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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・訪賢抄 6

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    麒麟を巡る話、第367話。
    交渉決裂。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     翌日、モールは再度、研究所を訪れた。
    「昨日言った通り、私と君で、央中を回って人形共と難訓が何やってるか、調査を行う。んで、そのメンバーにね、……えーと、何つったっけ、あの」
     モールはルナの傍らに立つパラに、渋々尋ねる。
    「人形。あの水色、なんて名前だっけね?」
    「候補が多岐に渡るため、お答えいたしかねます。ちなみにわたくしはパラと申します」
    「うぜぇ」
     モールは舌打ちし、ルナに尋ね直す。
    「君は知ってるかね? 水色の頭した長耳」
    「フィオのことかしら」
    「ああ、そう、そいつ。そいつも一緒に連れてく。構わないね?」
    「いえ、問題が一つあるわ」
     そう返したルナに、モールはけげんな顔をする。
    「ん? フィオがいちゃまずいね?」
    「そうじゃないわ」
     次の瞬間――ルナはモールの顔面に、拳を叩き込んでいた。

    「……ぐ……、な、んの、つもりだね」
     拳と顔の接触面から、わずかに紫色の光が明滅している。どうやらあらかじめ、防御魔術をかけていたらしい。
    「用意周到ね。……問題って言うのは、アンタのことよ。
     アンタ、自分を何様だと思ってるの? あたしや、あたしの友人に散々、失礼なことばかり言って。試すにしちゃ、度が過ぎるわよ。
     それとも単純に、気に入らないだけかしら?」
    「後者だね。どいつもこいつも、傍から見てて反吐が出そうなクソ甘ちゃんばっかりだったからね」
     拳がめり込んだまま、モールはそううそぶく。
    「どちらにしても、アンタがそんな態度続けるなら、この話は無しよ。あたしたちだけで勝手に調べるわ。
     自分勝手な奴が一人いるだけならまだしも、二人以上いちゃ、仕事なんかいっこもできやしないわよ」
    「……フン、自分が自分勝手だってのは自覚してるんだね」
     ようやく拳が顔から離れ、モールは真っ赤になった左目に手をかざす。
    「いてて……、まあ、私は一向に構わないけどね。
     君、交換条件のコトを忘れてるんじゃないね? 私の魔術が必要なんだろ? こんなコトするんなら、教えてやらないよ?」
    「こっちから願い下げよ、そんなもの」
     ルナはモールから離した右手を、彼の眼前に出したまま、親指を下にして見せつけた。
    「アンタの苔むした魔術に頼るより、あたしたちはあたしたちで道を切り開くわ」
    「フン、そうかい」
     モールは立ち上がり、ルナを見下ろす。
    「じゃあ話はご破算だ。コレで失礼するね」
    「二度とその顔見せんじゃないわよ?」
    「頼まれたって来てやるもんかね。勝手に家族ごっこでも学芸会でもやってろ」
     モールはソファを乱暴に蹴飛ばし、ルナがしたのと同様に親指を下げて見せつけ、それからドアも蹴飛ばして破り、ドスドスと足音を立てて出て行った。
    「……どーよ?」
     蝶番が弾け飛び、ぶらぶらと揺れるドアを見つめながら、ルナがつぶやく。
    「非常に素晴らしく魅惑的な対応です」
     相変わらず抑揚のない、しかしいつもより若干早口になったパラの言葉に、ルナは無言でニヤッと笑った。

     モールが研究所から出たところで、フィオと鉢合わせした。
     中での事情を知らないフィオは、何の気なしに挨拶する。
    「あ、モールさん。おはようございます」
     が、モールはフィオをにらみつけ、ペッと唾を吐きつけた。
    「死ね」
    「……え? え、ちょ、モールさん?」
     頬に唾をかけられ、目を丸くしたフィオに構わず、モールはそのまま歩き去ってしまった。



    「……どっちもどっちだ」
     事情をパラから聞いたフィオは、深いため息をついた。
    「申し訳ありません」
     パラはフィオの頬を拭いながら、ぺこりと頭を下げる。
    「いいよ、君が謝る必要無い。大人げない二人が悪いんだから」
    「悪かったわね。……いえ、本当に」
    「いえ……」
     フィオと同様に事情を聞いたマークも、肩をすくめて見せた。
    「正直、気が重かったのは事実です。これ以上リーダーが増えたら、それこそチームが分解しちゃいますよ」
    「そう言ってくれると、ほっとするわ。
     でも、どっちにしてもあたしとパラ、それからフィオの3人は、央中に行くわ」
    「え……」
     驚くマークに、フィオが説明する。
    「モールさんがいようといまいと、事態が怪しくなっていることに変わりはない。そして僕は、その事態がどんな結末を迎えるかも、知っているんだ」
    「どう言う、……いや、『未来の話』ってことだよね」
    「そうだ。570年、また世界に激震が走る。
     そう。僕が何故、天狐ゼミに来たか。何故、テンコちゃんと話をしたのか。その最大の理由はこの年に起きる、ある重大な事件にあるんだ」
    「事件? 何が起こるの?」
     尋ねたマークに、フィオは真剣な目でこう答えた。
    「央中・ミッドランドで、大規模な崩落が発生する。
     それは島の北部にあった丘が崩れ、その上に建てられていたラーガ邸を巻き込み、ラーガ家当主をはじめとして多数の犠牲者を出す、悲惨な結果をもたらす。
     その原因は――テンコちゃんの『本体』だ」

    白猫夢・訪賢抄 終
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    モールだろうと麒麟だろうと、いきなりぶん殴られれば相応に怒ります。
    兄や母のことは心底嫌いだと言っているルナですが、やってることがどこか似ているのは、血筋のせいなのかも。

    フィオもマークも、よくルナのせいでとばっちりを受けてます。
    多難な二人に幸あれ。

    NoTitle 

    モールさんも大人げないなあ。あれだけ生きてる割に……(^^;)

    ここにいるのは自分に比べたらガキみたいなやつらばかりじゃないか。そんなに度量が狭い人だったっけ(^^;)

    とにかくフィオさん、めげずにがんばれ。マークくんはとにかく生き残れ。どうやらこの中でまともな一般人はマークくんだけのようだから。(^^;)
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