「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・騙党抄 6
麒麟を巡る話、第373話。
こっそり愚痴吐き。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
央中進出がシエナの強い主張の元、正式に決定された、その日の晩。
「これで、いいのよね?」
「うん」
シエナは密かに、葵と話していた。
「多少後ろめたい思いが無いわけじゃないけど……、でも、央中進出論を皆に認めさせるには、一番の方法よね」
「シエナ」
ベッドに半身を潜らせたまま、葵はこう返した。
「覚悟、決めたって言ったはずだよね」
「……ええ、そう、そうよ。そう、決めたわ。確かに、そう。
でも、……でも、こんなコトがある度、言わずにいられないのよ」
シエナは顔を両手で覆い、ぼそぼそとつぶやく。
「アタシは迷ってばっかりよ……。党員が犠牲になる度、なると知らされる度に、吐きそうなくらいにめまいを感じるのよ。
でも、そんなコト、他の誰にも言えないもの。アンタ以外には」
「ん」
短くうなずいた葵に、シエナは続けて愚痴を漏らす。
「党首である以上、党員にも幹部にも、アタシが動揺してるコトは知られるワケには行かないもの。
でも、いくら装っても、本当のアタシは、本気で大泣きしたいくらいに戸惑ってるのよ。だから……」
「分かってる。落ち着くまで、聞くよ」
「……ありがと、アオイ」
その後、十数分ほど愚痴を吐き続けて、シエナの顔にようやく穏やかな気配が差す。
「はあ……。大分、楽になったわ。ホントにゴメンね、アオイ」
「いいよ。シエナに落ち着いてもらわないと、困るもの」
「ええ、そうね」
シエナはにこっと笑い、葵の手を握った。
「アンタに会わなきゃ、アタシは今でも片田舎の潰れかけた工房で、貧乏暮らししてたでしょうしね。こうして活躍の場をくれたコト、ホントに感謝してる。
期待しててね、アオイ。20年、いえ、10年以内に、アンタの野望はアタシが叶えて見せるから」
「……ん」
葵がうなずいたところで、シエナはクス、と笑った。
「そうだったわね。アンタに未来の話は野暮だったわ。
じゃあ、教えて? アンタとアタシの計画は、成就するの?」
そう問われ、葵は目を閉じ、しばらく間を置いてから答えた。
「すると思う」
「確実じゃないの?」
「遠すぎるもの」
葵は目を開け、こう続けた。
「未来は現在から連なっているものだから、今の状態が変われば、未来も変わるよ。
一応『見て』はみたけど、まだ、ぼんやりしてる。まだ、確実じゃない要素がいっぱいあるから。
でも、確実じゃないってことは、成就の可能性もあるってことだよ」
「……はっきりしないわね」
口をとがらせたシエナに、葵は小さく頭を下げる。
「ごめんね。でも、手近なところから固めていけば、きっと、狙った通りになるはずだよ」
「そうね。……そのためにも、この央中攻略は絶対、成功させないとね」
「ん」
「じゃあ、教えてくれる? この後、央中、いえ、ミッドランドでは何が起こるのか」
シエナの問いに、葵はもう一度、目をつぶった。
「……はっきり見えてるのは、ミッドランドが無血開城したこと。強行突入した白猫軍に敵わないと諦めて、全面降伏するよ」
「でも、アオイ? テンコちゃんがいる以上、ミッドランドは抗戦も辞さないと思うんだけど……」
「戦闘は起こらないよ。テンコちゃんは、出てこないもの」
「え?」
意外な返答に、シエナは目を丸くする。
「どうして? いくらアタシたちが昔の教え子だからって、軍をけしかけてきたら……」
「あたしたちが突入する時、テンコちゃんはミッドランドにはいないみたい」
「へえ……? 旅行か何かしてるってコト?」
「……かも知れない。あたしにも、何がどうなるのか、……これだけははっきり分からないの」
「そうなの?」
ぼんやりと眠たげだった葵の顔に、ほんのわずかに、不快そうな色が差した。
「不思議だよ。今まで『見よう』と思って、はっきり見えないことなんて無かったのに」
「……不安ね」
と、葵の表情がふたたび、ぼんやりしたものに戻る。
「そこだけはね。それ以外は結構、はっきり見えてる。
あたしたちがミッドランドを占領することは、間違い無いよ」
葵の言葉を聞き、シエナは再度、にっこりと笑って見せた。
「そう。……ソレだけ分かれば十分ね。
分かったわ。アタシはいつも通り、自信満々に党の舵を切るわ」
「ん、お願い」
