「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・焦狐抄 3
麒麟を巡る話、第359話。
金を稼げぬ金火狐。
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3.
「なんやと?」
マロの口から、憤った言葉が勝手に漏れ出た。
「俺が、経済を知らんアホやと言いたいんか?」
「ええ。そう断じざるを得ません」
オラース氏は持っていたかばんから、書類を取り出した。
「これはそもそも本日、この席でしようと企画していた話ですが……。
まず、このデータをご覧下さい。深刻なインフレのモデルとして有名な、4世紀に滅亡した北方ノルド王国(以下『ノ国』)と、それを征服したジーン王国(以下『ジ国』)のものです」
「……!」
それはかつて、マロがホワイト・クラムによるデノミ政策の手本とした、先祖の手柄の話だった。
「ノ国では諸外国――まあ、当時だと主に中央政府ですかね――からの散々な経済圧力により、深刻なインフレが進んでいました。それはもう、国民全体の生活が困難になるほどに。
で、4世紀のはじめにジ国が成立したのですが、当然新興国なので、新しく通貨を造ろうと言う動きがありました。ノ国の通貨を流用か、もしくは協定を結んで自国でも発行しようにも、その価値があまりにも低すぎたと言うのも、理由の一つです。
と言うわけで、ジ国は新たな通貨を新造したのですが、ここでジ国はこの通貨の国外への持ち出しをしばらくの間、禁止していたのです。そうしなければ、新しい通貨も諸外国からの投機に使われて、餌食となるのは明白ですから」
「……っ」
オラース氏に指摘されたのはまさしく、マロが失敗した内容そのものである。
マロは何も言い返せず、黙って立っているしか無かった。
「ですので私は、ホワイト・クラムの価値が安定するまで、この通貨の域外持ち出しの禁止と、変動相場制から段階的かつ局所的、限定的な固定相場制への転換を推めようと考えています。
同時に域内における商工会と連携して同通貨の使用奨励政策を打ち出し、まずは央北に浸透させることを優先させようかと」
「なるほど」
オラース氏の所見を聞き、イビーザは深くうなずいた。
「くっくっく……、同じ歴史から、こうも違う結論が導かれるとは」
「と言うと?」
「そこの彼も同じことを引き合いに出し、どう言うわけか、投機に走ったのだ」
「まさか!」
オラース氏はマロをチラ、と見て、眉をひそめた。
「それは無いでしょう。この話のどこをどう聞いたら、そんな結論に?」
それを受け、イビーザもマロを見、鼻で笑った。
「やはり経済観の無さが浮き彫りになったな、ゴールドマンくん?」
その後の会議においても、マロは幹部陣に、執拗なまでに痛めつけられた。そしてその内容は党全体に広まり、マロの党における地位は、徹底的に貶められることとなった。
そこまで経済家としての評価・評判を落とされては、マロはこれ以上、財務部で働くことはできない。
いや、白猫党におけるどんな職務すらも与えらえず――マロは事実上の、除名処分を受けた。
党幹部から一転、最下位の厄介者となったマロは自宅のアパートに籠り、日々酒に浸ることしかできなくなった。
「ふへへ……へへへへ……」
床もベッドもワインまみれになり、マロはその中央に倒れ込んでいる。
左手にはワインの瓶が、そしてもう一方の手には新聞が握りしめられていた。
「……もーアカン……どないもならんわ……くそぉ……」
新聞の一面には、央中で、いや、世界全体で今、最も話題を集めている人物らが掲載されていた。
「CCタイムズ 一面 570年2月某日
金火狐総帥の後任選挙 最有力候補は孫のエミリオ氏か
先月15日に総帥職からの引退が発表された18代金火狐財団総帥、レオン・M・T・ゴールドマン氏の後任を決定する選挙が、7月30日に決定した。
関係者筋の情報によれば、選挙には既にゴールドマン総帥の孫であり、トーナ・ゴールドマン家の子息であるレオン・エミリオ・T・ゴールドマン氏と、ベント・ゴールドマン家の息女、ルーマ・V・ゴールドマン氏が立候補しており、現時点ではエミリオ氏が最有力候補と目されている。
一方、総帥選挙に立候補する資格を持ち、かつ、前立候補者2名と同年代であるアキュラ・ゴールドマン家の子息、マラネロ・A・ゴールドマン氏は、現時点では立候補を行っていない模様」
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金を稼げぬ金火狐。
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3.
