「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・蹂躙抄 7
麒麟を巡る話、第352話。
党内刷新。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
マラガが「行方不明」になった後、巨大化した党防衛隊は正式に、「白猫軍」と改められた。それと同時に、新たに司令官が選出されることとなった。
新任の司令官には、敬虔と言えるほどに「白猫」を信じる者が着任した。
その新たな司令官とデリック博士との間に、やがて深い亀裂が生じることとなった。
今回の戦争で使用された新兵器は多大な成果を上げたものの、酸鼻をきわめる結果を招いたことも多く、その開発者である博士は「人道的・人間的に悖る冷血漢」として、疎まれていたのだ。
さらにはその開発を、前任者マラガが嬉々として容認していたこともあり、博士と関係を持つことでマラガと同じ印象を抱かれることを嫌った司令官は、徹底的に博士を遠ざけたのである。
その確執はやがて博士から研究の場を奪うこととなり、存在理由を失った博士は双月暦568年に党を脱退し、央北から姿を消した。
央北の3分の2を手中に収めた白猫党だったが、そこからすぐに「新央北」へ侵攻するようなことはしなかった。
まだ占領して間もない央北西部地域に対し、統治体制が整えきれていなかったためである。
「今あいつらに背を向けて『新央北』と、……なんてコトをしたら、その背中をグサっと刺されちゃうかも知れないからね」
「仰る通りですな」
シエナの言葉に、イビーザは深々とうなずく。一方で、トレッドもこう提案した。
「占領地域を円滑に統治できるまで、ひとまず『新央北』とは国境の通行規制や為替相場など、必要最低限の取り決めだけしておきましょう。
向こうも我々に対し、うかつな手出しをしてくることはありますまい。我々の情況をある程度見定めた上で、同様の取り決めを申し出てくることでしょう」
「ええ、任せたわ。
続いて、ゴールドマン財務部長が指揮していたデノミ(通貨切り上げ調整)政策だけど……」
シエナが途中で言葉を切り、そこで当幹部たちが一斉に、マロの方を見る。
マロは憮然とした顔で、自分が携わっていた政策の成果を発表した。
「……ま、そのですな。インフレ抑制と我々の資産創出を目的として、従来使われとった『ヘブンズ・クラム』を『ホワイト・クラム』へと切り替え、その新クラムを我が党が発行および管理するよう手配しました。
しかし、……何ちゅうか、まあ、東側の通貨であるコノンが予想以上に出回っとる、と言うか、信用がありまして。うまく行けば、新クラムは央北の経済成長と連動して価値を高め、我々にはエル建てで抱えとる資産以上のカネが手に入る、……予定、でしたけども」
「実際のところは、央北の成長はコノンの価値を高めこそすれ、新クラムの価値高騰には結びつかなかったと言うわけか」
イビーザににらまれ、マロはぽつりと、「……はい」とだけ返す。追い打ちをかける形で、トレッドが口を挟む。
「央北域外もそうそう、ここの事情を知らない者ばかりではないからな。
同じ央北とは言え、戦乱の渦中にあった西部・中部で発行されるクラムを忌避するのは当然だ。
そんな不安定な通貨より、平和の保たれている東部で発行されているコノンの方が信用されるのは、誰の目にも明らかだろう」
「……ええ」
「おかしな話だな」
二人のやり取りに、イビーザがフン、と鼻を鳴らす。
「私はトレッド君よりゴールドマン君の方が、経済に通じていると思っていたのだが。こうして会話している内容を聞けば、まるで逆ではないか」
「……」
うつむくマロに対し、イビーザは辛辣に吐き捨てた。
「ご先祖様の功績が聞いて呆れるな。本当に君は、金火狐一族なのかね?」
「……っ」
「その辺でいいわよ」
険悪になりかけた場を、シエナが遮る。
「結論としては、ゴールドマン財務部長の行った政策は、本来の効果を発揮しなかった。そうよね?」
「……はい」
「でも逆に、特に大きな損害も今のところ、生じてはいない。これも間違いないかしら」
「ええ」
「なら、別にいいわ。今後はそのご自慢の知恵を絞って、新クラムの価値を上げてちょうだい」
「……努力します」
この後、双月暦570年に至るまで白猫党、および央北に、目立った動きが見られることは無かった。