双月暦570年、白猫党は央中地域への進攻を開始した。
白猫夢・騙党抄 終
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央中進出がシエナの強い主張の元、正式に決定された、その日の晩。
「これで、いいのよね?」
「うん」
シエナは密かに、葵と話していた。
「多少後ろめたい思いが無いわけじゃないけど……、でも、央中進出論を皆に認めさせるには、一番の方法よね」
「シエナ」
ベッドに半身を潜らせたまま、葵はこう返した。
「覚悟、決めたって言ったはずだよね」
「……ええ、そう、そうよ。そう、決めたわ。確かに、そう。
でも、……でも、こんなコトがある度、言わずにいられないのよ」
シエナは顔を両手で覆い、ぼそぼそとつぶやく。
「アタシは迷ってばっかりよ……。党員が犠牲になる度、なると知らされる度に、吐きそうなくらいにめまいを感じるのよ。
でも、そんなコト、他の誰にも言えないもの。アンタ以外には」
「ん」
短くうなずいた葵に、シエナは続けて愚痴を漏らす。
「党首である以上、党員にも幹部にも、アタシが動揺してるコトは知られるワケには行かないもの。
でも、いくら装っても、本当のアタシは、本気で大泣きしたいくらいに戸惑ってるのよ。だから……」
「分かってる。落ち着くまで、聞くよ」
「……ありがと、アオイ」
その後、十数分ほど愚痴を吐き続けて、シエナの顔にようやく穏やかな気配が差す。
「はあ……。大分、楽になったわ。ホントにゴメンね、アオイ」
「いいよ。シエナに落ち着いてもらわないと、困るもの」
「ええ、そうね」
シエナはにこっと笑い、葵の手を握った。
「アンタに会わなきゃ、アタシは今でも片田舎の潰れかけた工房で、貧乏暮らししてたでしょうしね。こうして活躍の場をくれたコト、ホントに感謝してる。
期待しててね、アオイ。20年、いえ、10年以内に、アンタの野望はアタシが叶えて見せるから」
「……ん」
葵がうなずいたところで、シエナはクス、と笑った。
「そうだったわね。アンタに未来の話は野暮だったわ。
じゃあ、教えて? アンタとアタシの計画は、成就するの?」
そう問われ、葵は目を閉じ、しばらく間を置いてから答えた。
「すると思う」
「確実じゃないの?」
「遠すぎるもの」
葵は目を開け、こう続けた。
「未来は現在から連なっているものだから、今の状態が変われば、未来も変わるよ。
一応『見て』はみたけど、まだ、ぼんやりしてる。まだ、確実じゃない要素がいっぱいあるから。
でも、確実じゃないってことは、成就の可能性もあるってことだよ」
「……はっきりしないわね」
口をとがらせたシエナに、葵は小さく頭を下げる。
「ごめんね。でも、手近なところから固めていけば、きっと、狙った通りになるはずだよ」
「そうね。……そのためにも、この央中攻略は絶対、成功させないとね」
「ん」
「じゃあ、教えてくれる? この後、央中、いえ、ミッドランドでは何が起こるのか」
シエナの問いに、葵はもう一度、目をつぶった。
「……はっきり見えてるのは、ミッドランドが無血開城したこと。強行突入した白猫軍に敵わないと諦めて、全面降伏するよ」
「でも、アオイ? テンコちゃんがいる以上、ミッドランドは抗戦も辞さないと思うんだけど……」
「戦闘は起こらないよ。テンコちゃんは、出てこないもの」
「え?」
意外な返答に、シエナは目を丸くする。
「どうして? いくらアタシたちが昔の教え子だからって、軍をけしかけてきたら……」
「あたしたちが突入する時、テンコちゃんはミッドランドにはいないみたい」
「へえ……? 旅行か何かしてるってコト?」
「……かも知れない。あたしにも、何がどうなるのか、……これだけははっきり分からないの」
「そうなの?」
ぼんやりと眠たげだった葵の顔に、ほんのわずかに、不快そうな色が差した。
「不思議だよ。今まで『見よう』と思って、はっきり見えないことなんて無かったのに」
「……不安ね」
と、葵の表情がふたたび、ぼんやりしたものに戻る。
「そこだけはね。それ以外は結構、はっきり見えてる。
あたしたちがミッドランドを占領することは、間違い無いよ」
葵の言葉を聞き、シエナは再度、にっこりと笑って見せた。
「そう。……ソレだけ分かれば十分ね。
分かったわ。アタシはいつも通り、自信満々に党の舵を切るわ」
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