「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・訪賢抄 4
麒麟を巡る話、第365話。
賢者の評価。
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4.
マークを伴い、研究室に入った白衣姿のモールは、きょろきょろと室内を見回す。
「ふーん……、レトロな工房を想像してたけど、ソレなりに近代的だね」
「ありがとうございます」
モールが壁に貼られた注意書きを眺めたり、ケージ内の兎をからかったりしている間に、マークは書類を取り出し、机に置いた。
「こちらがうちのチームでまとめた、これまでの研究成果です」
「ん、よしよし」
モールは書類を一束取って目を通し、「ふーん」とだけつぶやく。
「どうでしょうか?」
「どうって?」
二冊目に手を伸ばしつつ、モールが尋ねる。
「えーと、どうって言うのは、その」
「何て言ってほしいね? 良く出来ましたって?」
「……」
馬鹿にしたようなような物言いに、マークはむっとする。
「違います」
「じゃあ何? 君さ、レストランでご飯を一口食べたトコで、シェフがニヤニヤしながら『いかがでございましょう?』なんてすり寄って来たとして、何か気の利いたコトが言えるね?」
「……まあ、……それは」
「感想はちゃんと言ってあげるから、しばらく黙ってなってね」
「……分かりました」
つっけんどんな態度を見せるモールにマークは最初、憮然としていた。
しかし――研究レポートをすべて見終えるまで、モールは紙面から一度も目を離すことはなく、真剣に見入っていた。
その様子を見て、マークが当初、モールに抱いていた悪感情は、いくらか薄まった。
「……お茶いりますか?」
「ありがとね」
ちなみにマークが持ってきたそのお茶も、モールは最後まで口を付けなかった。
モールがレポートを読み終わったところで、マークは再度、内容について尋ねてみた。
「どうでしょうか?」
「……あのね。だからさ、『どう』ってのは、何に対してどうって意味かって言ってるんだけどね」
「え?」
「君が言って欲しいのは何かって話だね。単にお世辞が聞きたいならいくらでも言ってやるけど、そうじゃないだろ? 何を聞きたいね、君は?」
「それは勿論、僕たちの研究チームが目標通りの成果を出しているか」
そう返したマークに対し、モールは冷笑して見せる。
「はっ、何かと思えば、何をバカなコト聞いてるね?」
「なっ」
憮然とするマークに対し、モールは冷ややかな目を向ける。
「自分で分かってるコトをわざわざ尋ねるのは、間抜けかグズのどっちかだね。そんなもん、聞かなくても君自身、分かってるんじゃないね?」
「う……」
一転、マークは深々と頭を下げ、謝罪した。
「すみません。確かに仰る通り、今のはただの確認でした」
「あるいはなぐさめを聞きたかったか、だね。
なるほど、惨憺たる内容だ。まるで山登りの途中で頂上もふもとも見えなくなって遭難したみたいな、スケールのでかい迷子だね」
「迷子……?」
「大方、研究チームに人が増えたせいで、全員共通の目標、目的があやふやになってるってトコだね。
はっきり言や、今、君のチームはまとまっているかのように見えて、その実、バラバラになりかけてるね。目指す目標は一緒でも、それを達成しようとする手法を、みんな自分勝手にまとめてるね。一見、協力してるように見えるけど、実際は非効率極まりないね。
いっぺん全員集めて、軽くテーマを決めて座談会でもしてみな。ビックリするくらい、それぞれの認識がズレてるのに気付くはずさ。
まずは全員の足並みを今一度揃えとかなきゃ、この先の研究はことごとく失敗するね。例え上手く行くのがあったとしても、遅々として進まないのは目に見えてるね」
「はあ……」
「ま、ソレは私があの……、なんだ、……あの猫獣人の名前、なんだっけね?」
「ルナさんですか?」
「そう、ソイツ。私がソイツと一緒に央中へ行ってる間にやっといてね。
ちゃんとした話をするのは、そっちの体制が固まってからだね。今、仮に何やかや助言したとしても、せいぜい研究開発が1つ成功するかしないか程度にしか、効果は無いだろうね」
「分かりました。仰る通りにしてみます」
「ん、よろしゅー」
モールは白衣を脱ぎつつ、研究室を後にした。
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4.
