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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・新月抄 3

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    麒麟を巡る話、第376話。
    イタズラ作戦会議。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「えぇ? 所長、いないんですかぁ?」
     マークからルナが不在であると聞かされたシャランとクオラは、顔を見合わせた。
    「まあ、2日だけなら特に支障も無いだろうけど」
     と、シャランはチラ、とマークの顔を見て、ニヤニヤ笑いながらこう尋ねる。
    「その間に所長をあっと言わせたい、……とか思ってるんだろ?」
    「う」
     図星を突かれ、マークは思わずうなる。それを見たシャランは、またニヤニヤと笑う。
    「だろうと思ったよ。いかにもマークの考えそうなことだもん」
    「うー……」
     苦笑いしつつ、マークは憮然としていた。
    (なんだよ、みんなして……。そんなに僕、子供っぽくて単純かな)
    「『そんなに子供っぽくないぞ』って顔してる」
     と、シャランが再度、図星を突いてくる。
    「し、してないよ」
    「ま、それはさておき。
     あたしの意見を率直に言うと、多分イタズラは無理」
    「え?」
    「所長、はっきり言って超人じゃん? ちょっとくらいビビらせようったって、すぐ見抜かれるよ、きっと。
     例えば机に蛾仕込むとかしてもさ、所長は多分、部屋に入る前に『なんかブブブって机ん中から聞こえるんだけど、マーク、あんた何かやったでしょ?』っつって、マークんとこに来るよ」
    「……ぐうの音も出ない完璧な推測だね。容易に想像できてしまうのが悲しい」
    「あたしもカンタンに想像できちゃいましたよぅ」
     しょんぼりするマークと、肩をすくめたクオラに対し、シャランはこう続けた。
    「だから、やるとしたら別の方向からのアプローチがいいと思う」
    「……え」
    「やりたいんでしょ? だったら手伝うよ、あたし」
    「あ、ありがとう」
    「どーいたしまして。
     で、話の続きだけどさ。何かを部屋に仕掛けるって言う感じのイタズラは、多分ダメ。所長は速攻、見破る。だからもっと別の……、んー」
     シャランはそこで、言葉を切る。そこで、今度はクオラが提案した。
    「別の、って言うとぉ、こっそり仕掛けるんじゃなくってぇ、むしろ堂々とぉ、真正面からって言う感じですかぁ?」
    「あー、……うーん? それって例えば、どう言う感じ……?」
     尋ねたマークに、クオラは首を横に振る。
    「……言ってみただけですぅ」
    「いや、それはアリかも」
     と、考え込んでいたシャランが口を開く。
    「例えばさ、いきなりパラちゃんがドレスじゃなく、スーツ姿になった、……とかってどう?」
    「あー」
    「それは驚くかも。あとは……」
     マークも考えてみるが、急には出てこない。
     と、クオラがポン、と手を叩く。
    「あ、そうだぁ。こんなのってぇ、どうでしょうかぁ?」
    「どんなの?」
    「主任とぉ、シャランさんってぇ、お付き合いされて随分長いって聞いてますけどぉ」
    「うん、確か2年くらいにはなるかな。知り合った頃から数えると7年くらい」
    「でしたらぁ、結婚してみたらどうですかぁ?」
    「へっ?」「ちょ、ちょっとクオラ」
     クオラの提案に、マークとシャランは、同時に尻尾を毛羽立たせた。
    「い、いや、それは……」
    「きっとものすごく驚くと思いますよぅ?」
    「そりゃ驚くよ。ルナさんがって言うより、まず僕が驚いたよ」
    「でしょぉ? これは一番なんじゃ……」「だーめ」
     と、シャランが尻尾を撫で付けつつ、それを却下した。
    「確かにそろそろしたい気持ちはあるよ。でも所長抜きで結婚式挙げちゃうなんて、不義理過ぎるって。所長、すごく悲しむと思う。
     何だかんだ言って、所長はマークのこと、すごく大事にしてるみたいだし」
    「う、うん。その意見には賛成だ。
     ……でも、まあ、……いつかはするとして……、揃って指輪付けるくらいのイタズラは、やっていいんじゃないかな」
    「あー……、そだね、それくらいならいいか」
     納得したシャランに、クオラは満面の笑みを浮かべる。
    「決まりですねぇ。じゃ、今日のお仕事が終わったらぁ、一緒に指輪とかぁ、見に行きましょぉ~」
    「いいね。それじゃ、ちゃちゃっと済ませよっか」
     そう言って、シャランたちは自分たちの作業机に移る。
     と――シャランはくる、とマークに振り返り、にこっと笑いながらこう言った。
    「指輪だけど、単なるイタズラ用って考えないでよ。あたし、婚約指輪のつもりでもらうからね」
    「……あ、うん。も、勿論、うん」
     マークは額に浮いていた汗を拭いながら、しどろもどろに答えた。
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