「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・新月抄 1
麒麟を巡る話、第374話。
ルナの不安。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「来ないのよね」
唐突にそうつぶやいたルナに、マークはぎょっとした。
「何がです?」
「ん?」
尋ねたマークに、ルナは一瞬間を置いて、こう尋ね返した。
「何だと思ってんの?」
「いや、まあ、その、何だか分からないですけど」
「来ないって言うのは、師匠からの返事よ」
「ああ……」
ルナは腕組みし、いぶかしげにつぶやく。
「おかしいのよね。今までこんなこと、一度も無かったのよ」
「と言うと?」
「いつもなら、師匠に通信魔術を送れば即、応答してくれるんだけどね。何度送っても、返事が返って来ないのよ。
これが普通の『魔術頭巾』とかだったら、通信手が席を外してるとかってことも考えられるんだけど、師匠の場合、いつでも返事できるように術式を組んでるの。
それなのに……」
「何かで忙しくて手を離せない、とかじゃないんですか?」
「それでも、よ。電話で言うなら、常に受話器を耳に当ててるような状態なのよ?
それで応答できないって、耳が聞こえなくなったか舌が無くなったかでもしない限り、応答できるはずでしょ?」
「『できない』じゃなく、『しない』って可能性は?」
と、話の輪にフィオが入ってくる。
「応答したくないってこと?」
「それも考えられなくはないけど、マークが言うように、忙しいんじゃないかな。例えば修羅場の真っ只中、だとか」
「誰かに襲われてる最中、ってこと? ……うーん」
フィオの意見を聞いてなお、ルナはいぶかしげな表情を崩さない。
「考えられなくはない、わね。でもあの師匠がてこずるような相手なんて、そうそういないはずなんだけど」
「存在だけなら、いるじゃないか」
「って言うと?」
「師匠さんの師匠。つまり、カツミとか」
「んー……。確かに克大火が相手だったら、そりゃ、まあ、苦戦どころじゃ済まないでしょうね。
でも可能性としては、考えにくいわよ。二人ともすごく仲いいし」
「そうなんだ? ……まあ、そりゃそうか。でなきゃ師匠と弟子の関係なんて築けないよな」
「でも僕、実際にカツミさんを見たことがあったけど、何て言うか……」
言いかけたマークに、フィオも同意する。
「天狐ゼミの、アオイが消えた時だよね? 僕もあの時初めて目にしたけど、親しみのあるようなタイプじゃなかったもんな」
「そうそう。すごいしかめっ面してたし、威圧感がものすごかったし」
マークたちが思い出話に花を咲かせている一方、依然としてルナの顔からは、険が抜ける様子が無い。
「……うーん」
と、ルナは顔を挙げ、唐突にこう告げた。
「見てくるわ、様子」
「え?」
「直に行って、何してんのか見てくるわ。このまま放っておいたら、気兼ねなく央中になんて行けやしないし」
「いつ行くんです?」
「すぐよ」
そう返し、ルナはキッチンにいるパラに声をかけた。
「パラ、ちょっと出かけるわ。明日か、明後日には戻ってくるから」
「承知いたしました」
「あれ?」
これを聞いて、フィオは意外そうな顔をした。
「パラは連れて行かないの?」
「ちょっと行って帰ってくるだけだもの。あたし一人で十分よ」
「まあ、そっか」
「ま、1日か2日だけだけど、たまにはあたし抜きであの子と過ごせるわよ」
「え? あ、うん」
ルナは若干目を泳がせたフィオに背を向け、今度はマークに釘を刺した。
「あたしがいないからって、自分勝手なことするんじゃないわよ?」
「分かってますって」
「戻ってきたらシャランちゃんから、何してたか聞くからね」
「……大丈夫ですってば」
マークが口を尖らせて応じたところで、ルナは居間を後にした。
「じゃ、行ってくるわ」
「はい。行ってらっしゃい、ルナさん」
「行ってらっしゃいませ」
居間のドアが閉まると同時に、マークがこうつぶやいた。
「……どうする?」
「どう、と申しますと」
「うるさいのがいない、ってことだよ」
マークのその発言に、フィオが噴き出した。
「君、単純だなぁ」
「なんでさ?」
「僕の勘だけどさ、ルナさんはまだドアの向こうにいると思うぜ?」
「えっ」
フィオの予想通り――ドアの向こうから、ルナの笑う声が漏れ聞こえてきた。
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ルナの不安。
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「来ないのよね」
唐突にそうつぶやいたルナに、マークはぎょっとした。
「何がです?」
「ん?」
尋ねたマークに、ルナは一瞬間を置いて、こう尋ね返した。
「何だと思ってんの?」
「いや、まあ、その、何だか分からないですけど」
「来ないって言うのは、師匠からの返事よ」
「ああ……」
ルナは腕組みし、いぶかしげにつぶやく。
「おかしいのよね。今までこんなこと、一度も無かったのよ」
「と言うと?」
「いつもなら、師匠に通信魔術を送れば即、応答してくれるんだけどね。何度送っても、返事が返って来ないのよ。
これが普通の『魔術頭巾』とかだったら、通信手が席を外してるとかってことも考えられるんだけど、師匠の場合、いつでも返事できるように術式を組んでるの。
それなのに……」
「何かで忙しくて手を離せない、とかじゃないんですか?」
「それでも、よ。電話で言うなら、常に受話器を耳に当ててるような状態なのよ?
