「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・焦狐抄 2
麒麟を巡る話、第358話。
財務部長マロの失敗。
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2.
くたびれ始めたスーツを着込み、左目部分のみ黒く染めた眼鏡をかけ、マロは白猫党の本拠地、ドミニオン城の会議室に入った。
中には既に、白猫党の幹部たちが揃っている。
「おはよう、ゴールドマンくん」
「おはようございます」
ぺこ、と頭を下げて会釈したが、空気が非常に重苦しいものであることを、マロは下げた頭で感じていた。
「着席する前に、まずはこれを読んでもらおうか」
イビーザ幹事長が机の上に新聞を投げ、マロに送る。
「……」
マロはそれをつかみ、一面を読み上げようとした。
「『第18代金火狐総帥 今年末での引退を表明』……」「そこじゃない。めくれ。経済面だ。赤ペンで示してあるところを読んでくれ」
イビーザに指摘され、マロは渋々、経済面を読み上げた。
「……えー、はい、読みますよ。『クラム最安値更新 白猫党のデノミ政策失敗か』」「それだよ」
イビーザは机の上で両手を組み、マロをにらむ。
「君はこのホワイト・クラムの価値を創造できると豪語していたな?」
「ええ」
「あれが568年のことだったが、それから2年。その価値は上がるどころか、下がり続ける一方だ」
「はい」
「これは我が白猫党の財政政策、そして君にとっては、新たな資金獲得が失敗した。そう捉えて間違いないか?」
「……いえ」
「では、何が成功している? このホワイト・クラムの価値下落によって我が党、あるいは君にとって、プラスになった点はあるのか?」
「その、……まあ、今現在、かなり安いもんになっとるんは事実ですが、その分、ここから価値の高騰に成功すれば、大儲けに……」「では」
イビーザが顔をさらにしかめさせ、続けて詰問する。
「その高騰は、いつ起こる? 君がこのホワイト・クラムを発行し始めてから2年が経過しているが、高騰する兆候も様子も、いまだに見られない。
君の言う大儲け、即ちホワイト・クラムが真に我々の資金として確立され、白猫党の支配圏における基軸通貨となるのは、一体いつになるのだ?」
「……それは」
「はっきり言おう」
イビーザが立ち上がり、マロを指差す。
「君が担当した政策、いや、『金儲け』は失敗している。
我々の通貨として創造したはずのクラムは、巷では主たる通貨として使われていないと言う。未だに東側のコノン通貨が、大多数の庶民に使われる金として出回っているのが現状だ。
君が余計な欲を出し、真摯に支配圏内の地域通貨として浸透させようとせず、単なる投機商品として野放図に、市場にバラ撒いてきた結果だ。
庶民はこれを、カネと思っていないのだ」
「……」
何も言い返せず、マロは立ち尽くしていた。
と、マロの背後のドアが、トントンとノックされる。
「もう入室してよろしいですか?」
「入ってきたまえ」
「失礼します」
静かな足取りで、いかにも堅そうな印象を抱かせる身なりの猫獣人が入ってくる。
「あ……?」
呆然としているマロをよそに、その猫獣人は、昨日までマロが着いていた席に座る。
「お、おい? お前、誰やねん? そこ、俺の……」「君の席ではない」
イビーザは猫獣人の肩をぽんと叩き、マロに紹介して見せた。
「本日付で我々の党に、新たな財務部長として就任した、東部沿岸開発銀行元頭取のヤルマー・S・オラース氏だ。君の後任となる」
「……へっ?」
「当然の結果だろう? 君は党の威信を懸けた財政政策において、致命的な失敗をした。我々の党に貢献できず、それどころか被害を与えている以上、更迭は然るべき処置だ。
マラネロ・アキュラ・ゴールドマン。君は本日を以て、白猫党財務部長の任を解く」
「っ……」
マロはすがる思いで、党首であり、かつての同窓生でもあるシエナ・チューリンを見る。
しかしシエナは目をそらし、わずかに手を振った。
(『こっちを見るな、しっ、しっ』……て。ちょ、助けてくれへん、……の?)
マロはこの時、党内で孤立無援の存在となったことを悟った。
「ああ、そうそう。
そのですな、ゴールドマンさんには悪い印象を与えるかと思いますが、これだけは経済人として、はっきり言わせていただこうと思います」
さらにこの直後――マロは己の信念さえも、この新任者オラースにぽっきりと折られることになった。
「何故ゴールドマンさん、あなたは新造したばかりのお金で、投機に手を出してしまわれたのでしょう?
あんなことをすれば間違いなく失敗すると、経済に明るい人なら誰でも分かるはずですが」
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財務部長マロの失敗。
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くたびれ始めたスーツを着込み、左目部分のみ黒く染めた眼鏡をかけ、マロは白猫党の本拠地、ドミニオン城の会議室に入った。
中には既に、白猫党の幹部たちが揃っている。
「おはよう、ゴールドマンくん」
「おはようございます」
ぺこ、と頭を下げて会釈したが、空気が非常に重苦しいものであることを、マロは下げた頭で感じていた。
「着席する前に、まずはこれを読んでもらおうか」
イビーザ幹事長が机の上に新聞を投げ、マロに送る。
「……」
マロはそれをつかみ、一面を読み上げようとした。
「『第18代金火狐総帥 今年末での引退を表明』……」「そこじゃない。めくれ。経済面だ。赤ペンで示してあるところを読んでくれ」
イビーザに指摘され、マロは渋々、経済面を読み上げた。
「……えー、はい、読みますよ。『クラム最安値更新 白猫党のデノミ政策失敗か』」「それだよ」
イビーザは机の上で両手を組み、マロをにらむ。
「君はこのホワイト・クラムの価値を創造できると豪語していたな?」
「ええ」
「あれが568年のことだったが、それから2年。その価値は上がるどころか、下がり続ける一方だ」
「はい」
「これは我が白猫党の財政政策、そして君にとっては、新たな資金獲得が失敗した。そう捉えて間違いないか?」
「……いえ」
「では、何が成功している? このホワイト・クラムの価値下落によって我が党、あるいは君にとって、プラスになった点はあるのか?」
「その、……まあ、今現在、かなり安いもんになっとるんは事実ですが、その分、ここから価値の高騰に成功すれば、大儲けに……」「では」
イビーザが顔をさらにしかめさせ、続けて詰問する。
「その高騰は、いつ起こる? 君がこのホワイト・クラムを発行し始めてから2年が経過しているが、高騰する兆候も様子も、いまだに見られない。
君の言う大儲け、即ちホワイト・クラムが真に我々の資金として確立され、白猫党の支配圏における基軸通貨となるのは、一体いつになるのだ?」
「……それは」
「はっきり言おう」
イビーザが立ち上がり、マロを指差す。
「君が担当した政策、いや、『金儲け』は失敗している。
我々の通貨として創造したはずのクラムは、巷では主たる通貨として使われていないと言う。未だに東側のコノン通貨が、大多数の庶民に使われる金として出回っているのが現状だ。
君が余計な欲を出し、真摯に支配圏内の地域通貨として浸透させようとせず、単なる投機商品として野放図に、市場にバラ撒いてきた結果だ。
庶民はこれを、カネと思っていないのだ」
「……」
何も言い返せず、マロは立ち尽くしていた。
と、マロの背後のドアが、トントンとノックされる。
「もう入室してよろしいですか?」
「入ってきたまえ」
「失礼します」
静かな足取りで、いかにも堅そうな印象を抱かせる身なりの猫獣人が入ってくる。
「あ……?」
呆然としているマロをよそに、その猫獣人は、昨日までマロが着いていた席に座る。
「お、おい? お前、誰やねん? そこ、俺の……」「君の席ではない」
イビーザは猫獣人の肩をぽんと叩き、マロに紹介して見せた。
「本日付で我々の党に、新たな財務部長として就任した、東部沿岸開発銀行元頭取のヤルマー・S・オラース氏だ。君の後任となる」
「……へっ?」
「当然の結果だろう? 君は党の威信を懸けた財政政策において、致命的な失敗をした。我々の党に貢献できず、それどころか被害を与えている以上、更迭は然るべき処置だ。
マラネロ・アキュラ・ゴールドマン。君は本日を以て、白猫党財務部長の任を解く」
「っ……」
マロはすがる思いで、党首であり、かつての同窓生でもあるシエナ・チューリンを見る。
しかしシエナは目をそらし、わずかに手を振った。
(『こっちを見るな、しっ、しっ』……て。ちょ、助けてくれへん、……の?)
マロはこの時、党内で孤立無援の存在となったことを悟った。
「ああ、そうそう。
そのですな、ゴールドマンさんには悪い印象を与えるかと思いますが、これだけは経済人として、はっきり言わせていただこうと思います」
さらにこの直後――マロは己の信念さえも、この新任者オラースにぽっきりと折られることになった。
「何故ゴールドマンさん、あなたは新造したばかりのお金で、投機に手を出してしまわれたのでしょう?
あんなことをすれば間違いなく失敗すると、経済に明るい人なら誰でも分かるはずですが」
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双月千年世界 目次 / あらすじ

