「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・騙党抄 1
麒麟を巡る話、第368話。
与り知らぬ遊説。
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1.
「妙って、何が?」
そう尋ねたシエナに、イビーザは手紙を一通差し出した。
「こちらの差出元は央中のティント王国、スタンマインと言う街となっております。
内容は読んでいただければお分かりになるでしょうが、我が白猫党が当地で講演を開き、それが盛況であったことについての礼を述べるものです」
「……ドコですって? 聞いたコトが無いわね」
「それが問題なのです」
イビーザは深いため息をつきつつ、長い耳をコリコリと掻く。
「現在、我が党の活動は央北域内に限定しており、他地域への進出は今のところ、まだ行っておりません。それ故、党の活動として訪れたことが決して無いはずの央中からこのような礼状が送られることなど、論理的にあり得ないことです。
にもかかわらず、ここに手紙が存在しているのです。いや、これだけに留まらず、他にも同様の内容が書かれた文書が、央中各地から我が党宛に、続々と送られております」
「つまり……?」
シエナは手紙から顔を上げ、イビーザに視線を移した。
「党の誰かが勝手に遊説をしている、と?」
「もしくは我が党の名を騙っているか、ですな」
「考えられる悪影響は?」
「まず第一に、我が党の信用を落とすおそれがあります。
この、我々が関与しない遊説により、例えば無用な風説の流布が起こり、央中世論が混乱した場合、その責は名を騙った元、即ち我々に問われることは明白でしょう。そうなれば、今後の展望にも差し支えることは確実です。
もし万が一、央中からの反響なり悪影響なりが無かったとしても、我が党、いや、我々最高幹部の意向を無視し独断専行、あるいは名を騙ろうとする不届き者がいると広く知れ渡れば、党全体の統率において、少なからず影響を及ぼすでしょう。
私個人の意見といたしましては、早急に対応すべき案件と存じます」
いつも以上に苦々しい顔を向けるイビーザに、シエナも同意する。
「そうね。でも……」
「ええ。主だって央中へ赴き、活動するのは時期尚早でしょう」
依然として苦い顔を崩さず、イビーザはこう続ける。
「確かに終戦より2年が経過し、情勢も落ち着きを見せてきてはおります。しかしまだ、『新央北』の存在を無視して央中へ進出できるほど、体制が整ってはおりません」
「ええ、そうね。それはアタシも同意見だわ」
「恐らくは他の幹部も同様でしょう。
実際、もしも現状でうかつに央中へ進出するようなことをすれば、『新央北』は間違いなく、攻撃の機と見なすはず。強襲される危険性は、決して小さくないでしょうな。
とは言え、先程申し上げた懸念もあります。放っておくのは、決して得策とは言えませんぞ」
「ええ、ソレも分かってる。となると、秘密裏に動きたいところだけど……」
シエナは口元に手を当て、しばらく間を置いてこう返した。
「ロンダが諜報部を新設したわよね?」
「ええ」
「動いてもらおうかしら」
「現状では最も良い選択ではないかと」
シエナとイビーザは白猫軍司令、狼獣人のミゲル・ロンダの執務室を訪ねた。
「これは総裁閣下に幹事長閣下! 如何されましたか?」
シエナたちが部屋に入るなり、ロンダ司令は椅子から勢い良く立ち上がり、尻尾までいからせて敬礼した。
「楽にしてちょうだい。あなたに頼みたいことがあるのよ」
「閣下のご命令であれば、何なりとお申し付け下さい」
ロンダは敬礼を解くが、直立姿勢は崩さない。
「央中で我々最高幹部に何の報告もせず活動している者、もしくは我々の名を騙っている者がいる疑いがあるの。
でも党としての主だった動きは避けたいから、秘密裏に調査をお願いしたいの? できるかしら」
「なるほど」
ロンダは再度、かっちりと敬礼する。
「拝命いたしました! 早速諜報部に命じ、調査を行わせます!」
「ええ、頼んだわよ。結果が出たら出来る限り早急に、知らせてちょうだい」
「はい!」
結局、シエナたちが執務室を後にするまで、ロンダは敬礼を崩さなかった。