それで応答できないって、耳が聞こえなくなったか舌が無くなったかでもしない限り、応答できるはずでしょ?」
「『できない』じゃなく、『しない』って可能性は?」
と、話の輪にフィオが入ってくる。
「応答したくないってこと?」
「それも考えられなくはないけど、マークが言うように、忙しいんじゃないかな。例えば修羅場の真っ只中、だとか」
「誰かに襲われてる最中、ってこと? ……うーん」
フィオの意見を聞いてなお、ルナはいぶかしげな表情を崩さない。
「考えられなくはない、わね。でもあの師匠がてこずるような相手なんて、そうそういないはずなんだけど」
「存在だけなら、いるじゃないか」
「って言うと?」
「師匠さんの師匠。つまり、カツミとか」
「んー……。確かに克大火が相手だったら、そりゃ、まあ、苦戦どころじゃ済まないでしょうね。
でも可能性としては、考えにくいわよ。二人ともすごく仲いいし」
「そうなんだ? ……まあ、そりゃそうか。でなきゃ師匠と弟子の関係なんて築けないよな」
「でも僕、実際にカツミさんを見たことがあったけど、何て言うか……」
言いかけたマークに、フィオも同意する。
「天狐ゼミの、アオイが消えた時だよね? 僕もあの時初めて目にしたけど、親しみのあるようなタイプじゃなかったもんな」
「そうそう。すごいしかめっ面してたし、威圧感がものすごかったし」
マークたちが思い出話に花を咲かせている一方、依然としてルナの顔からは、険が抜ける様子が無い。
「……うーん」
と、ルナは顔を挙げ、唐突にこう告げた。
「見てくるわ、様子」
「え?」
「直に行って、何してんのか見てくるわ。このまま放っておいたら、気兼ねなく央中になんて行けやしないし」
「いつ行くんです?」
「すぐよ」
そう返し、ルナはキッチンにいるパラに声をかけた。
「パラ、ちょっと出かけるわ。明日か、明後日には戻ってくるから」
「承知いたしました」
「あれ?」
これを聞いて、フィオは意外そうな顔をした。
「パラは連れて行かないの?」
「ちょっと行って帰ってくるだけだもの。あたし一人で十分よ」
「まあ、そっか」
「ま、1日か2日だけだけど、たまにはあたし抜きであの子と過ごせるわよ」
「え? あ、うん」
ルナは若干目を泳がせたフィオに背を向け、今度はマークに釘を刺した。
「あたしがいないからって、自分勝手なことするんじゃないわよ?」
「分かってますって」
「戻ってきたらシャランちゃんから、何してたか聞くからね」
「……大丈夫ですってば」
マークが口を尖らせて応じたところで、ルナは居間を後にした。
「じゃ、行ってくるわ」
「はい。行ってらっしゃい、ルナさん」
「行ってらっしゃいませ」
居間のドアが閉まると同時に、マークがこうつぶやいた。
「……どうする?」
「どう、と申しますと」
「うるさいのがいない、ってことだよ」
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「君、単純だなぁ」
「なんでさ?」
「僕の勘だけどさ、ルナさんはまだドアの向こうにいると思うぜ?」
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