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短編・掌編

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未分類

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雑記

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クルマのドット絵

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携帯待受

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カウンタ、ウェブ素材

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
おひさ(^^)
なんか白猫さん、大きな口を叩いている割には、
「二流ないしは一流半」
の人間ばかり集めて革命運動というか世界征服活動をやっている感じであります。
新任が来た、といっても、前任者がこれでは、ヤルマーさんの手腕も……かっこいいこといっているみたいに見えますけど、要は後知恵。立場が逆だったらマロくんも同じような指摘をできるんじゃないかなあ。まあこれからのお手並みを拝見というところですが。
また読みに来ます~。
なんか白猫さん、大きな口を叩いている割には、
「二流ないしは一流半」
の人間ばかり集めて革命運動というか世界征服活動をやっている感じであります。
新任が来た、といっても、前任者がこれでは、ヤルマーさんの手腕も……かっこいいこといっているみたいに見えますけど、要は後知恵。立場が逆だったらマロくんも同じような指摘をできるんじゃないかなあ。まあこれからのお手並みを拝見というところですが。
また読みに来ます~。
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NoTitle
真に一流の人間であれば、そもそも神託に頼らないですしね。
後知恵と言うよりは、「歴史に学んだ」と言う感じです。
本日掲載分で説明がありますが、マロの場合、過去の史実、教訓から、自分に都合のいいところだけしか抜き取っていません。