「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・騙党抄 3
麒麟を巡る話、第370話。
偽者の正体。
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3.
講演会は盛況のうちに幕を閉じ、イビーザの名を騙って出席したマロは、ニコニコ笑いながら退出して行った。
しかし諜報員たちは額に青筋を浮かべ、怒りを露わにした様子で会場を飛び出す。
「ゴールドマンめ……! すぐに拘束してくれる!」
「幹事長閣下の名を借りておいて、あんな話を展開するとは!」
「どう考えても我々、白猫党全体の品位を損ねていることは明白ですよッ!」
講演会においてマロが公言した内容は――確かに白猫党の党是・活動理念に、ある程度は沿ったものであったが――ここ数年で党の基本思想になりつつある、「預言者への無償かつ無限の信頼・信奉」に欠けた、いや、むしろそれに真っ向から対立するようなものだったのだ。
「なにが『我が党に加盟すれば、今なら央北との取引に優先権が付くよう便宜させていただきまっさ』だッ!」
「我が党は光輝ある政治結社であって、取引所やその代理人じゃない!」
「ゴールドマンめ、もう魂胆が見えたぞ! 我が党で閑職に追いやられた腹いせに、我が党の権威を失墜させ、ついでに私腹を肥やすつもりだな!」
三人は足早に廊下を進み、マロがいるであろう控室へと急いだ。
と――三人の前に、黒と赤のドレスを着た少女が現れた。
「うん……?」
そのドレスの少女は三人に、やんわりとした口調で声をかけた。
「幹事長さまにご面会でしょうか」
「ふざけるな! 誰が幹事長だと!?」
諜報員の一人がそう怒鳴ると、少女はやはり、落ち着いた声で返す。
「なるほど。察しますに、あなた方は白猫党の関係者でございますね」
「そうだと言ったら?」
「幹事長さまが本来は、元財務部長であることもご存知でしょうか」
「ああ」
「あなた方の目的は、幹事長さまの拘束と考えて相違ございませんでしょうか」
「くどい! あんな男を幹事長などと呼ぶな! いいからどけッ!」
問答に苛立った諜報員の一人が、少女を突き飛ばそうとした。
だが――。
「あなた方は我々の計画遂行に悪影響を及ぼすと判断いたしました。よって、排除いたします」
次の瞬間、少女を突き飛ばそうとした諜報員の胸から背中にかけて、大穴が開いた。
「……え、っ……?」
何が起こったのか分からず、その諜報員は自分の胸に手をやり――そしてどさっ、と重い音を立てて倒れた。
「な、なっ、なんっ……」
「ひ、いっ」
一瞬にして仲間を殺され、残った二人は立ち竦む。
そしてその一瞬後に、彼らも仲間の後を追うこととなった。
三人が血の海に沈んだところで、控室のドアが開く。
「……今の、何です?」
部屋の中から、マロがけげんな顔を覗かせるが、廊下の惨状を見て「うっ……」とうめく。
「計画は次の段階へ移行いたしました」
振り返り、血まみれになった顔を見せた少女に、マロは青い顔をしつつも、こう応じた。
「そう、ですか、……分かりました。ほんなら、……次は、ミッドランドでしたな?」
「ええ。わたくしは『片付け』を行いますので、マロさまはこのまま宿へとお向かい下さい。
明日の昼には出発いたします予定ですので、あまり夜更かしはなさらないよう、お願いいたします」
「……分かりました」
マロは一度控室に戻り、荷物をまとめてもう一度ドアを開け、そそくさと出て行った。
なお――その時には既に、廊下には血の一滴も残っていなかった。
それから二日後。
白猫党本部、ドミニオン城に、非常に大きな木箱が送り付けられた。
「宛先は『白猫党幹部ご一同』となっております」
「そう」
自動車一台分もの体積があったため、木箱は城の中庭へ置かれていた。
シエナとイビーザ、そしてトレッドの三人はその前に集まり、木箱の中身を確かめようとしていた。
と、そこへロンダが慌ててやって来る。
「お待ちください、皆さん!」
「あら、どうしたの?」
「ハァ、ハァ……、どうしたの、ではございません! あまりにも怪しいと、お思いになりませんか!?」
息せき切りつつそう尋ねられ、シエナは素直にうなずく。
「思うわ。だから開けかねてたのよ」
「そうでしたか、……それなら、はい、大丈夫ですね、はい。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「構わないわよ。それでロンダ、コレをどうする気?」
「我々白猫軍が重装備態勢の元、中身を改めます。よろしいでしょうか?」
「ええ、お願い」
この申し出も素直に、シエナはうなずいた。
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偽者の正体。
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3.