あくまで白猫党による支配の下ではあったが――央北西部には、しばしの平穏が訪れることとなった。
白猫夢・蹂躙抄 終
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党内刷新。
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マラガが「行方不明」になった後、巨大化した党防衛隊は正式に、「白猫軍」と改められた。それと同時に、新たに司令官が選出されることとなった。
新任の司令官には、敬虔と言えるほどに「白猫」を信じる者が着任した。
その新たな司令官とデリック博士との間に、やがて深い亀裂が生じることとなった。
今回の戦争で使用された新兵器は多大な成果を上げたものの、酸鼻をきわめる結果を招いたことも多く、その開発者である博士は「人道的・人間的に悖る冷血漢」として、疎まれていたのだ。
さらにはその開発を、前任者マラガが嬉々として容認していたこともあり、博士と関係を持つことでマラガと同じ印象を抱かれることを嫌った司令官は、徹底的に博士を遠ざけたのである。
その確執はやがて博士から研究の場を奪うこととなり、存在理由を失った博士は双月暦568年に党を脱退し、央北から姿を消した。
央北の3分の2を手中に収めた白猫党だったが、そこからすぐに「新央北」へ侵攻するようなことはしなかった。
まだ占領して間もない央北西部地域に対し、統治体制が整えきれていなかったためである。
「今あいつらに背を向けて『新央北』と、……なんてコトをしたら、その背中をグサっと刺されちゃうかも知れないからね」
「仰る通りですな」
シエナの言葉に、イビーザは深々とうなずく。一方で、トレッドもこう提案した。
「占領地域を円滑に統治できるまで、ひとまず『新央北』とは国境の通行規制や為替相場など、必要最低限の取り決めだけしておきましょう。
向こうも我々に対し、うかつな手出しをしてくることはありますまい。我々の情況をある程度見定めた上で、同様の取り決めを申し出てくることでしょう」
「ええ、任せたわ。
続いて、ゴールドマン財務部長が指揮していたデノミ(通貨切り上げ調整)政策だけど……」
シエナが途中で言葉を切り、そこで当幹部たちが一斉に、マロの方を見る。
マロは憮然とした顔で、自分が携わっていた政策の成果を発表した。
「……ま、そのですな。インフレ抑制と我々の資産創出を目的として、従来使われとった『ヘブンズ・クラム』を『ホワイト・クラム』へと切り替え、その新クラムを我が党が発行および管理するよう手配しました。
しかし、……何ちゅうか、まあ、東側の通貨であるコノンが予想以上に出回っとる、と言うか、信用がありまして。うまく行けば、新クラムは央北の経済成長と連動して価値を高め、我々にはエル建てで抱えとる資産以上のカネが手に入る、……予定、でしたけども」
「実際のところは、央北の成長はコノンの価値を高めこそすれ、新クラムの価値高騰には結びつかなかったと言うわけか」
イビーザににらまれ、マロはぽつりと、「……はい」とだけ返す。追い打ちをかける形で、トレッドが口を挟む。
「央北域外もそうそう、ここの事情を知らない者ばかりではないからな。
同じ央北とは言え、戦乱の渦中にあった西部・中部で発行されるクラムを忌避するのは当然だ。
そんな不安定な通貨より、平和の保たれている東部で発行されているコノンの方が信用されるのは、誰の目にも明らかだろう」
「……ええ」
「おかしな話だな」
二人のやり取りに、イビーザがフン、と鼻を鳴らす。
「私はトレッド君よりゴールドマン君の方が、経済に通じていると思っていたのだが。こうして会話している内容を聞けば、まるで逆ではないか」
「……」
うつむくマロに対し、イビーザは辛辣に吐き捨てた。
「ご先祖様の功績が聞いて呆れるな。本当に君は、金火狐一族なのかね?」
「……っ」
「その辺でいいわよ」
険悪になりかけた場を、シエナが遮る。
「結論としては、ゴールドマン財務部長の行った政策は、本来の効果を発揮しなかった。そうよね?」
「……はい」
「でも逆に、特に大きな損害も今のところ、生じてはいない。これも間違いないかしら」
「ええ」
「なら、別にいいわ。今後はそのご自慢の知恵を絞って、新クラムの価値を上げてちょうだい」
「……努力します」
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