黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・狷狼録 10

     ←蒼天剣・狷狼録 9 →蒼天剣・傑士録 1
    晴奈の話、第155話。
    伝説の奸雄、伝説の刀を打つ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    10.
     大聖堂の崩壊から20分ほど後、ウィリアムたちはようやくワルラスを発見した。
    「ワルラス……」
     ワルラスの体は魔術院の屋根に吊り下げられ、磔刑にされていた。そして頭は折れた右手に髪をつかまれる形で、ぶらぶらと揺れている。
     ウィリアムは惨死したワルラスを見て、呆然としている。
    「こんな、惨い死に方を……」
     ウィリアムは羽織っていたガウンを、地面に下ろされたワルラスの体にかけた。ウィリアムはガウンをかけながら号泣している。
    「……これが報い、か。私が教団を導く者として、弟に正しい道を示しきれなかったばかりに、こんな無残なことになろうとは」
    「親父……」
     傍らに付き添っていたウィルバーは父親の落胆した姿に、何とも言えない切なさを感じた。

     こうしてワルラスの、長年にわたって計画されてきた権力奪取は失敗した。
     彼に付き従っていた者たちも、ワルラスの「見せしめ」と取れる死に様を見て計画の続投、継続を放棄。黒炎教団転覆の危機は消え去った。
     なお、晴奈たちが大火の手引きで黒鳥宮に侵入したことは、誰にも知られることは無かった。



     時間はワルラスが討たれた直後に戻る。
    「ご苦労だった、晴奈」
     大火は切り捨てたワルラスを壁にかけつつ、晴奈たちを労った。
     その顔にも服にも、傷はおろか、血のりさえ付いていない。
    「お安い御用だ。……あの竜は?」
     いつの間にか大火の雰囲気は陽炎に戻っており、気だるそうに答える。
    「残しておくのも後々面倒になるからな。細切れにして海にばら撒いてきた。来年の央南では、うまい魚が食えるだろう」
    「……そうか。やはりと言うか、黒炎殿の相手では無かった、と」
    「そう言うことだ。さっさと帰るぞ。つかまれ」
     大火はぶっきらぼうに左手を差し出し――右手は既に明奈をつかんでいる――晴奈にもつかむよう促す。
     晴奈は素直に、その手をつかみ――。
    「……?」
     違和感を覚えた。握力のかかり方が微妙にずれている。と言うよりも、つかんだ手の触感が健常な手を持った者と違う。
     握られる手の感触が、「一部分」足りないのだ。
    (もしかして黒炎殿、指が……?)
     気が付くとまた、晴奈たちはあの島にいた。
     黒鳥宮では既に日が落ちていたが、ここはまだ、夕暮れに差し掛かったところだった。
    「気が付いたようだが、これについて語る気は無い」
     と、大火はどことなく憮然とした顔で晴奈から手を離し、左手袋を外す。
     晴奈の予想通り、大火の左手の薬指は、根本から欠けていた。
    (なるほど。だからあの時、明奈の様子がおかしかったのか)
     竜を事も無げに屠る「黒い悪魔」といえども、あまたの修羅場を潜り、それなりの代償を払ったのだと言うことが、その一事で晴奈には良く分かった。
    「あ、あのぅ」
     と、大火につかまれたままの明奈が、恥ずかしそうな声を出している。
     そこで大火は明奈から手を離し、軽く頭を下げた。
    「ああ、失礼した」
    「あ、い、いえっ」
     明奈は顔も、猫耳の内側も真っ赤にし、ぺこぺこしている。
    「黒炎様のお手をわずらわせてしまい、まことに申し訳……」「気にするな。サービスだ」
     大火は革手袋をはめ直し、手をぺらぺらと振って明奈を制した。
    「さて、と。晴奈、刀についてだが、俺もなかなか忙しい身でな。完成までには恐らく、2年か3年を要する。
     それまで待っていてもらっても、構わないか?」
    「ああ、打ってくれると言うのなら、何年でも待っている。その代わり……」
     晴奈は大火にずい、と近寄り、はっきりと言い放った。
    「私が存分に納得が行くくらいの、業物を打ってくれ」
     その態度が気に入ったらしく、大火はあの、鳥のような笑い方をしながらこう返した。
    「クク……、いいとも。剣豪、黄晴奈の代名詞になるような逸品を約束しよう」



     黄海に戻って以降、晴奈は嬉しそうにはにかむことが多くなった。
    「……ふふっ」
    「お姉さま、嬉しそうですね」
     尋ねた明奈に、晴奈は笑いながらこう返す。
    「そりゃ、嬉しいさ。あの黒炎殿が、私のために刀を打ってくれるんだからな」
    「そうですよね、うふふっ。……ねえ、お姉さま」
    「ん?」
    「手に入ったら、わたしにも見せていただいても、よろしいですか?」
     遠慮がちに尋ねる明奈に、晴奈は深々とうなずいて応えた。
    「勿論だ。……ふふ、楽しみだ、本当」
    「クス、お姉さま子供みたい」
     期待に満ちた目で空を眺める晴奈を見て、明奈も楽しそうに笑った。
     今日も清々しい、初夏の蒼い空――蒼天が、空一面に広がっていた。



    「ふむ」
     大火がどこかの工房で、ペンをしきりに走らせている。晴奈に頼まれた刀の設計図を描いているのだ。
    「名前は、何としようか……」
     思索をめぐらせ、宙を見つめる。
    「ふむ」
     いい名前を思い付いたらしく、紙に書き付ける。
    「黄晴奈、の一字を取って『晴空刀 蒼天』としようか。
     クク……、蒼天の剣――あの女には良く似合いそうな刀だ」
     大火は腕を組み、もう一度クク、と笑った。

    蒼天剣・狷狼録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2010.06.03 加筆修正
    2016.04.08 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・狷狼録 9】へ
    • 【蒼天剣・傑士録 1】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    一応、逃げ回ってはいたんですが、それでも二度追いつかれましたからねぇ。
    しかも後の方は、肩を痛めてますし。
    逃げ切れないと悟っていたのかも。

    NoTitle 

    なんとなく、ワルラスにしろ、晴奈にしろ、真剣勝負の斬り合いのなかでしゃべりすぎなような気がします。しゃべっている隙があったらその隙に斬るなり逃げるなりすればいいんじゃないかなあ、と思ってしまうのですが……。

     

    「蒼天剣」は、勧善懲悪の色が強い作品ですからねぇ。
    基本的に、悪役は負ける運命にあります。
    ただ、昨今「仕方なく悪役になった、中身は善人」
    と言う設定の多い中、
    ワルラスは完全に、中身も悪人でいてくれました。
    グッジョブ(?

     

    おお、ワルラス死んじゃいましたね。まあ、確かに死亡フラグ立てまくっていたので、仕方がないのですが。最近じゃあ、死亡フラグ立てまくって生き残るキャラがも多い中、なかなか頑張ったんじゃないかと思います。なむ~~。
    どうも、LandMでした。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・狷狼録 9】へ
    • 【蒼天剣・傑士録 1】へ