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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・訪賢抄 2

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    麒麟を巡る話、第363話。
    規格外の魔力源。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     マークたちがこの4年、地道に研究を続けていたのと同様に、フィオとパラもこの日、いつもと同じように稽古を行っていた。
    「よーし! 空中コンボだ!」
    「分かりました」
     フィオの命令に従い、パラはふわりと跳び上がりながら、フィオに向かって何度も木刀を打ち下ろす。
     しかしフィオは、その3太刀目を強めに弾き、パラの体勢を崩す。
    「りゃあッ!」
     フィオはがら空きになったパラのあごに、木刀の先端をちょん、と当て、そのまま仰向けに倒れた。
    「素晴らしいです」
     パラは音もなく着地し、フィオに振り返って会釈した。
    「ありがとう。……あご、大丈夫?」
    「はい。損傷を受けるほどではありません」
     そう返し、パラはちょん、と自分のあごを指差した。
     その仕草を見て、フィオは黙り込んでしまう。
    「……」
    「どうされました」
    「いや……、なんか、……その」
     口ごもるフィオに、パラがこう続けた。
    「可愛かったでしょうか」「へっ!?」
     がばっと上半身を起こしたフィオに、パラは首を傾げる。
    「違いますか」
    「い、いや、確かに可愛いよ。……君の口からそんな言葉が出ると思ってなかっただけで」
    「シャランとクオラに教わりました」
    「あ、そ、そうなんだ。……びっくりした、本当に」
     フィオが立ち上がったところで、パラがまた尋ねる。
    「動揺しましたか」
    「えっ!? ……い、いや」
    「しているように見えます」
    「ま、まあ。君らしくない言葉を聞いたから」
    「わたくしらしくない、とは」
    「可愛いとか、そんなことを言うタイプじゃないと思ってたし」
    「そうですか」
     会釈とはどこか違う様子で、パラは頭を傾ける。
    「……」
     無言になったパラに、フィオはいつも通りに声をかけた。
    「今日はこの辺にしようか」
    「はい」
     パラも元通りに、顔を上げた。

     と――。
    「そこの水色頭」
     どこからか、声が飛んできた。
    「え?」
     フィオが辺りを見回すと、いつの間にか人影が一つ、すぐ近くにあった。
    「君、鈍感すぎやしないね?」
    「僕のことか?」
    「他にいるかってね」
     そのいかにも古典的な魔術師のような格好をした狐獣人は、フィオを指差した。
    「人形が相手とは言え、今のは女の子に対して吐くセリフじゃないね。マイナス3点ってとこだね」
    「誰だ、あんた?」
    「賢者サマさ」
    「は?」
     フィオが呆れる一方、パラは木刀を構える。
    「魔力値11000MPP以上を計測、極めて重篤な被害をもたらす対象と断定!
     フィオ! 至急、警戒態勢を取り、その対象から離れて下さい!」
    「え?」
     フィオはこの時、はじめてパラが声を荒げるのを聞いた。
     しかし木刀を向けられても、相手は特に動じた様子を見せない。
    「人を放射性物質みたいに言うもんじゃないね、人形ちゃん」
    「通常の人間ではあり得ない数値を記録しています! 警戒態勢、解除できません!」
    「あー、めんどくさいねぇ」
     相手は懐から、一枚の金属板を差し出した。
    「水色。コレ、その子に見せてあげな」
    「人を色で呼ぶな。僕はフィオリーノ・ギアトだ。あんたが見せればいいだろ?」
    「いいから。君じゃないと受け付けそうにないしね」
     差し出された金属板を、フィオは受け取ろうとする。しかしパラは依然、大声で注意を促してくる。
    「危険です! 接近を中止し、対象から退避して下さい! 危険です!」
    「いーから」
    「……」
     パラをチラチラと確認しつつ、フィオはその金属板を受け取り、パラに向けた。
    「危険です! きけ……『データダウンロード …… …… …… インストールを開始します』」
     見せた途端、パラの口から謎の文字の羅列が飛び出す。直後にパラの目から光が消え、そのまま黙りこんでしまった。
    「だ、大丈夫か、パラ!?」
    「問題無いね」
    「無いように見えるか! 一体、彼女に何をしたんだ!?」
     食ってかかるフィオに対し、相手は平然としている。
    「落ち着けってね。平たく言や、私が誰なのかってコトを教えてあげてるね」
    「はあ……?」
     と、パラの目に光が戻る。
    「失礼いたしました。モール様、認証完了いたしました」
    「どーも」
     パラの口からその名前を聞かされ、フィオは絶句した。
    「なっ……!?」
    「ご紹介の通りさね。賢者、モール様だ」
     そう言ってモールは、帽子のつばを上げてニヤッと笑った。
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