「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・訪賢抄 5
麒麟を巡る話、第366話。
ソリがあわない。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
モールが廊下に出たところで、再びルナと顔を合わせた。
「どうかしら、うちのレベルは? 賢者サマが満足行くほどじゃないでしょうけど」
「そうとも」
にべもなくそう言い放ったモールに、ルナはニヤッと笑って見せた。
「でしょうね。特に気になったのはチームワークかしら」
「……君、聞いてたね?」
「いいえ? これはあたしなりの所見よ」
そう前置きし、ルナはこう続けた。
「最近、マークが――まあ、注意するほどじゃないけど――あたしに相談や報告もせずに、自分勝手な研究計画を立てることが度々あったのよね。ま、実行に移す前に、カノジョにやんわり止められてるみたいだけど。
大方、あたしの鼻を明かしたいと思ってやってるんでしょうけどね」
「目的を見誤ってるね、そりゃ。崇高に扱うべき学術研究を自分の名誉欲で濁してるね」
「そんなところね。余計なものに囚われて本道を踏み外す好例よ」
「だからここらで一旦、ちょっと離れて見守っててやろう、ってコトかね」
モールの指摘に、ルナはまた、ニヤッと笑う。
「ふふ……、流石の見識ね。
ええ、そのつもりもあるわ。勿論あたしの本意はあなたを引き入れ、研究を大きく進めることにあるわ。
そろそろあの子を人間にして、ためらってる一歩を踏み出させてあげたいもの」
「あの子?」
「パラよ。あなたにとってはただの人形でしかないでしょうけど」
「ああ、ソレについて聞きたいんだけどもね」
モールはぴっ、とルナを指差した。
「あの人形、ドコで手に入れたね? 分かってると思うけど、アレはただの自律人形じゃないね」
「百も承知よ。あの子はあたしにとって、とっても大事な愛娘よ」
「ケッ」
モールはルナをにらみ、にじり寄る。
「何が愛娘だ、アイツの危険性を分かってもいないクセに」
「危険? どこがよ?」
「分かってるはずだね、アレは難訓の造った高性能ゴーレムだ。今は可愛がりしてても、いつ何時、難訓の支配下に戻って牙を剥くか分からない、物騒な代物だね。
それはこの先、人間になったとしても同様だ。克の関係者なら、ソレを知ってるはずだろう?」
「なったら、その時はその時よ。あたしが引導を渡してやるわ」
「自分の思い通りにならなきゃ即、廃棄ってか? 勝手な親もあったもんだね」
「ならないと確信しているが故に、よ。あの子は絶対にそんなこと、しないわ」
「どうだかね」
「アンタの思ってるより、あたしとパラの絆は強いってことよ。うわべの知識で物を測るアンタよりもね」
「フン」
モールは不機嫌そうに鼻を鳴らし、ルナの横をすり抜けて、玄関へと歩いて行く。
「話は平行線だ。コレ以上何を言い合っても無駄だね。
また明日、同じ時間に来るね。詳しい予定を話し合いに来る。それじゃね」
「はい、はい。じゃあね」
ルナは背を向けたまま、モールに手を振った。
バタン、と乱暴気味に玄関の戸が閉まったところで、ルナの寝室からパラが出てきた。
「主様」
「なに?」
「……」
パラは一見、いつも通りの無表情を浮かべているように見えるが、ルナは見透かした。
「いいのよ、何も言わなくて。失礼な奴だったから、こっちも失礼で返しただけよ」
「はい」
「あなたのことは、あたしが一番信頼してる。あなたはどんな時も、あたしの味方であり、友であり、そして娘よ」
「はい」
パラはぎゅっと、ルナの手を握りしめた。
市街地に入ったところで、モールはフィオとばったり出会った。
「あっ」
「ん?」
しかし、フィオが驚いている一方、モールはきょとんとしている。
「……あの、夕方はどうも」
「夕方? ……あーあー、はいはい。あの時の君か」
「忘れてた、……のか?」
「色々やってたからね」
モールは苛立たしげに、研究所でのルナとのやり取りを説明した。
「ホントにあの猫女ときたらね、……ん?」
が、話を聞いていたフィオが、神妙な顔をして黙りこんでしまったため、モールはけげんな顔をする。
「どうしたね?」
「……570年……そうか、よく考えれば今年だ……!」
「あ?」
突然、フィオはモールの手を握る。
「お?」
「モールさん、是非僕も、その調査に加わらせてくれ!」
「はあ? いきなり何を……」
「お願いだ! そうしなきゃ……」
言いかけて、フィオは口をつぐむ。
「そうしなきゃ、何なの? はっきり言いなってね」
「詳しい事情は言えないが、僕はそれに参加しなきゃいけないんだ」
「ワケ分からんね。その事情が何なのか、言わなきゃどうしようもないね」
「……それは……」
黙り込んだフィオを、モールはじっと眺めていたが、やがて「ま、いいさ」と返した。
「え……」
「パッと見、君は私が『ダメだね』っつっても無理やり来るタイプだね。なら最初から、目の届くトコにいててくれた方がマシってもんだね」
「……ありがとう」
フィオは再度、モールと堅い握手を交わした。