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与り知らぬ遊説。
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「妙って、何が?」
そう尋ねたシエナに、イビーザは手紙を一通差し出した。
「こちらの差出元は央中のティント王国、スタンマインと言う街となっております。
内容は読んでいただければお分かりになるでしょうが、我が白猫党が当地で講演を開き、それが盛況であったことについての礼を述べるものです」
「……ドコですって? 聞いたコトが無いわね」
「それが問題なのです」
イビーザは深いため息をつきつつ、長い耳をコリコリと掻く。
「現在、我が党の活動は央北域内に限定しており、他地域への進出は今のところ、まだ行っておりません。それ故、党の活動として訪れたことが決して無いはずの央中からこのような礼状が送られることなど、論理的にあり得ないことです。
にもかかわらず、ここに手紙が存在しているのです。いや、これだけに留まらず、他にも同様の内容が書かれた文書が、央中各地から我が党宛に、続々と送られております」
「つまり……?」
シエナは手紙から顔を上げ、イビーザに視線を移した。
「党の誰かが勝手に遊説をしている、と?」
「もしくは我が党の名を騙っているか、ですな」
「考えられる悪影響は?」
「まず第一に、我が党の信用を落とすおそれがあります。
この、我々が関与しない遊説により、例えば無用な風説の流布が起こり、央中世論が混乱した場合、その責は名を騙った元、即ち我々に問われることは明白でしょう。そうなれば、今後の展望にも差し支えることは確実です。
もし万が一、央中からの反響なり悪影響なりが無かったとしても、我が党、いや、我々最高幹部の意向を無視し独断専行、あるいは名を騙ろうとする不届き者がいると広く知れ渡れば、党全体の統率において、少なからず影響を及ぼすでしょう。
私個人の意見といたしましては、早急に対応すべき案件と存じます」
いつも以上に苦々しい顔を向けるイビーザに、シエナも同意する。
「そうね。でも……」
「ええ。主だって央中へ赴き、活動するのは時期尚早でしょう」
依然として苦い顔を崩さず、イビーザはこう続ける。
「確かに終戦より2年が経過し、情勢も落ち着きを見せてきてはおります。しかしまだ、『新央北』の存在を無視して央中へ進出できるほど、体制が整ってはおりません」
「ええ、そうね。それはアタシも同意見だわ」
「恐らくは他の幹部も同様でしょう。
実際、もしも現状でうかつに央中へ進出するようなことをすれば、『新央北』は間違いなく、攻撃の機と見なすはず。強襲される危険性は、決して小さくないでしょうな。
とは言え、先程申し上げた懸念もあります。放っておくのは、決して得策とは言えませんぞ」
「ええ、ソレも分かってる。となると、秘密裏に動きたいところだけど……」
シエナは口元に手を当て、しばらく間を置いてこう返した。
「ロンダが諜報部を新設したわよね?」
「ええ」
「動いてもらおうかしら」
「現状では最も良い選択ではないかと」
シエナとイビーザは白猫軍司令、狼獣人のミゲル・ロンダの執務室を訪ねた。
「これは総裁閣下に幹事長閣下! 如何されましたか?」
シエナたちが部屋に入るなり、ロンダ司令は椅子から勢い良く立ち上がり、尻尾までいからせて敬礼した。
「楽にしてちょうだい。あなたに頼みたいことがあるのよ」
「閣下のご命令であれば、何なりとお申し付け下さい」
ロンダは敬礼を解くが、直立姿勢は崩さない。
「央中で我々最高幹部に何の報告もせず活動している者、もしくは我々の名を騙っている者がいる疑いがあるの。
でも党としての主だった動きは避けたいから、秘密裏に調査をお願いしたいの? できるかしら」
「なるほど」
ロンダは再度、かっちりと敬礼する。
「拝命いたしました! 早速諜報部に命じ、調査を行わせます!」
「ええ、頼んだわよ。結果が出たら出来る限り早急に、知らせてちょうだい」
「はい!」
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