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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第7部

    白猫夢・再悩抄 3

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    麒麟を巡る話、第355話。
    追いかけてきた狼娘。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
     フィオとパラがマークの後を追いかけていると、後ろからルナが追い付いてきた。
    「あら、二人ともどうしたの?」
    「マークが誰かを追いかけてから、僕たちも後を」
    「そう。前にいるのって、誰だか知ってる?」
    「いや、……あ、いや」
     フィオは否定しかけ、途中で言い直す。
    「見覚えはある。どこでだったかは忘れたけど」
    「ふーん」
     ルナは一瞬、口元に手を当て、それからこう返した。
    「天狐ゼミ関係?」
    「……あ。そうだ、確かにその辺りで見た記憶がある。でも、どうして?」
    「マークがあたしに、『ゼミではラウンジや高級レストランで毎晩女の子と遊んでた』って大ボラ吹いてたところで『そんなの知らなかった。だまされた!』って、あの子が叫んだから」
    「ぷっ」
     マークの話を聞き、フィオが笑い出す。
    「それ、マークじゃなくて、同窓生のマロの話だ」
    「だろうと思ったわ。あの子のキャラじゃないもの」
    「……ああ、それで思い出した。あの『狼』、確かマークと一緒に勉強してた子だ」
    「へぇ」

     市街地に入ろうかと言う辺りで、マークはようやく、狼獣人の女の子をつかまえた。
    「ま、待って……、ください……」
    「離して、ウソつきっ!」
    「いや、……その、あれは確かにウソですけど……」
    「うあーん!」
    「いや、違うんです、ルナさん、いや、あの人に見栄張って……」
    「やだー、はなじでー、うええええん」
     二人の様子は、傍から見れば痴話ゲンカのように見えた。
     ルナたちにもそう見えたため、彼女は遠巻きにゲラゲラと笑っていた。
    「あははは、あー、おかしっ」
    「ちょっと……。誤解解いてやりなよ、ルナさん」
    「あはは、はは、あー、そーね、うん、……ぷふっ」
     ルナは笑いをこらえながら、マークたちに近付いた。
    「余計な見栄、張るもんじゃないわよ。これで懲りたでしょ、マーク」
    「う、……ルナさん」
    「ちょっと、あなた」
     ルナはまだクスクス笑いながら、うずくまっている狼獣人に声をかけた。
    「こいつが言ってたのは全部でたらめ、別人の話よ。そうでしょ、フィオ?」
    「ああ、そうだ。大丈夫だよ、シャランさん。マークは君が思ってる通りの真面目なお坊ちゃんだから」
    「……へっ?」
     女の子――マークとフィオの後輩、シャラン・ネールが顔を上げる。
    「ぷっ」
     彼女の、化粧が涙でぐしゃぐしゃになった顔を見て、ルナはまた笑い出した。

     一行はとりあえず、シャランをルナの家まで連れて行き、落ち着かせた。
    「ぐす……、ごめんね、みんな」
    「いえ、そんな」
    「そうよ。元はといえばアンタが見栄張ったせいなんだから」
    「……うぐぅ」
     マークが渋い顔をしたが、ルナは意に介した様子を見せず、シャランにタオルを差し出した。
    「とりあえず、お化粧落としちゃいなさい。そんなにグチャグチャじゃ、まるでオバケの仮装よ」
    「すみません……」
     シャランは素直に顔を拭き、すっぴんになる。
    「あら、……ま、ちょこっと眉毛は薄いかもだけど、可愛い顔じゃないの」
    「そ、そうですか?」
     ルナにほめられ、シャランは顔を赤くする。
    「で、シャランちゃん。どうしてここに?」
    「あ、えっと……」
     シャランはチラ、とマークを見て、はっきりと答えた。
    「マーク先輩とお付き合いするために来ました」
    「……へぇ?」
     その返事を聞き、またもルナがニヤニヤ笑い出す。
    「なるほど、なーるほどー、確かに浮いた話の一個くらいはあったみたいね、マーク」
    「……ウソついてませんよ」
    「いいから、それはもう。
     で、お付き合いってことは、しばらくはこっちに住むつもりで来たってこと?」
    「はい」
    「引越し先は?」
    「これから探そうと思ってました」
    「じゃ、仕事も無いわよね?」
    「一応、実家の紹介状は持ってきてます。
     先輩がトラス王家の方と聞いていたので、建前上はネール公家として訪問し、その席で、何かの仕事を斡旋していただけないかとお願いする予定でした」
    「しっかりしてるわね、結構。そそっかしいところはあるみたいだけど」
    「よく言われます」
     そう言ってにっこり笑ったシャランに、ルナも笑みを返す。
    「天狐ゼミでの研究は? マークと同じ再生医療かしら?」
    「はい。……あの?」
    「なに?」
    「ルナさんは、マーク先輩とどう言う関係なんでしょうか?」
     問われたルナは、チラ、とマークを見て、こう答えた。
    「叔母さんみたいなもんね。と言っても、トラス王家とは関係ないけど」
    「へ? 叔母?」
     きょとんとしているマークをよそに、ルナは話を続ける。
    「実はね、マークとあたしは共同で研究してるの。そこにいる、パラを人間にするためにね」
    「えっと……? それって、どう言う意味ですか?」
     これまではきはきと、歯切れよく応答していたシャランだったが、ルナの話には付いて行ききれなくなったらしく、ぽかんとした顔になった。
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