「なんやと?」
マロの口から、憤った言葉が勝手に漏れ出た。
「俺が、経済を知らんアホやと言いたいんか?」
「ええ。そう断じざるを得ません」
オラース氏は持っていたかばんから、書類を取り出した。
「これはそもそも本日、この席でしようと企画していた話ですが……。
まず、このデータをご覧下さい。深刻なインフレのモデルとして有名な、4世紀に滅亡した北方ノルド王国(以下『ノ国』)と、それを征服したジーン王国(以下『ジ国』)のものです」
「……!」
それはかつて、マロがホワイト・クラムによるデノミ政策の手本とした、先祖の手柄の話だった。
「ノ国では諸外国――まあ、当時だと主に中央政府ですかね――からの散々な経済圧力により、深刻なインフレが進んでいました。それはもう、国民全体の生活が困難になるほどに。
で、4世紀のはじめにジ国が成立したのですが、当然新興国なので、新しく通貨を造ろうと言う動きがありました。ノ国の通貨を流用か、もしくは協定を結んで自国でも発行しようにも、その価値があまりにも低すぎたと言うのも、理由の一つです。
と言うわけで、ジ国は新たな通貨を新造したのですが、ここでジ国はこの通貨の国外への持ち出しをしばらくの間、禁止していたのです。そうしなければ、新しい通貨も諸外国からの投機に使われて、餌食となるのは明白ですから」
「……っ」
オラース氏に指摘されたのはまさしく、マロが失敗した内容そのものである。
マロは何も言い返せず、黙って立っているしか無かった。
「ですので私は、ホワイト・クラムの価値が安定するまで、この通貨の域外持ち出しの禁止と、変動相場制から段階的かつ局所的、限定的な固定相場制への転換を推めようと考えています。
同時に域内における商工会と連携して同通貨の使用奨励政策を打ち出し、まずは央北に浸透させることを優先させようかと」
「なるほど」
オラース氏の所見を聞き、イビーザは深くうなずいた。
「くっくっく……、同じ歴史から、こうも違う結論が導かれるとは」
「と言うと?」
「そこの彼も同じことを引き合いに出し、どう言うわけか、投機に走ったのだ」
「まさか!」
オラース氏はマロをチラ、と見て、眉をひそめた。
「それは無いでしょう。この話のどこをどう聞いたら、そんな結論に?」
それを受け、イビーザもマロを見、鼻で笑った。
「やはり経済観の無さが浮き彫りになったな、ゴールドマンくん?」
その後の会議においても、マロは幹部陣に、執拗なまでに痛めつけられた。そしてその内容は党全体に広まり、マロの党における地位は、徹底的に貶められることとなった。
そこまで経済家としての評価・評判を落とされては、マロはこれ以上、財務部で働くことはできない。
いや、白猫党におけるどんな職務すらも与えらえず――マロは事実上の、除名処分を受けた。
党幹部から一転、最下位の厄介者となったマロは自宅のアパートに籠り、日々酒に浸ることしかできなくなった。
「ふへへ……へへへへ……」
床もベッドもワインまみれになり、マロはその中央に倒れ込んでいる。
左手にはワインの瓶が、そしてもう一方の手には新聞が握りしめられていた。
「……もーアカン……どないもならんわ……くそぉ……」
新聞の一面には、央中で、いや、世界全体で今、最も話題を集めている人物らが掲載されていた。
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一方、総帥選挙に立候補する資格を持ち、かつ、前立候補者2名と同年代であるアキュラ・ゴールドマン家の子息、マラネロ・A・ゴールドマン氏は、現時点では立候補を行っていない模様」



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NoTitle
フォコさん苦労人ですからねえ……。
ボンボンのマロくんが真似できるわけもなかったということですか。
ボンボンのマロくんが真似できるわけもなかったということですか。
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フォコがジーン王国の建国に携わった時の年齢は、同じ20歳。
同じ歳でも、経験量が決定的に違いました。