講演会は盛況のうちに幕を閉じ、イビーザの名を騙って出席したマロは、ニコニコ笑いながら退出して行った。
しかし諜報員たちは額に青筋を浮かべ、怒りを露わにした様子で会場を飛び出す。
「ゴールドマンめ……! すぐに拘束してくれる!」
「幹事長閣下の名を借りておいて、あんな話を展開するとは!」
「どう考えても我々、白猫党全体の品位を損ねていることは明白ですよッ!」
講演会においてマロが公言した内容は――確かに白猫党の党是・活動理念に、ある程度は沿ったものであったが――ここ数年で党の基本思想になりつつある、「預言者への無償かつ無限の信頼・信奉」に欠けた、いや、むしろそれに真っ向から対立するようなものだったのだ。
「なにが『我が党に加盟すれば、今なら央北との取引に優先権が付くよう便宜させていただきまっさ』だッ!」
「我が党は光輝ある政治結社であって、取引所やその代理人じゃない!」
「ゴールドマンめ、もう魂胆が見えたぞ! 我が党で閑職に追いやられた腹いせに、我が党の権威を失墜させ、ついでに私腹を肥やすつもりだな!」
三人は足早に廊下を進み、マロがいるであろう控室へと急いだ。
と――三人の前に、黒と赤のドレスを着た少女が現れた。
「うん……?」
そのドレスの少女は三人に、やんわりとした口調で声をかけた。
「幹事長さまにご面会でしょうか」
「ふざけるな! 誰が幹事長だと!?」
諜報員の一人がそう怒鳴ると、少女はやはり、落ち着いた声で返す。
「なるほど。察しますに、あなた方は白猫党の関係者でございますね」
「そうだと言ったら?」
「幹事長さまが本来は、元財務部長であることもご存知でしょうか」
「ああ」
「あなた方の目的は、幹事長さまの拘束と考えて相違ございませんでしょうか」
「くどい! あんな男を幹事長などと呼ぶな! いいからどけッ!」
問答に苛立った諜報員の一人が、少女を突き飛ばそうとした。
だが――。
「あなた方は我々の計画遂行に悪影響を及ぼすと判断いたしました。よって、排除いたします」
次の瞬間、少女を突き飛ばそうとした諜報員の胸から背中にかけて、大穴が開いた。
「……え、っ……?」
何が起こったのか分からず、その諜報員は自分の胸に手をやり――そしてどさっ、と重い音を立てて倒れた。
「な、なっ、なんっ……」
「ひ、いっ」
一瞬にして仲間を殺され、残った二人は立ち竦む。
そしてその一瞬後に、彼らも仲間の後を追うこととなった。
三人が血の海に沈んだところで、控室のドアが開く。
「……今の、何です?」
部屋の中から、マロがけげんな顔を覗かせるが、廊下の惨状を見て「うっ……」とうめく。
「計画は次の段階へ移行いたしました」
振り返り、血まみれになった顔を見せた少女に、マロは青い顔をしつつも、こう応じた。
「そう、ですか、……分かりました。ほんなら、……次は、ミッドランドでしたな?」
「ええ。わたくしは『片付け』を行いますので、マロさまはこのまま宿へとお向かい下さい。
明日の昼には出発いたします予定ですので、あまり夜更かしはなさらないよう、お願いいたします」
「……分かりました」
マロは一度控室に戻り、荷物をまとめてもう一度ドアを開け、そそくさと出て行った。
なお――その時には既に、廊下には血の一滴も残っていなかった。
それから二日後。
白猫党本部、ドミニオン城に、非常に大きな木箱が送り付けられた。
「宛先は『白猫党幹部ご一同』となっております」
「そう」
自動車一台分もの体積があったため、木箱は城の中庭へ置かれていた。
シエナとイビーザ、そしてトレッドの三人はその前に集まり、木箱の中身を確かめようとしていた。
と、そこへロンダが慌ててやって来る。
「お待ちください、皆さん!」
「あら、どうしたの?」
「ハァ、ハァ……、どうしたの、ではございません! あまりにも怪しいと、お思いになりませんか!?」
息せき切りつつそう尋ねられ、シエナは素直にうなずく。
「思うわ。だから開けかねてたのよ」
「そうでしたか、……それなら、はい、大丈夫ですね、はい。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「構わないわよ。それでロンダ、コレをどうする気?」
「我々白猫軍が重装備態勢の元、中身を改めます。よろしいでしょうか?」
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