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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・焦狐抄 4

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    麒麟を巡る話、第360話。
    金火狐総帥選挙。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     金火狐一族――ゴールドマン家の者に「あなたの家にとって『最も複雑な事情』とは何か」と尋ねれば、誰もがこう答えるだろう。
    「そらアンタ、総帥を選ぶ時の選挙やろ」

     次代総帥の選出方法を一族内での選挙制に定めたのは第10代総帥、ニコル3世である。
     ニコル3世が総帥になった頃には既に、金火狐財団総帥と言う地位は世界を左右するほどの権力と財力を有しており、単純に世襲や指名などで選ぶには、弊害が大きくなっていた。
     その上、この頃から金火狐一族は三つの家――トーナ家、ベント家、アキュラ家――に分化し始めており、総帥の意向だけで次代候補を指名しようとすれば、一族は大きく揉め、激しい争いを起こすことは必至だった。
     そこで「総帥の独断と偏見ではなく、一族の総意として選出すべき」と言う周囲の意見を取り入れ、選挙形式を執ることになったのである。

     この選挙に立候補できる資格を持つのは、次の者に限られる。
     まず第一に、金火狐一族の血族(血がつながっている者)であること。第二に、21歳から40歳までの者である。
     そして選挙の投票者だが、これは現総帥とその配偶者、そして金火狐財団の局長5名――監査局長、金火狐商会長、市政局長(ゴールドコースト市国の市長)、入出国管理局長、そして公安局長――の、計7名に限られている。
     この7名が認めた者、言い換えればこの7名に気に入られた者が、次の総帥となれるのだ。



     マロの場合、名目上の条件2項は満たしていたが、事実上3つ目となる条件、即ち7名からの信頼を集めることが困難であった。
     まず、御三家の中でも最も下位と見られているアキュラ家の出身であったことが、彼を苦しめていた。他の二家と比べられれば、どうしても見劣りするからだ。
     さらには、既に立候補を表明している2人は、今現在においても金火狐財団において、十分な成果を挙げている。彼らが今後も金火狐にとって、極めて重用される人材であることは明らかであり、現時点でマロが立候補しようとも、この2人に勝てる見込みは皆無だった。
     大きな後ろ盾を持たないマロにとって、白猫党における地位は、この2人に対抗できる武器になるはずだったのだが――自身の政治生命を賭けたデノミ政策の失敗により、それを追われてしまった。
     あと半年後には選挙が開始されると言うこの時期において、未だマロは、選挙に勝てるだけの材料を揃えられずにいた。

    (ひと昔前やったら、……まあ、諦めも付いとったわ。
     そもそも俺らアキュラ家には手も届かんような地位やし、選挙に立候補したかて、『身の程知らずのアホがおるわ』と思われる程度で、笑われて終わりやと分かっとったからな。
     せやから気楽に、元々好きやった魔術の勉強のんびりしとったし、割とええ成績出してたからテンコちゃんのゼミに推薦されたりとか、……ああ、ホンマに気楽やった。
     それが、……なんで今、こんな苦しんでんねやろ、俺。ゼミでそこそこの卒論出して、『後はまー気楽に隠居しとこかなー』とかヘラヘラ笑っとったとこに、アオイさんが来て、で、『きみの金火狐一族としての血を信じたい』とか言われて、……ああ、そうや。あの一言で俺、舞い上がってしもたんや。
     ずーっと一族の外様で、財団からはぬるい仕事しか振られへんで、ハナから『俺たちみーんな金火狐のパチモンや』と思て、本流に入る努力せんと暮らしてきた俺たちや。金火狐の誇り――カネを稼いでこそ、そうと認められる『オーロラテイル』の誇りを捨てて生きてたんや、俺たちは。
     でもアオイさんに頼まれた、その時や。俺はアオイさんに、金火狐として頼られとる。そう思った瞬間、目一杯頑張ったろうって、そう思ったんや。
     この世で最もカネを稼ぐと信じられとる一族。俺はカネを稼いで稼いで、アオイさんを助けたろうと思った。
     そしていつかは総帥になって、アオイさんと吊り合う人間になろうと思った、……のに、……、……くそッ)
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    身に余る地位に振り回されてしまっています。
    不憫といえば不憫。

     

    「人間は自分の能力が役に立たない地位まで出世する」

    「権力は、それを持たない者を消耗させる」

    マーフィーの法則でした。地でいってるよマロくん(^_^;)
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