「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第7部
白猫夢・再悩抄 1
麒麟を巡る話、第353話。
対岸の2年間。
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1.
双月暦568年、トラス王国。
「これが分からないんですよね。だって、結局は人形と人間って、基礎構造からして違うわけですし……」
「ま、こじつけみたいな箇所はあるわよね」
魔術による再生医療の研究者、マークと、放浪の魔術剣士、ルナとの共同研究が始まってから、既に2年近くが経過していた。
しかし、その進捗はあまり芳しいものではなく、大きな成果は挙げられないでいた。
「……はーぁ」
その日も錬金術関係の文献を検討するだけで日が暮れてしまい、ルナの方が根負けした。
「何か疲れちゃったわ。今日はこの辺にしない?」
「いえ……」
しかし、マークは席を立とうとしない。
「もう少しで何かつかめそうな気がするんです。あ、でもルナさんは先に休んでいただいて結構ですよ。もう他の研究員も帰っちゃいましたし」
「……あーのーねー」
ルナは口をとがらせ、席に座り直す。
「そう言う言われ方して、じゃあ先にお風呂入ってるわーって、そんなの言えないじゃない。どうせパラだってまだ、この時間じゃフィオと稽古してるだろうし」
「そうかも知れませんね。……じゃあ、もう一度全体を見直すところから行きましょう」
「はーい、はい」
白猫党が央北西部と戦っていたこの約2年間、マークたちはその戦いを対岸で見守りつつ、自分たちの技術を磨いて過ごしていた。
ルナとマークは前述のように日々研究に勤しみ、一方でフィオとパラは、修行に明け暮れていた。
たまに気紛れで、ルナがフィオの相手をしてやったり、マークやフィオがパラに柔らかい言葉遣いを教えたり、はたまた、チームの構成員全員で観光に出かけたりと――4人はこの2年、実にのんきに暮らしていた。
マークは「もう少しで何かがつかめそう」と言ったものの、それから1時間経ってもやはり、思うような成果は上がらなかった。
「どうする? もうちょい粘る?」
「……いえ。流石にお腹が空きました。今日はもう、おしまいにしましょう」
「そーね」
立ち上がったところで、ルナが提案する。
「どこか食べに行く? それともパラに作ってもらう?」
「うーん」
少し悩んだ後、マークはこう返した。
「じゃあ、こっちで」
「いいわよ。じゃ、パラが戻ってくる前に、食材の買い出しに行きましょ」
「はい」
研究所の玄関を締め、二人は市街地へと向かった。
「ところでさ」
と、その途中でルナが、ニヤニヤと笑いながらこんなことを言った。
「最近フィオが、パラをチラチラ見たり、目をそらしたりしてることがあるのよね」
「はあ」
「パラの方もね、『フィオがお疲れ気味のご様子ですので、彼の好物などあれば調理して差し上げたいと思うのですが』なんて言ってんのよ」
「そうなんですか」
「なんかさ、脈、あるんじゃないかなーって」
「人形ですよね? 脈は無いはず……」
マークの返答に、笑っていたルナは一転、はーっとため息をつく。
「……アンタさぁ。他に思うことは無いの?」
「え? 今のって、フィオくんのことでした?」
「おバカっ」
ルナは肩をすくめ、こう続けた。
「アンタ、恋愛経験無いでしょ? ぜーんぜん、こう言う話に乗れてないじゃない」
「そ、そんなことありませんよ」
「いや、無いわ。間違いない」
「証拠も無しに否定しないでください! ありますって、本当に」
マークに強く反論され、ルナも強情になる。
「じゃあ証拠出しなさいよ。誰と、いつ、どこで、どーゆー風にイチャイチャしてたのか、言ってみなさいよ」
「それは、……その、何と言うか、えーと」
口ごもるマークを見て、ルナは「ほーら、やっぱり!」と言いたげな目を向ける。
それが癇に障り、マークは大声で返した。
「あっ、ありますから! 僕だって浮いた話の一つや二つあります!」
「いつよ?」
「……て、天狐ゼミの時にです。そっ、そりゃあもう、色んな女の子と遊びまくってましたよ!」
ルナに馬鹿にされるのを嫌ったマークは、大ぼらを吹こうとした。
「毎晩ラウンジに行ってましたし、高級レストランでご飯食べたりもして……」「えっ」
と――でたらめを並べていたところに、突然、横から声が聞こえてきた。
「……して、……いや、いや、……え?」
声のした方を向いた途端、マークは硬直した。
「い、今の話って、……あたし、知らないよ?」
「ちょっ、ま、いやっ」
マークは慌てて、弁解しようとする。
「だましてたんだ、……うるっ」
しかしその間も与えられず、そこに立っていた狼獣人の女の子は、泣きながら走り去ってしまった。
「……誰?」
ルナに尋ねられたが、マークは答えず、慌てて後を追いかけた。
