「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・焦狐抄 1
麒麟を巡る話、第357話。
「金火狐」とは。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「ん?」
その、自分と同い年くらいの、鮮やかな金と赤の毛並みをした狐獣人の少年は、自分を見るなり、こう言った。
「ああ……、ニセモノやな」
「に、……せ、もの?」
相手が何を言っているのか分からず、聞き返す。
「どう言う意味?」
「そのままの意味や。君らみんな、ニセモノの金火狐や。
ウチらトーナ家だけが、ホンモノや。君らはただ金髪で赤メッシュ入ってるだけの、パチモン狐や」
「え? え?」
あまりに高圧的な物言いに、それが最早、罵倒なのか何なのか分からないでいる。
「分からへんか? 分からへんやろな。ニセモノやからな。本当の本当に、ホンモノがどれだけ偉いか、分かってへんのや。
大体な、ウチらのご先祖は……」
と、偉そうにしゃべっていた彼の頭を、がつっ、と殴りつける者が現れた。
「ぎっ……」
「だっ、誰がニセモノや、このガキッ!」
殴ったのは、自分の叔父に当たる男だった。
「い、痛い、痛いぃ……」
殴られた少年は頭を抱え、うずくまる。その手の間からは、ポタポタと血が滴っていた。
「俺は、おっ、俺もっ、き、金火狐やッ! お前らと何が違うッ!?」
「いいや」
そこへ豪華なスーツを着込んだ、威圧感のある、初老の狐獣人が現れた。
「お前はもう金火狐やあらへん。この場で縁切りや」
「なっ……」
「文句でもあるんか? 人ん家の子供をいきなりコップでどつきよるような粗忽者に、『俺は金火狐やぞ』と好き勝手に吹聴させるんを、私が許すと思とるんか?」
「……そらありますよ」
叔父はそのスーツの狐獣人に、拳を振り上げた。
「このパーティかてそうやないですか! 俺らも金火狐の一族のはずやのに、酒も飯も、回ってくるんは一番最後やったんですよ!?
なんで一族内でこんな差別しよるんですか……!」
「自分の身の程分かって言えや、そんなもん」
老狐は子供を助け起こし、ハンカチを彼の額に当てながら、叔父にこう返した。
「稼ぐもん稼いどったら、確かに金火狐や。稼ぐ人間であれば、そら勿論、金火狐やと認めたるよ。例え金と赤の毛並みやなくとも、や。
でもお前、いっつもフラフラ遊んどるやろ? お前の兄貴から金借りて、それ使うばっかりやろ?
今日のパーティかて、日頃汗水たらして仕事しとる一族を労うためのもんや。お前みたいに、毎日闘技場やらカジノやらでしけた賭けに明け暮れとるボンクラに飲ます酒は、一滴たりとも無い。
金を稼がへんヤツが、金火狐を名乗るな。もう一度言うで。お前は勘当や。出てけ」
「う……ぐ……ううううッ」
叔父は相当、頭に血が上っていたのだろう――近くにあった酒瓶を割り、老狐に向かって振り上げ、襲いかかった。
だが老狐の傍らにいた、その妻らしき狐獣人が叔父の手を取り、なんと投げ飛ばしてしまったのだ。
「おゎっ……」
叔父の体は弧を描き、ばたんと音を立てて、床に叩きつけられた。
「おーお、痛そうやなぁ」
「さ、流石に公安局長やな、あの奥さん」
「尻尾がぞわっとしたわ……」
と、一族が伸びてしまった叔父を囲んで眺めている間に、老狐が今度は、子供を叱りつけていた。
「お前もお前や。金火狐がなんで世界から認められとるか、ろくに分かっとらん。
なにが『ウチらはホンモノ』や。お前は今まで自分の頭と手足で、1エルでも稼いだことがあるんか? 無いやろ? お前はまだ、金火狐を名乗る資格を持ってへんわ。
お前の言葉を借りれば、稼がへんうちはただの、金と赤の毛並みをしとるだけのパチモンや。金火狐は金を稼いでこそ、世間様に『ホンモノや』と認められるんや」
これはスーツの老狐――第18代金火狐総帥、レオン6世が自分の孫に向けて語った言葉ではあったが、すぐ真横で成り行きを見守っていた自分にも、その言葉は心に深く刻み込まれていた。
(金火狐は金を稼いでこそ、……か)
マロは静かに目を覚ました。
「……うー、……ん」
重い頭をもたげ、机に置かれた時計を確認すると、まだ朝の5時だった。
(全っ然、寝た気せえへん……)
机の上、そして床には、破り捨てた新聞紙が散乱している。
(……うえ)
ひどいアルコール臭を感じ、布団の上を見てみると、ワインの空瓶とその中身が転がっている。
(あー……、嫌やなぁ、今日の会議。間違いなく怒られるわ……)
マロは瓶をつかみ、その口をぺろ、となめた。
