「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・焦狐抄 5
麒麟を巡る話、第361話。
マロの焦り。
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5.
マロは実家、アキュラ家に電話をかけた。
「……よお、親父」
《お? なんや、マロかいな。何や、いきなり?》
家を出た当時と変わらず、マロの父、モデノは気さくを装った、しかしどこかに陰気さを漂わせた声で、マロに応じた。
「元気、しとった?」
《あー、元気しとったけども、元気だけやな》
「儲かっとる?」
《ボチボチ以下やな。そら、損はしてへんけども、お前がゼミいた時みたいなことされたらきつなるわー》
「あー……、あん時はホンマ、ごめんな。でも金は返したやろ。ノシ付けて」
《あー、せやな。せやったわ、悪い悪い。
ほんで、いきなりどないしたんや?》
「あ、いや、……元気しとるかな、って」
《そうかー》
取り留めもないことを話しつつ、マロは本題を恐る恐る切り出した。
「……あー、……あの、アレどないなった?」
《アレって何やねんや? ボケたじいさんやあらへんのやから、はっきり言いなや》
「お、おう。アレや、……あの、選挙、の」
《選挙? ……あーあー、アレか》
「親父も『アレ』言うてるやん」
《細かいこと言うなや。ほんで、選挙やな。
お前、新聞読んどるか?》
「ああ」
《大体それの通りや。トーナ家のエミリオと、ベント家のルーマが立候補しとる。
トーナ家もベント家も、他の資格者は出馬せえへんみたいやな。2人の足を引っ張らへんように、ちゅう考えやろ。
ほんで、お前どうすんねん? 今22やから、出れるやろ?》
「お、俺な。うん、まあ、……せや、カルパは?」
妹の名前を出してみたが、モデノは呆れた声で返してくる。
《アホ、あの子はまだ17や。資格なんかあらへん。
アキュラ家の筋で資格有りなんは、お前といとこのフランコとヴィニョンと、後はミランダくらいや。でも一応、お前が一番まともやろうっちゅうことで、今のところはお前を優先しよかっちゅうて話しとるところや》
「そ、そうか」
《まあ、出えへん言うんやったら、さっき言うた奴の誰かに打診するけども。どないする?》
「う、まあ、……うーん、出たいけどな」
《はっきりせえ。こっちかて、お前一人を優遇でけへんねからな》
「あ、うん」
《出るんか?》
「……もうちょい、返事待ってもらえへん?」
《あー? 何言うてんねや。……ちょっと待ちや》
モデノから明らかに不機嫌そうな声が返り、しばらくしてこう続けてきた。
《6月、……いや、5月末までやな。それでええか? それ以上返事せえへんかったら、こっちで勝手に決めさしてもらうで》
「……分かった。また、電話するわ」
《おう。早よ言うてな》
「ほな、また」
《ほなな》
自分の置かれた状況を確認すればするほど、マロは己に失望し、未来に絶望せざるを得なかった。
「……はー……」
党内で何も仕事が与えられず、実家にも、到底手ぶらでは戻れない。
何もやることが無く、どこへも行けないため、その日もマロは、自宅で一人、酒を呑んでいた。
「どないしたらええねんやろ……」
酔った頭で自分の今後を考えるが、素面の時にも何度か行ったその思索は、結局は同じ結論を導き出した。
(……もうどないもならへん。
何もさせてもらえへんなら、もう党を抜けるしか無いやろな。総帥選挙も、名実ともにパチモンになった俺なんかが出てもしゃーない。他の奴に出てもらうしか無いやろ。
その後は、……全部放っぽって逃げるしかないな。もう俺はアカン)
そしてぽつりと、こんな言葉が口を突いて出た。
「……他に道は無いな。アカンわ、俺」
その直後――マロの背後から突然、そして静かに、返事が返ってきた。
「いえいえ、あなた様にはまだ進むことのできる道がございます」
「……っ!?」
その声に驚き、マロは慌てて振り向く。
そこには黒と青のドレスに身を包んだ少女が立っていた。
「だ、誰や!?」「お静かに」
と、またも背後から声がかけられる。
そちらを振り向くと、そこにも黒と赤のドレスに身を包んだ少女がいる。
「あなた様にご依頼したい件がございます。どうかお聞き下さいますよう、お願いいたします」
「……」
呆気に取られたまま、マロは素直に従い、黙り込んだ。
そしてまた、背後から声がかけられる。
「マラネロ・アキュラ・ゴールドマン様。どうかわたくし共に、力をお貸しくださいませ」
そこに現れたのは、白いローブを頭から被った女性だった。
白猫夢・焦狐抄 終