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対岸の2年間。
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双月暦568年、トラス王国。
「これが分からないんですよね。だって、結局は人形と人間って、基礎構造からして違うわけですし……」
「ま、こじつけみたいな箇所はあるわよね」
魔術による再生医療の研究者、マークと、放浪の魔術剣士、ルナとの共同研究が始まってから、既に2年近くが経過していた。
しかし、その進捗はあまり芳しいものではなく、大きな成果は挙げられないでいた。
「……はーぁ」
その日も錬金術関係の文献を検討するだけで日が暮れてしまい、ルナの方が根負けした。
「何か疲れちゃったわ。今日はこの辺にしない?」
「いえ……」
しかし、マークは席を立とうとしない。
「もう少しで何かつかめそうな気がするんです。あ、でもルナさんは先に休んでいただいて結構ですよ。もう他の研究員も帰っちゃいましたし」
「……あーのーねー」
ルナは口をとがらせ、席に座り直す。
「そう言う言われ方して、じゃあ先にお風呂入ってるわーって、そんなの言えないじゃない。どうせパラだってまだ、この時間じゃフィオと稽古してるだろうし」
「そうかも知れませんね。……じゃあ、もう一度全体を見直すところから行きましょう」
「はーい、はい」
白猫党が央北西部と戦っていたこの約2年間、マークたちはその戦いを対岸で見守りつつ、自分たちの技術を磨いて過ごしていた。
ルナとマークは前述のように日々研究に勤しみ、一方でフィオとパラは、修行に明け暮れていた。
たまに気紛れで、ルナがフィオの相手をしてやったり、マークやフィオがパラに柔らかい言葉遣いを教えたり、はたまた、チームの構成員全員で観光に出かけたりと――4人はこの2年、実にのんきに暮らしていた。
マークは「もう少しで何かがつかめそう」と言ったものの、それから1時間経ってもやはり、思うような成果は上がらなかった。
「どうする? もうちょい粘る?」
「……いえ。流石にお腹が空きました。今日はもう、おしまいにしましょう」
「そーね」
立ち上がったところで、ルナが提案する。
「どこか食べに行く? それともパラに作ってもらう?」
「うーん」
少し悩んだ後、マークはこう返した。
「じゃあ、こっちで」
「いいわよ。じゃ、パラが戻ってくる前に、食材の買い出しに行きましょ」
「はい」
研究所の玄関を締め、二人は市街地へと向かった。
「ところでさ」
と、その途中でルナが、ニヤニヤと笑いながらこんなことを言った。
「最近フィオが、パラをチラチラ見たり、目をそらしたりしてることがあるのよね」
「はあ」
「パラの方もね、『フィオがお疲れ気味のご様子ですので、彼の好物などあれば調理して差し上げたいと思うのですが』なんて言ってんのよ」
「そうなんですか」
「なんかさ、脈、あるんじゃないかなーって」
「人形ですよね? 脈は無いはず……」
マークの返答に、笑っていたルナは一転、はーっとため息をつく。
「……アンタさぁ。他に思うことは無いの?」
「え? 今のって、フィオくんのことでした?」
「おバカっ」
ルナは肩をすくめ、こう続けた。
「アンタ、恋愛経験無いでしょ? ぜーんぜん、こう言う話に乗れてないじゃない」
「そ、そんなことありませんよ」
「いや、無いわ。間違いない」
「証拠も無しに否定しないでください! ありますって、本当に」
マークに強く反論され、ルナも強情になる。
「じゃあ証拠出しなさいよ。誰と、いつ、どこで、どーゆー風にイチャイチャしてたのか、言ってみなさいよ」
「それは、……その、何と言うか、えーと」
口ごもるマークを見て、ルナは「ほーら、やっぱり!」と言いたげな目を向ける。
それが癇に障り、マークは大声で返した。
「あっ、ありますから! 僕だって浮いた話の一つや二つあります!」
「いつよ?」
「……て、天狐ゼミの時にです。そっ、そりゃあもう、色んな女の子と遊びまくってましたよ!」
ルナに馬鹿にされるのを嫌ったマークは、大ぼらを吹こうとした。
「毎晩ラウンジに行ってましたし、高級レストランでご飯食べたりもして……」「えっ」
と――でたらめを並べていたところに、突然、横から声が聞こえてきた。
「……して、……いや、いや、……え?」
声のした方を向いた途端、マークは硬直した。
「い、今の話って、……あたし、知らないよ?」
「ちょっ、ま、いやっ」
マークは慌てて、弁解しようとする。
「だましてたんだ、……うるっ」
しかしその間も与えられず、そこに立っていた狼獣人の女の子は、泣きながら走り去ってしまった。
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