マークを伴い、研究室に入った白衣姿のモールは、きょろきょろと室内を見回す。
「ふーん……、レトロな工房を想像してたけど、ソレなりに近代的だね」
「ありがとうございます」
モールが壁に貼られた注意書きを眺めたり、ケージ内の兎をからかったりしている間に、マークは書類を取り出し、机に置いた。
「こちらがうちのチームでまとめた、これまでの研究成果です」
「ん、よしよし」
モールは書類を一束取って目を通し、「ふーん」とだけつぶやく。
「どうでしょうか?」
「どうって?」
二冊目に手を伸ばしつつ、モールが尋ねる。
「えーと、どうって言うのは、その」
「何て言ってほしいね? 良く出来ましたって?」
「……」
馬鹿にしたようなような物言いに、マークはむっとする。
「違います」
「じゃあ何? 君さ、レストランでご飯を一口食べたトコで、シェフがニヤニヤしながら『いかがでございましょう?』なんてすり寄って来たとして、何か気の利いたコトが言えるね?」
「……まあ、……それは」
「感想はちゃんと言ってあげるから、しばらく黙ってなってね」
「……分かりました」
つっけんどんな態度を見せるモールにマークは最初、憮然としていた。
しかし――研究レポートをすべて見終えるまで、モールは紙面から一度も目を離すことはなく、真剣に見入っていた。
その様子を見て、マークが当初、モールに抱いていた悪感情は、いくらか薄まった。
「……お茶いりますか?」
「ありがとね」
ちなみにマークが持ってきたそのお茶も、モールは最後まで口を付けなかった。
モールがレポートを読み終わったところで、マークは再度、内容について尋ねてみた。
「どうでしょうか?」
「……あのね。だからさ、『どう』ってのは、何に対してどうって意味かって言ってるんだけどね」
「え?」
「君が言って欲しいのは何かって話だね。単にお世辞が聞きたいならいくらでも言ってやるけど、そうじゃないだろ? 何を聞きたいね、君は?」
「それは勿論、僕たちの研究チームが目標通りの成果を出しているか」
そう返したマークに対し、モールは冷笑して見せる。
「はっ、何かと思えば、何をバカなコト聞いてるね?」
「なっ」
憮然とするマークに対し、モールは冷ややかな目を向ける。
「自分で分かってるコトをわざわざ尋ねるのは、間抜けかグズのどっちかだね。そんなもん、聞かなくても君自身、分かってるんじゃないね?」
「う……」
一転、マークは深々と頭を下げ、謝罪した。
「すみません。確かに仰る通り、今のはただの確認でした」
「あるいはなぐさめを聞きたかったか、だね。
なるほど、惨憺たる内容だ。まるで山登りの途中で頂上もふもとも見えなくなって遭難したみたいな、スケールのでかい迷子だね」
「迷子……?」
「大方、研究チームに人が増えたせいで、全員共通の目標、目的があやふやになってるってトコだね。
はっきり言や、今、君のチームはまとまっているかのように見えて、その実、バラバラになりかけてるね。目指す目標は一緒でも、それを達成しようとする手法を、みんな自分勝手にまとめてるね。一見、協力してるように見えるけど、実際は非効率極まりないね。
いっぺん全員集めて、軽くテーマを決めて座談会でもしてみな。ビックリするくらい、それぞれの認識がズレてるのに気付くはずさ。
まずは全員の足並みを今一度揃えとかなきゃ、この先の研究はことごとく失敗するね。例え上手く行くのがあったとしても、遅々として進まないのは目に見えてるね」
「はあ……」
「ま、ソレは私があの……、なんだ、……あの猫獣人の名前、なんだっけね?」
「ルナさんですか?」
「そう、ソイツ。私がソイツと一緒に央中へ行ってる間にやっといてね。
ちゃんとした話をするのは、そっちの体制が固まってからだね。今、仮に何やかや助言したとしても、せいぜい研究開発が1つ成功するかしないか程度にしか、効果は無いだろうね」
「分かりました。仰る通りにしてみます」
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