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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・騙党抄 2

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    麒麟を巡る話、第369話。
    央中での党評。

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    2.
     飛ぶ鳥を落とす勢いで成長・拡大を続ける白猫党は双月暦570年現在、既にただの政治結社ではなくなっている。
     豊富な財源と優秀なブレーンによる政治・経済指導、今や総勢3万人を超え、そしてそのすべてが最新装備で完全武装された強大な軍事力、そして何より「預言者」葵への、宗教にも近い信頼・信奉から来る絶大な結束力によって、央北の半分を手中に収めた彼らを「新たな帝国」、「第四の中央政府」と称する者さえ現れていた。

     当然、そんな彼らを危険視する者は少なくない。
     特に央中地域では、古来より央北の文化や体制を嫌う者が多く、その流れを踏襲するかのような行動を執る白猫党を忌避する者も多い。
     しかし、その一方で――。
    「いやー……、私としてはむしろ、白猫党の皆さんに拍手を送りたい気持ちが強いですけどねぇ」
     件の遊説者を探るため央中へと赴き、情報収集を行っていた諜報員たちは、そうした否定的意見とは正反対の、好意的な評価を何度か耳にした。
    「そんなものですか……? いや、我々はあくまで第三者的な立場としての意見を言っているだけですが」
     勿論、諜報員たちは余計な騒ぎを起こさないよう、身分を隠して行動している。その上での、相手のこの発言である。
    「まあ、私も中途半端にしか知らないですけど、ほら、央北天帝教の手先みたいなの、アレを倒したって話じゃないですか。その後を継いだ何とかって組織も、ついでに潰したらしいですし。
     央中天帝教徒たる我々からしてみれば『よくやった』、みたいな感じもあるんですよね」
    「なるほど」

     白猫党が「天政会」やその後身組織を易々と撃破したことは――それほど明確ではないにせよ――央中地域にも広く伝わっており、これを反央北天帝教の風潮、意思表示と見なす者も、決して少なくなかったのだ。



    「……そんなわけでして。『対象』の遊説活動も、こうした風潮に後押しされる形で、かなりの支持を集めている様子です」
    《そうか……》
     諜報員たちは、この調査依頼を直々に命じてきたロンダ司令への報告において、この好意的意見も、併せて伝えていた。
     その報告を、ロンダは嬉しそうな様子で聞いていたが、しかし一方で苦々しげな声で、こう返した。
    《この遊説が本当に、単に同志による、独断専行の喧伝活動であるのならば――勿論、勝手を咎めるべきではあるが――何とも喜ばしい話だ。我々の活動が遠い央中の地においても認められている、と言うことなのだからな。
     しかしこれが偽者、我々の権威と評判を笠に着た不埒者によるものであるならば、何とも許しがたい行為だ。我々の影響力のみならず、央中の方々の善意までも食い物にしているのだからな。
     引き続き、調査を続けてくれ》
    「了解です」



     結論から言えば、この調査の完遂には、手間はさほどかからなかった。
     諜報員たちはそれなりに優秀な者が揃っており、また、捜索対象も派手に遊説を繰り返していたため、その発見自体は実に容易だったのである。

     央中北西部から調査を始めてから2ヶ月、央中東部沿岸へと進んだところで、諜報員たちはその調査対象に追いついた。
    「ここで……、間違いないようだな」
    「みたいですね」
     諜報員たちはその「遊説者」の姿を確認するため、密かに講演会の会場へ潜入していた。
     評判のためか、会場は既に満員となっており、立ち見客の姿もチラホラと見受けられる。諜報員たちも席に着くことはできず、壁際に並んで会の開始を待っていた。
    「すごい数が集まったもんだ」
    「確かに。よほど宣伝に力を入れていたか……」
    「もしくは、よほど巷の評判になっているか、だな。……ま、両方かも知れんが」
     雑談している間に、壇上に司会者らしき短耳が現れる。
    「お待たせしました。これより白猫党最高幹部、エルナンド・イビーザ幹事長による講演会を開催いたします」
     出席者の名前を聞き、諜報員たちは一斉に噴き出した。
    「ぶっ……、よりによって幹事長閣下の名を騙ったか」
    「相当な恥知らずだな!」
    「あるいはものすごい度胸の持ち主か、ですね」
     司会の紹介を受け、その「遊説者」が壇上に現れた。
    「あれが『対象』だな」
    「狐獣人の男性で、20代半ば、……いや、前半? 髪は金髪に赤いメッシュが少し……、金火狐一族のようにも見えますね」
    「……ん?」
     と、諜報員たちはその狐獣人を見て、一様に既視感を覚えた。
    「見覚えが無いか……?」
    「あります」
    「同じく。確かに党本部で見た覚えがある」
     間を置いて、三人は同時に、同じ人物の名をつぶやいた。
    「……マラネロ・ゴールドマン元財務部長か?」
     壇上に立ち、大仰に話し始めたその人物は――要職を追われ、失意の底にあるはずのマロだった。
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