黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第3部

    蒼天剣・傑士録 1

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    晴奈の話、第156話。
    戦争の終結。

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    1.
     双月暦518年、初夏。
     焔流・央南連合と、黒炎教団の戦いは、いよいよ終わりを迎えようとしていた。

     黄州平原の陣で大敗北を喫して以来、黒炎教団の勢いは目に見えて衰えていた。2年半に渡って戦いを続けるも一向に成果が上がらず、央南支配を強く推し進めていたワルラス卿も死亡したため、教団内では撤退の声が強くなっていた。
     そしてついに6月、ワルラスの後を継いで央南布教の担当に当たっていたウィルバーの姉、ウェンディ卿が宣言した。



    「今度こそ、撤退を考えましょう」
    「ちょ、ちょっと……、待って下さいよ、姉上!」
     央南侵攻の会議に参加していたウィルバーは姉の言葉に驚き、立ち上がった。
    「騒々しいわよ、ウィル。落ち着いて聞きなさい」
    「……はい」
     姉に睨まれ、ウィルバーは渋々座り直す。ウェンディは咳払いをし、話を続ける。
    「515年末から現在までの2年半、あなたがずっと頑張ってきたのは知っています。でも、一向に成果を上げられていない。
     それどころか、515年当時に維持していた教区のいくつかも、黄州平原での戦いでそのほとんどを失いました。もはや、勢力の拡大と言う話をするような状況ではありません。
     それよりも失った教区を取り戻すことと、もっと平和的に布教活動を行う方法を話し合う方が、懸命だと思います」
    「だ、だけど焔は放っといていいのかよ!?」
     ウィルバーは辛うじてそう反論するが、会議に参加していた者は異口同音に、否定的な意見を並べる。
    「放っておくと言うわけじゃない。だが、時期が極めて悪いのだ」
    「今の焔流はここ数十年の中で、いつになく力をつけている。ウィルバー君も気付いているだろう、その手強さに」
    「加えて潤沢な資金や、優秀なブレーンも付いている。反面、我々は……」
    「根強く央南教化を唱え続けてきたワルラス卿が消え、士気も戦いが始まった頃に比べ、著しく下がっている」
    「それに今、教団の評判はひどく悪い。ワルラス卿の取った行動により非難が相次いでいるし、これ以上野蛮な振る舞いはしたくないのだ」
    「後、あんまり言いたくは無いが、この数年間ずっと、教団の出納は赤字続きでな。寄進や央中相手の貿易で賄えていた分を、ワルラス卿の独断専横のせいで大幅に超えてしまっている」
    「つまり、このまま戦いを続けても、我々に旨味が無いのだ。負けても、勝ってもな」
     意見が一通り出たところで、ウィリアムが総括する。
    「圧倒的に反対が多数だ。よって、戦いはやめることにしよう。今後は教団内の体制立て直しと強化、物資や資金の節制と貯蓄に努めよう」
    「……」
     ウィルバーはこの逆風に――戦いを必要としていない、ひいては戦いにずっと赴いてきた自分が必要とされていないことにとてつもない不安と苛立ちを覚え、何も言えなくなった。

    「ウィル、いつまで座ってるの?」
     会議が終わってもまだぼんやりと座り込んでいたウィルバーに、ウェンディが話しかける。
    「……あ」
    「落ち込むのは分かるけど」
     ため息をつきつつ、ウェンディが隣に座る。
    「もう、どうしようも無いのよ。ちゃっちゃと気を入れ替えなさい」
    「……できっかよ、そんな器用なコト」
     ウィルバーは青い顔で、ゆらりと席を立つ。
    「ウィル?」
    「このままじゃ、オレの気が済まねえんだよ」
    「何する気?」
    「せめて決着付けさせてくれ。オレとあの女の決着を」
     ウェンディは眼鏡を外し、ウィルバーを仰ぎ見る。
    「あの『猫』のこと? いいえ、やめなさいウィル。もう戦いは終わりなのよ。まだ分からない……」「うるせええええッ!」
     相手の剣幕にウェンディは不快そうな目を向けるが、ウィルバーは止まらない。
    「オレの中じゃまだ、終わってねえ! このまま決着付けずにいられるかよ!? 『戦争は終わりだ』とか、勝手なコト抜かしてんじゃねえよ!」
    「じゃあ、あんたが勝手にすれば?」
    「ああ、そうさせてもらうぜ」
     怒りの収まらないウィルバーに、ウェンディが冷たく言い放つ。
    「言ったわね? じゃあうちとはもう、縁を切りなさいよ」
    「はぁ?」
     ウェンディはガン、と机を叩き、辛辣な言葉を浴びせる。
    「ウィルソン家と縁、切れって言ったのよ。あんたもう、一族のお荷物だから。父上もひどく、失望しているそうよ。これ以上、恥かかせないで」
    「……ああ、上等だ! 縁でも何でも、勝手に切っとけ!」
     ウィルバーは姉に背を向け、荒々しい足取りで議事堂を後にした。



     事の顛末を聞き、ウィリアムは表情を曇らせた。
    「そうか……。あいつ、そんなことを言ったか」
    「でも、これで良かったでしょう? これでもう、あの子に悩まされずに済みます」
     ウェンディの言葉に、ウィリアムはしばらく沈黙した後、静かにうなずいた。
    「……考え方によっては、確かに、そうかも知れん。
     あれはもう、修羅になりかかった愚か者だ。1年か、2年か……、外に出して己を見直させなければならぬだろう。
     もし、あいつが己を省み、その不明に気付いたら、その時はきっと復縁させてやろう」
     そう言って、ウィリアムは寂しげな顔を見せた。

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    2016.04.08 修正
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