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マロの焦り。
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マロは実家、アキュラ家に電話をかけた。
「……よお、親父」
《お? なんや、マロかいな。何や、いきなり?》
家を出た当時と変わらず、マロの父、モデノは気さくを装った、しかしどこかに陰気さを漂わせた声で、マロに応じた。
「元気、しとった?」
《あー、元気しとったけども、元気だけやな》
「儲かっとる?」
《ボチボチ以下やな。そら、損はしてへんけども、お前がゼミいた時みたいなことされたらきつなるわー》
「あー……、あん時はホンマ、ごめんな。でも金は返したやろ。ノシ付けて」
《あー、せやな。せやったわ、悪い悪い。
ほんで、いきなりどないしたんや?》
「あ、いや、……元気しとるかな、って」
《そうかー》
取り留めもないことを話しつつ、マロは本題を恐る恐る切り出した。
「……あー、……あの、アレどないなった?」
《アレって何やねんや? ボケたじいさんやあらへんのやから、はっきり言いなや》
「お、おう。アレや、……あの、選挙、の」
《選挙? ……あーあー、アレか》
「親父も『アレ』言うてるやん」
《細かいこと言うなや。ほんで、選挙やな。
お前、新聞読んどるか?》
「ああ」
《大体それの通りや。トーナ家のエミリオと、ベント家のルーマが立候補しとる。
トーナ家もベント家も、他の資格者は出馬せえへんみたいやな。2人の足を引っ張らへんように、ちゅう考えやろ。
ほんで、お前どうすんねん? 今22やから、出れるやろ?》
「お、俺な。うん、まあ、……せや、カルパは?」
妹の名前を出してみたが、モデノは呆れた声で返してくる。
《アホ、あの子はまだ17や。資格なんかあらへん。
アキュラ家の筋で資格有りなんは、お前といとこのフランコとヴィニョンと、後はミランダくらいや。でも一応、お前が一番まともやろうっちゅうことで、今のところはお前を優先しよかっちゅうて話しとるところや》
「そ、そうか」
《まあ、出えへん言うんやったら、さっき言うた奴の誰かに打診するけども。どないする?》
「う、まあ、……うーん、出たいけどな」
《はっきりせえ。こっちかて、お前一人を優遇でけへんねからな》
「あ、うん」
《出るんか?》
「……もうちょい、返事待ってもらえへん?」
《あー? 何言うてんねや。……ちょっと待ちや》
モデノから明らかに不機嫌そうな声が返り、しばらくしてこう続けてきた。
《6月、……いや、5月末までやな。それでええか? それ以上返事せえへんかったら、こっちで勝手に決めさしてもらうで》
「……分かった。また、電話するわ」
《おう。早よ言うてな》
「ほな、また」
《ほなな》
自分の置かれた状況を確認すればするほど、マロは己に失望し、未来に絶望せざるを得なかった。
「……はー……」
党内で何も仕事が与えられず、実家にも、到底手ぶらでは戻れない。
何もやることが無く、どこへも行けないため、その日もマロは、自宅で一人、酒を呑んでいた。
「どないしたらええねんやろ……」
酔った頭で自分の今後を考えるが、素面の時にも何度か行ったその思索は、結局は同じ結論を導き出した。
(……もうどないもならへん。
何もさせてもらえへんなら、もう党を抜けるしか無いやろな。総帥選挙も、名実ともにパチモンになった俺なんかが出てもしゃーない。他の奴に出てもらうしか無いやろ。
その後は、……全部放っぽって逃げるしかないな。もう俺はアカン)
そしてぽつりと、こんな言葉が口を突いて出た。
「……他に道は無いな。アカンわ、俺」
その直後――マロの背後から突然、そして静かに、返事が返ってきた。
「いえいえ、あなた様にはまだ進むことのできる道がございます」
「……っ!?」
その声に驚き、マロは慌てて振り向く。
そこには黒と青のドレスに身を包んだ少女が立っていた。
「だ、誰や!?」「お静かに」
と、またも背後から声がかけられる。
そちらを振り向くと、そこにも黒と赤のドレスに身を包んだ少女がいる。
「あなた様にご依頼したい件がございます。どうかお聞き下さいますよう、お願いいたします」
「……」
呆気に取られたまま、マロは素直に従い、黙り込んだ。
そしてまた、背後から声がかけられる。
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そこに現れたのは、白いローブを頭から被った女性だった。
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