@au_ringさんをフォロー
ソリがあわない。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
モールが廊下に出たところで、再びルナと顔を合わせた。
「どうかしら、うちのレベルは? 賢者サマが満足行くほどじゃないでしょうけど」
「そうとも」
にべもなくそう言い放ったモールに、ルナはニヤッと笑って見せた。
「でしょうね。特に気になったのはチームワークかしら」
「……君、聞いてたね?」
「いいえ? これはあたしなりの所見よ」
そう前置きし、ルナはこう続けた。
「最近、マークが――まあ、注意するほどじゃないけど――あたしに相談や報告もせずに、自分勝手な研究計画を立てることが度々あったのよね。ま、実行に移す前に、カノジョにやんわり止められてるみたいだけど。
大方、あたしの鼻を明かしたいと思ってやってるんでしょうけどね」
「目的を見誤ってるね、そりゃ。崇高に扱うべき学術研究を自分の名誉欲で濁してるね」
「そんなところね。余計なものに囚われて本道を踏み外す好例よ」
「だからここらで一旦、ちょっと離れて見守っててやろう、ってコトかね」
モールの指摘に、ルナはまた、ニヤッと笑う。
「ふふ……、流石の見識ね。
ええ、そのつもりもあるわ。勿論あたしの本意はあなたを引き入れ、研究を大きく進めることにあるわ。
そろそろあの子を人間にして、ためらってる一歩を踏み出させてあげたいもの」
「あの子?」
「パラよ。あなたにとってはただの人形でしかないでしょうけど」
「ああ、ソレについて聞きたいんだけどもね」
モールはぴっ、とルナを指差した。
「あの人形、ドコで手に入れたね? 分かってると思うけど、アレはただの自律人形じゃないね」
「百も承知よ。あの子はあたしにとって、とっても大事な愛娘よ」
「ケッ」
モールはルナをにらみ、にじり寄る。
「何が愛娘だ、アイツの危険性を分かってもいないクセに」
「危険? どこがよ?」
「分かってるはずだね、アレは難訓の造った高性能ゴーレムだ。今は可愛がりしてても、いつ何時、難訓の支配下に戻って牙を剥くか分からない、物騒な代物だね。
それはこの先、人間になったとしても同様だ。克の関係者なら、ソレを知ってるはずだろう?」
「なったら、その時はその時よ。あたしが引導を渡してやるわ」
「自分の思い通りにならなきゃ即、廃棄ってか? 勝手な親もあったもんだね」
「ならないと確信しているが故に、よ。あの子は絶対にそんなこと、しないわ」
「どうだかね」
「アンタの思ってるより、あたしとパラの絆は強いってことよ。うわべの知識で物を測るアンタよりもね」
「フン」
モールは不機嫌そうに鼻を鳴らし、ルナの横をすり抜けて、玄関へと歩いて行く。
「話は平行線だ。コレ以上何を言い合っても無駄だね。
また明日、同じ時間に来るね。詳しい予定を話し合いに来る。それじゃね」
「はい、はい。じゃあね」
ルナは背を向けたまま、モールに手を振った。
バタン、と乱暴気味に玄関の戸が閉まったところで、ルナの寝室からパラが出てきた。
「主様」
「なに?」
「……」
パラは一見、いつも通りの無表情を浮かべているように見えるが、ルナは見透かした。
「いいのよ、何も言わなくて。失礼な奴だったから、こっちも失礼で返しただけよ」
「はい」
「あなたのことは、あたしが一番信頼してる。あなたはどんな時も、あたしの味方であり、友であり、そして娘よ」
「はい」
パラはぎゅっと、ルナの手を握りしめた。
市街地に入ったところで、モールはフィオとばったり出会った。
「あっ」
「ん?」
しかし、フィオが驚いている一方、モールはきょとんとしている。
「……あの、夕方はどうも」
「夕方? ……あーあー、はいはい。あの時の君か」
「忘れてた、……のか?」
「色々やってたからね」
モールは苛立たしげに、研究所でのルナとのやり取りを説明した。
「ホントにあの猫女ときたらね、……ん?」
が、話を聞いていたフィオが、神妙な顔をして黙りこんでしまったため、モールはけげんな顔をする。
「どうしたね?」
「……570年……そうか、よく考えれば今年だ……!」
「あ?」
突然、フィオはモールの手を握る。
「お?」
「モールさん、是非僕も、その調査に加わらせてくれ!」
「はあ? いきなり何を……」
「お願いだ! そうしなきゃ……」
言いかけて、フィオは口をつぐむ。
「そうしなきゃ、何なの? はっきり言いなってね」
「詳しい事情は言えないが、僕はそれに参加しなきゃいけないんだ」
「ワケ分からんね。その事情が何なのか、言わなきゃどうしようもないね」
「……それは……」
黙り込んだフィオを、モールはじっと眺めていたが、やがて「ま、いいさ」と返した。
「え……」
「パッと見、君は私が『ダメだね』っつっても無理やり来るタイプだね。なら最初から、目の届くトコにいててくれた方がマシってもんだね」
「……ありがとう」
フィオは再度、モールと堅い握手を交わした。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~