「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・新月抄 2
麒麟を巡る話、第375話。
鬼のいぬ間に。
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2.
ルナにデコピンされた額をさすりながら――この時点でルナが本当に出かけたことは確認済みである――マークはフィオとパラに問いかける。
「で、どうする?」
「どうって」
「そう仰られましても」
ニヤニヤしているマークに対し、フィオとパラは顔を見合わせている。
「ルナさんがいないのって、最長でも2日だろ? 勝手に研究進めるって言っても……」
「マークのこれまでの平均研究期間から想定しますと、2日で何らかの研究を企画および実行し、かつ完了することは不可能と思われます」
「だよな。他にルナさんの鼻を明かせるようなことって言っても、特に無いよな」
「わたくしも全面的に、フィオの意見に賛成です」
「せいぜいルナさんの机に蛾でも仕込むくらいじゃないか? あとはベッドに芋虫とか……」
「ば、バカにしないでくれ」
マークは顔を真っ赤にし、ぶんぶんと首を振る。
「そんな子供みたいなこと、しないよ!」
「まあ、そりゃそうだよな」
「マークの年齢からは想定しづらい行動です」
「……ん? いま、マークっていくつだっけ」
「わたくしの保持する情報によれば20歳です」
「あれ? もうそんなだっけ。まだ10代だと思ってた」
フィオの言葉に、マークは今度は、憮然とした顔を見せた。
「君と何年一緒にいると思ってるんだよ……」
「そう言や、そうだ」
マークが頬をふくらませつつ研究室へ戻っていったところで、フィオは改めて、パラに話しかけた。
「あのさ、パラ」
「何でしょう」
「その……、こんなことを聞くのも、失礼かも知れないけど」
フィオはチラ、とパラの顔を一瞥し、こう続けた。
「一人きりで、困ったりしない?」
「と申しますと」
「いつもルナさんから命令を受けてるし、一人だと何していいか分かんなくなるんじゃないかって」
「ご心配には及びません」
そう返しながら、パラは自分の胸を指す。
「わたくしには長時間命令を与えられない場合に備え、待機モードが設定されております故」
その返答に、フィオはずっこける。
「おいおい……。ルナさんが戻ってくるまで寝てるつもりなのか?」
「……クス」
と、パラがわずかに、唇の端をにじませた。
「冗談です」
「……参るな。君、段々ルナさんに似てきた気がするよ」
「光栄です」
小さく頭を下げつつ、パラはこう続けた。
「この後の予定ですが、特に優先すべき事項が発生しない限り、屋内全域の掃除を行おうかと」
「掃除? いつもやってるような気がするけど」
尋ねたフィオに、パラはぴん、と人差し指を立てて見せた。
「主様が1日以上不在であれば、主様のお部屋を最大限に掃除する、絶好の機会でございます故」
「……あー、なるほど」
フィオは何度か目にした、ルナのごちゃごちゃとした、小汚い部屋を思い出した。
「じゃあさ、パラ。僕もそれ、手伝うからさ、……それが終わったら、ちょっと、二人で出かけないか?
いや、特に行きたいってところも無いんだけど、まあ、ルナさんに茶化されずにあちこち見て回れるって言うんなら、その、行かないのは損かもなって思ってさ」
「了承いたしました。しかしフィオ」
と、パラがほんのわずか、心配そうな目を向ける。
「わたくしの清潔度の基準は、一般的な平均より著しく高く設定しております。主様のお部屋の現状から算出するに、その基準を満たすためには、非常に時間を要することが予想されます。
それでもよろしければ、是非、手伝っていただきたいのですが」
「勿論さ。二人でやった方が早く済むだろ?」
「ありがとうございます」
ぺこ、と頭を下げたパラに見えないよう、フィオはぐっと握り拳を固めていた。
一方、マークは研究所の机に頬杖を付きながら、ぼんやり思案していた。
(どうやったら2日以内にルナさんの鼻を明かせるかなぁ)
机上のメモ帳にぐりぐりと、絵とも単語とも付かないものを書き散らしつつ、そんなことを考えていると、背後からひょい、と両目を塞がれた。
「おわっ」
「さーて、誰かしら?」
口調と声色を変えて尋ねてきた相手に、マークは苦笑しつつ答える。
「ルナさんにしちゃ、声が高いよ。それにもっと可愛げがある」
「じゃ、だーれだ?」
「シャランだろ?」
「はっずれー」
「えっ?」
顔からぱっと手を離され、マークは振り返る。
そこにはニヤニヤ笑いながら離れて見ているシャランと、研究員の一人――昨年チームに入ってきた紫髪の短耳、クオラ・マキソフの姿があった。
「だまされちゃいましたねぇ、主任」
クオラはのったりとしたしゃべり方で、ケラケラ笑っている。
「あー、うん、今のは完全に騙されたよ」
「マーク、いつにもまして隙だらけだったもん。イタズラしてくださいって言わんばかりに」
「ホントですよぅ」
「参ったな……」
マークも苦笑して返しつつ、このいたずら好きの二人に、ルナを驚かせる方法が無いか、尋ねてみることにした。
