除。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     央北の3分の2を手にし、白猫党と、そして彼らの本拠地であるヘブン王国は、戦勝ムードに酔いしれていた。
    「白猫党、万歳!」「チューリン総裁、万歳!」
     党は凱旋パレードを催し、国民を労っていた。
     シエナ自身も、西方から輸入してきた自動車に乗ってパレードに参加し、勝利の味を噛み締めていた。
    「素敵ね。今なら水飲んだだけでも酔っ払っちゃいそう」
    「全くです」
     車内にはシエナとトレッド、イビーザ――そして、葵の姿があった。
    「ぐー」
     葵はシエナにもたれかかり、いつものように眠りこけている。その様子を見て、イビーザが顔をしかめる。
    「しかし総裁、アオイ嬢を連れてくる必要は無かったのでは?」
    「アタシもそう思ったけど、彼女がどうしても来たいって言うから」
    「ふむ……?」
     これを聞き、トレッドが意外そうな顔をする。
    「珍しいですな。アオイ嬢がそんなことを仰るとは」
    「ええ、アタシもそう思うわ。……たまには目立ってみたいのかしら?」
    「……むにゃ」
     と、唐突に葵が目を覚ました。
    「おはよ、アオイ」
    「……いま、どこ?」
     尋ねた葵に、イビーザが答える。
    「間もなくパレードを終え、ドミニオン城に戻るところでございます」
    「停めて。ここで、すぐに」
     そう返され、全員が面食らう。
    「え?」
    「一体何故……」
    「早く」
     強い口調で命じられ、シエナが渋々従った。
    「……分かったわ。停めてちょうだい」
     シエナに命じられ、車はドミニオン城の門前で停まる。
    「どうしたの? 気分悪いの?」
    「違う」
     葵は三人をじっと眺め、こう続けた。
    「この車から絶対出ないで。城内に入るか車を降りたら、エンリケさんが銃撃してくる」
    「……え?」
    「エンリケとは、エンリケ・マラガのことですか?」
    「そう」
    「何故です? いや、それよりもこれは、まさか『預言』なのですか?」
     トレッドの問いに、葵は小さくうなずいた。
    「そう」
    「どうして!? 何故マラガがアタシたちを……!?」
     蒼ざめるシエナに対し、イビーザが「……いや」と続けた。
    「確かに彼奴が反旗を翻すには、絶好の機会でしょう。戦勝ムードにあてられ、我々も少なからず油断しておりました。
     それに今下克上し、それが成功されれば、彼奴には央北3分の2が手に入るわけですからな」
    「……なるほど、そう、ね」
     イビーザの言葉に納得しつつ、シエナは葵の方を向く。
    「でも、どうするの? このまま停まってたら、怪しまれるんじゃ」
    「あたしが何とかする。
     エンリケさんは行方不明になったって、公表しておいて」
     そう返し、葵はその場から姿を消した。
    「……!? き、消えた!?」
    「『テレポート』よ」
    「て、『テレポート』ですって? そんな術があるとは、聞いたことはありますが……」
     混乱する様子を見せつつもそう尋ねたトレッドに、シエナは首を振って答える。
    「アタシも見るのは初めてよ。……ドコで学んだのかは、同窓だったアタシも知らないけどね」

     一向に車が城内へ入ってこないため、城内中庭で待ち構えていたマラガは苛立っていた。
    「どうした、どうした!? さっさと来やがれ、雌豚め」
     マラガの背後には、彼が囲い込んだ党防衛隊の一小隊が整列している。葵の言った通り、シエナたち党の最高幹部を襲うためである。
     マラガ自身も新型の小銃を肩に提げ、いつでも攻撃できるよう備えていた。
    「……来ない。とっくにパレードは終わっているはず、……だが」
     きょろきょろと辺りを見回したり、小銃を構えたり提げ直したりするが、依然として車は入ってこない。
    「まさか……、感付かれたか?」
     マラガの顔に、焦りの色が浮かぶ。
     そしてその懸念を肯定する者が、突然現れた。
    「そうだよ」
    「……!」
     一瞬前まで誰もいなかった中庭に、いつの間にか葵が立っている。
    「だ、誰だ貴様は!」
    「あなたの企みは『見えてた』。シエナたちを殺させたりなんか、絶対させない」
    「見え……? 何を言っている?」
     葵は腰に佩いた刀を抜き、マラガとその背後に立つ小隊に向けて構えた。
    「それにあなた、本当はあの方を、『白猫の夢』を信じてない。シエナたちの方便だと思ってる」
    「……っ」
    「そう言う人が党の幹部にいたら、党はいつか、おかしくなる。一緒に同じ方を向いてくれない人がぽろぽろ出たら、組織はバラバラに千切れちゃうよ。
     ううん、このままだと『そうなる』。だからその前に、あなたを消す」
     そう言って、葵はマラガに向かって駆け出した。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    350話到達。
    読んでる途中で、ポールさんをはじめとして大多数の方が、
    白猫党に対して「ナチスかっ」と突っ込んだと思います。自分もそう思いながら書いてました。
    預言がある分、こっちの方が性質の悪い組織かも知れません。

    ただ、今では悪名高い、まさに「悪の組織」として有名なナチスですが、
    最初から悪の組織だったわけではなく、少なくとも1930年代までのドイツにとっては、国民的ヒーローでした。
    第一次大戦戦勝国からの法外な賠償金の要求を突っぱねたり、失業対策を軸とした効果的な社会改革を行ったりと、
    その政治的側面においては、現代においても評価できる点は多数見られます。
    勿論、異常の域をはるかに飛び越した人種差別政策や、妄執に取り憑かれた総統命令など、
    決して真似すべきでない、あくまで反面教師、歴史の汚点として観るに留めるべき点も少なくありませんが、
    誰に対してもいいところと悪いところはある、と言うことで。

    第6部の冒頭でも話したことですが、善悪の基準に「絶対」はありません。
    恩恵を受ければ「いい人」。被害を被れば「悪いヤツ」。恩恵も被害も無ければ「ワケわからん」。
    世の中にはびこる議論の9割が、これに尽きるのではないでしょうか。

    なので、「葵はナチスみたいな白猫党のトップにいるから悪役だ」などと、短絡的に判断しないであげてください。
    そういう考え方をする人には、ラストでばつの思い悪いをさせますよ。



    余談ですが、また謝罪します。
    以前に「市長と村長やってるせいで制作作業が進んでない」と告白したことがありますが、
    2014年3月現在、今度は鉄道会社の社長やってます……(´・ω・)
    シミュレーションゲームとか街づくり系のゲームとか、本当に大好きなもんで。

    誘惑に負けてばかりで、本当にすみません。一応構想をまとめてはいるので、
    第8部の掲載はそれほど遅くはならない、……と、思います。
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