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「金火狐」とは。
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「ん?」
その、自分と同い年くらいの、鮮やかな金と赤の毛並みをした狐獣人の少年は、自分を見るなり、こう言った。
「ああ……、ニセモノやな」
「に、……せ、もの?」
相手が何を言っているのか分からず、聞き返す。
「どう言う意味?」
「そのままの意味や。君らみんな、ニセモノの金火狐や。
ウチらトーナ家だけが、ホンモノや。君らはただ金髪で赤メッシュ入ってるだけの、パチモン狐や」
「え? え?」
あまりに高圧的な物言いに、それが最早、罵倒なのか何なのか分からないでいる。
「分からへんか? 分からへんやろな。ニセモノやからな。本当の本当に、ホンモノがどれだけ偉いか、分かってへんのや。
大体な、ウチらのご先祖は……」
と、偉そうにしゃべっていた彼の頭を、がつっ、と殴りつける者が現れた。
「ぎっ……」
「だっ、誰がニセモノや、このガキッ!」
殴ったのは、自分の叔父に当たる男だった。
「い、痛い、痛いぃ……」
殴られた少年は頭を抱え、うずくまる。その手の間からは、ポタポタと血が滴っていた。
「俺は、おっ、俺もっ、き、金火狐やッ! お前らと何が違うッ!?」
「いいや」
そこへ豪華なスーツを着込んだ、威圧感のある、初老の狐獣人が現れた。
「お前はもう金火狐やあらへん。この場で縁切りや」
「なっ……」
「文句でもあるんか? 人ん家の子供をいきなりコップでどつきよるような粗忽者に、『俺は金火狐やぞ』と好き勝手に吹聴させるんを、私が許すと思とるんか?」
「……そらありますよ」
叔父はそのスーツの狐獣人に、拳を振り上げた。
「このパーティかてそうやないですか! 俺らも金火狐の一族のはずやのに、酒も飯も、回ってくるんは一番最後やったんですよ!?
なんで一族内でこんな差別しよるんですか……!」
「自分の身の程分かって言えや、そんなもん」
老狐は子供を助け起こし、ハンカチを彼の額に当てながら、叔父にこう返した。
「稼ぐもん稼いどったら、確かに金火狐や。稼ぐ人間であれば、そら勿論、金火狐やと認めたるよ。例え金と赤の毛並みやなくとも、や。
でもお前、いっつもフラフラ遊んどるやろ? お前の兄貴から金借りて、それ使うばっかりやろ?
今日のパーティかて、日頃汗水たらして仕事しとる一族を労うためのもんや。お前みたいに、毎日闘技場やらカジノやらでしけた賭けに明け暮れとるボンクラに飲ます酒は、一滴たりとも無い。
金を稼がへんヤツが、金火狐を名乗るな。もう一度言うで。お前は勘当や。出てけ」
「う……ぐ……ううううッ」
叔父は相当、頭に血が上っていたのだろう――近くにあった酒瓶を割り、老狐に向かって振り上げ、襲いかかった。
だが老狐の傍らにいた、その妻らしき狐獣人が叔父の手を取り、なんと投げ飛ばしてしまったのだ。
「おゎっ……」
叔父の体は弧を描き、ばたんと音を立てて、床に叩きつけられた。
「おーお、痛そうやなぁ」
「さ、流石に公安局長やな、あの奥さん」
「尻尾がぞわっとしたわ……」
と、一族が伸びてしまった叔父を囲んで眺めている間に、老狐が今度は、子供を叱りつけていた。
「お前もお前や。金火狐がなんで世界から認められとるか、ろくに分かっとらん。
なにが『ウチらはホンモノ』や。お前は今まで自分の頭と手足で、1エルでも稼いだことがあるんか? 無いやろ? お前はまだ、金火狐を名乗る資格を持ってへんわ。
お前の言葉を借りれば、稼がへんうちはただの、金と赤の毛並みをしとるだけのパチモンや。金火狐は金を稼いでこそ、世間様に『ホンモノや』と認められるんや」
これはスーツの老狐――第18代金火狐総帥、レオン6世が自分の孫に向けて語った言葉ではあったが、すぐ真横で成り行きを見守っていた自分にも、その言葉は心に深く刻み込まれていた。
(金火狐は金を稼いでこそ、……か)
マロは静かに目を覚ました。
「……うー、……ん」
重い頭をもたげ、机に置かれた時計を確認すると、まだ朝の5時だった。
(全っ然、寝た気せえへん……)
机の上、そして床には、破り捨てた新聞紙が散乱している。
(……うえ)
ひどいアルコール臭を感じ、布団の上を見てみると、ワインの空瓶とその中身が転がっている。
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マロは瓶をつかみ、その口をぺろ、となめた。
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