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ルナにデコピンされた額をさすりながら――この時点でルナが本当に出かけたことは確認済みである――マークはフィオとパラに問いかける。
「で、どうする?」
「どうって」
「そう仰られましても」
ニヤニヤしているマークに対し、フィオとパラは顔を見合わせている。
「ルナさんがいないのって、最長でも2日だろ? 勝手に研究進めるって言っても……」
「マークのこれまでの平均研究期間から想定しますと、2日で何らかの研究を企画および実行し、かつ完了することは不可能と思われます」
「だよな。他にルナさんの鼻を明かせるようなことって言っても、特に無いよな」
「わたくしも全面的に、フィオの意見に賛成です」
「せいぜいルナさんの机に蛾でも仕込むくらいじゃないか? あとはベッドに芋虫とか……」
「ば、バカにしないでくれ」
マークは顔を真っ赤にし、ぶんぶんと首を振る。
「そんな子供みたいなこと、しないよ!」
「まあ、そりゃそうだよな」
「マークの年齢からは想定しづらい行動です」
「……ん? いま、マークっていくつだっけ」
「わたくしの保持する情報によれば20歳です」
「あれ? もうそんなだっけ。まだ10代だと思ってた」
フィオの言葉に、マークは今度は、憮然とした顔を見せた。
「君と何年一緒にいると思ってるんだよ……」
「そう言や、そうだ」
マークが頬をふくらませつつ研究室へ戻っていったところで、フィオは改めて、パラに話しかけた。
「あのさ、パラ」
「何でしょう」
「その……、こんなことを聞くのも、失礼かも知れないけど」
フィオはチラ、とパラの顔を一瞥し、こう続けた。
「一人きりで、困ったりしない?」
「と申しますと」
「いつもルナさんから命令を受けてるし、一人だと何していいか分かんなくなるんじゃないかって」
「ご心配には及びません」
そう返しながら、パラは自分の胸を指す。
「わたくしには長時間命令を与えられない場合に備え、待機モードが設定されております故」
その返答に、フィオはずっこける。
「おいおい……。ルナさんが戻ってくるまで寝てるつもりなのか?」
「……クス」
と、パラがわずかに、唇の端をにじませた。
「冗談です」
「……参るな。君、段々ルナさんに似てきた気がするよ」
「光栄です」
小さく頭を下げつつ、パラはこう続けた。
「この後の予定ですが、特に優先すべき事項が発生しない限り、屋内全域の掃除を行おうかと」
「掃除? いつもやってるような気がするけど」
尋ねたフィオに、パラはぴん、と人差し指を立てて見せた。
「主様が1日以上不在であれば、主様のお部屋を最大限に掃除する、絶好の機会でございます故」
「……あー、なるほど」
フィオは何度か目にした、ルナのごちゃごちゃとした、小汚い部屋を思い出した。
「じゃあさ、パラ。僕もそれ、手伝うからさ、……それが終わったら、ちょっと、二人で出かけないか?
いや、特に行きたいってところも無いんだけど、まあ、ルナさんに茶化されずにあちこち見て回れるって言うんなら、その、行かないのは損かもなって思ってさ」
「了承いたしました。しかしフィオ」
と、パラがほんのわずか、心配そうな目を向ける。
「わたくしの清潔度の基準は、一般的な平均より著しく高く設定しております。主様のお部屋の現状から算出するに、その基準を満たすためには、非常に時間を要することが予想されます。
それでもよろしければ、是非、手伝っていただきたいのですが」
「勿論さ。二人でやった方が早く済むだろ?」
「ありがとうございます」
ぺこ、と頭を下げたパラに見えないよう、フィオはぐっと握り拳を固めていた。
一方、マークは研究所の机に頬杖を付きながら、ぼんやり思案していた。
(どうやったら2日以内にルナさんの鼻を明かせるかなぁ)
机上のメモ帳にぐりぐりと、絵とも単語とも付かないものを書き散らしつつ、そんなことを考えていると、背後からひょい、と両目を塞がれた。
「おわっ」
「さーて、誰かしら?」
口調と声色を変えて尋ねてきた相手に、マークは苦笑しつつ答える。
「ルナさんにしちゃ、声が高いよ。それにもっと可愛げがある」
「じゃ、だーれだ?」
「シャランだろ?」
「はっずれー」
「えっ?」
顔からぱっと手を離され、マークは振り返る。
そこにはニヤニヤ笑いながら離れて見ているシャランと、研究員の一人――昨年チームに入ってきた紫髪の短耳、クオラ・マキソフの姿があった。
「だまされちゃいましたねぇ、主任」
クオラはのったりとしたしゃべり方で、ケラケラ笑っている。
「あー、うん、今のは完全に騙されたよ」
「マーク、いつにもまして隙だらけだったもん。イタズラしてくださいって言わんばかりに」
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NoTitle
マークたちのいるところにはその情報が伝わっていません。
この時点ではまだ、党員が殺された話も緘口令を敷き、秘密にしているはず。
そのため、事情を知らない彼らは、こんなゆるーい会話をしています。