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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・蹂躙抄 6

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    麒麟を巡る話、第351話。
    預言者の降臨。

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    6.
     一直線に向かってくる葵を見て、マラガは引きつった声で怒鳴る。
    「……う、撃て! 撃てッ!」
     マラガに命じられ、小隊は一斉に銃を構え、葵に向かって発砲する。
     だが――まっすぐ向かってくるはずの葵に、弾は一発も当たらない。あっと言う間に距離を詰められ、葵はマラガのすぐ目の前まで迫る。
    「ひっ……」
     マラガも慌てて小銃を構え、葵に向ける。
     だが葵は、その小銃をいとも簡単に叩き斬った。
    「なっ、なんだと!?」
    「……」
     武器を失い、丸腰になったマラガに、葵は刀を向ける。
    「選んで。ここで殺されるか、自分で立ち去るか」
    「……ふ、フン」
     だが、マラガは馬鹿にしたような目を向ける。
    「こ、この土壇場でそんな台詞を吐くってことは、……お前、人を殺したことが無いな? 怖いんだろう、え? 本当に俺を殺せるわけがない、そんなつもりはない、ただのこけおどし、……そ、そうだろう?」
    「……」
    「い、いいとも! 殺してみろ! ほれ、やってみやがれ! さあ! さあ、さ……」「分かった」
     ざく、と音を立てて、マラガの額に刀が突き刺さった。
    「ほげっ……」
     マラガの鼻と口から、間の抜けた音と、大量の血が噴き出す。
    「ひっ……」
     その光景を見ていた兵士たちから、悲鳴が漏れる。
    「言ったはずだよ。選んでって」
     マラガに刀を刺したまま、葵はつぶやいた。
    「逃げたいって言ったら、逃してあげるつもりだったのに」
    「……ごぼ、ぼ、っ、……」
     マラガの目がぐるんと白目をむき、四肢から力が抜ける。それを見た葵は、刀をマラガの額から抜いた。

    「あなたたちに」「……っ!」
     葵は倒れたマラガに目もくれず、刀を拭きながら、呆然と立ち尽くしたままの兵士たちに声をかけた。
    「ちょっとだけ、未来を教えてあげる」
    「な、……え?」
    「あなたは半年後、結婚するよ。相手は今あなたが片思いしてる、喫茶店の子。明後日告白したら、上手く行くよ。明日じゃダメだからね」
     葵に指を差された兵士は、目を丸くする。
    「な、何……?」
    「隣の、あなた。半月後、脚を大ケガする。でも来週いっぱい演習場に行かなきゃ、大丈夫だよ。
     その隣。あなたは10日後、目を患う。ううん、今も右目がかゆいはず。でも今日この後、すぐ治療に行けば治るよ。病院嫌いみたいだけど、行かなきゃ失明するよ」
    「……まさか……」
    「あなたは今すぐ、無理にでも休暇を取って、明日の昼までには家に帰って。そうしないと6日後、冷たくなったお母さんの前で大泣きしなきゃならなくなるよ。明日だったら、助けられるからね。
     あなたは今日から3日間、いつものバーに行って呑んじゃダメだよ。あなたをだまそうとして、待ち構えてる人がいるから。4日目にはその人、別の詐欺で捕まるから、その後でなら、いくらでも呑んでもいいけど。
     それから、あなた。験担ぎするのはあなたの勝手だけど、明日だけはやらない方がいいよ。いつも狙ってるのと逆のことをしたら、きっと楽しいことが起きるから」
    「あなた……は……」
     次々に自分たちの未来を告げられ、兵士たちは小銃を足元に落とし、戦意を失う。
    「……あなたは……預言者……!」
    「そう」
     その場に居た兵士全員に未来を告げ終えた葵は、こう締めくくった。
    「でも今の未来は、これから入ってくるシエナたちに、ちゃんと挨拶しないと起こらないよ。
     エンリケさんは行方不明になったって、口裏を合わせておいてね」
    「……りょ」
     兵士たちはかかとを揃え、背をぴんと伸ばし、葵に向けて最敬礼し、大声を上げて返事を返した。
    「了解であります、預言者殿!」
    「ん」
     葵は短くうなずき、次の瞬間、ふっと姿を消した。

     5分後、小隊による万雷の拍手を以って、パレードを終えたシエナたちが出迎えられた。



     この事件以降、それまで幹部以外には、それほど信じられてこなかった「預言者」の存在が、党全体に広く、そして明確なものとして伝わった。
     党員たちの大多数は「白猫の夢」と、そしてその夢を自在に見られると言う「預言者」を、強く信じるようになった。
     その様子はまるで――神に深い祈りを捧げ、無償・無限の信頼を貫く、敬虔な信者のようにも見えた。
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