「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・新月抄 5
麒麟を巡る話、第378話。
所員たちの評価。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「そう言えば……」
パラの手伝いをしていた研究員の一人が、唐突に口を開く。
「ギアトさんって、普段は何してるんでしょう? あんまり話しないから、よく知らないんですけど……」
ちなみにフィオとパラの素性については、シャランを除く研究員たちには明かされていない。あまり吹聴すれば、白猫党(特に葵)や克難訓など、厄介な相手にうわさが伝わる危険があるためだ。
「あー」
壁の脂を落としつつ、別の研究員が応じる。
「俺が聞いた話だと、主任の護衛官らしいよ。主任、一応この国の第一王子だし」
「そう言やそうでしたね」
「いつも所長に小突かれてるイメージしかないから、あんまりピンと来ないけどな」
「あはは……」
「失礼だ、それは」
と、ルナ参入以前からマークの研究チームに加わっていた古株、長耳のエイブ・リスターがたしなめる。
「確かに殿下は王族らしさをあまり感じさせぬ方だが、言い換えれば別け隔てなく接してくださる、気さくな方だ。……まあ、確かに気さく過ぎる節はあるが。
にしても、ギアト君はいささか職務怠慢ではないかとは、確かに私も感じている」
「ですよね? いっつもパラちゃんと遊んでるイメージしか無いですよ」
「ははは……」
研究員たちが笑ったところで、パラが静かに口を開いた。
「それは誤った認識と判断されます」
「え?」
「フィオは普段より、わたくしと各種戦闘技術の訓練を行っております。遊んでいると言う認識は、実際と大きく差異が生じているものと断言いたします。
万が一マークを狙う者が現れた際には、その与えられた職責に足る行動を執るはずです。そのような存在が発生していないため、フィオの活躍は現在、確認できませんが」
「……ごめん」
素直に謝ってきた研究員に、パラは静かに首を振って見せた。
「事実の再認識をしていただければ結構です」
「まあ、確かに平和だからこそ、ギアト君がブラブラしていられるわけだ。むしろその太平楽な姿に安堵すべきか」
「でも、なーんかダメなヤツだなって、俺は思いますけどね。カノジョがこうやって一所懸命に仕事してんのに、チラっと見るだけでどこか行っちゃうし」
「確かに……」
「女性の扱いを知らんな」
研究員たちがうんうんとうなずく一方、パラの顔にほんのわずか、困った色が浮かぶ。
「彼女とは、どなたのことでしょうか」
「え?」
パラの問いに、研究員たちは一斉に、パラの方を向く。
「……パラちゃん?」
「何でしょう」
「君じゃないの?」
「何がでしょう」
「いや、俺たちずっと、パラちゃんがギアト君の彼女だと思ってたんだけど」
「え」
困惑する様子を見せたパラの顔に、やはりほんのわずかだが、嬉しそうな気配が浮かんだ。
「それも、『誤った認識』だったかな?」
「否定は、できかねます」
「おや」
パラの反応に、エイブが目を丸くした。
「君がそんなに戸惑うとは」
「いいえ、そんな」
「あの奔放なフラウス所長の娘さんにしては、あまりにも無感動な子と思っていたが……、いやいや、やはり歳相応の感情はあるようだ。
悪かったね、ギアト君を貶すようなことを言ってしまって」
「い、いえ」
パラは研究員たちにくるりと背を向け、そのまま黙り込んでしまった。
と――部屋の外から、驚いたような声が飛んできた。
「あーっ!? アンタたち、何してんのよ!?」
「え? あ、所長」
研究員たちとパラが振り返った先に、ルナの姿があった。
「パラ、あたしの部屋で何やってんの?」
「掃除を行っておりました。皆様はわたくしのお手伝いを」
「もう、別にそんなのいいのに」
唇を尖らせつつ、ルナはコートを脱ぐ。
「ある、……お母様」
パラはきょとんとした仕草で、ルナに尋ねる。
「お帰りは明日、もしくは明後日と伺っておりましたが」
「そのつもりだったんだけどねー」
ルナは机に腰掛けつつ、煙草を口にくわえる。
「いなかったのよね。師匠も、その師匠も。いそうなところ全部回ったんだけど、どこにもいなかったのよ。
で、それ以上ウロウロしててもしょうがないから、さっさと切り上げて帰ってきたのよ」
「そうですか」
どことなくしょんぼりした様子のパラを見て、ルナは笑い出した。
「アハハ……、そんなにあたしの部屋、綺麗にしたかった?」
「はい」
「いいわ、分かった分かった。じゃ、お願いしようかしらね」
「ありがとうございます」
パラはぺこりとお辞儀をし――ルナの口から煙草を抜き取り、灰皿とともに手渡す。
「それでは屋外で喫煙をお願いいたします」
「……ちぇ」
ルナは苦笑しつつ、外に出た。
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所員たちの評価。
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「そう言えば……」
パラの手伝いをしていた研究員の一人が、唐突に口を開く。
「ギアトさんって、普段は何してるんでしょう? あんまり話しないから、よく知らないんですけど……」
ちなみにフィオとパラの素性については、シャランを除く研究員たちには明かされていない。あまり吹聴すれば、白猫党(特に葵)や克難訓など、厄介な相手にうわさが伝わる危険があるためだ。
「あー」
壁の脂を落としつつ、別の研究員が応じる。
「俺が聞いた話だと、主任の護衛官らしいよ。主任、一応この国の第一王子だし」
「そう言やそうでしたね」
「いつも所長に小突かれてるイメージしかないから、あんまりピンと来ないけどな」
「あはは……」
「失礼だ、それは」
と、ルナ参入以前からマークの研究チームに加わっていた古株、長耳のエイブ・リスターがたしなめる。
「確かに殿下は王族らしさをあまり感じさせぬ方だが、言い換えれば別け隔てなく接してくださる、気さくな方だ。……まあ、確かに気さく過ぎる節はあるが。
にしても、ギアト君はいささか職務怠慢ではないかとは、確かに私も感じている」
「ですよね? いっつもパラちゃんと遊んでるイメージしか無いですよ」
「ははは……」
研究員たちが笑ったところで、パラが静かに口を開いた。
「それは誤った認識と判断されます」
「え?」
「フィオは普段より、わたくしと各種戦闘技術の訓練を行っております。遊んでいると言う認識は、実際と大きく差異が生じているものと断言いたします。
万が一マークを狙う者が現れた際には、その与えられた職責に足る行動を執るはずです。そのような存在が発生していないため、フィオの活躍は現在、確認できませんが」
「……ごめん」
素直に謝ってきた研究員に、パラは静かに首を振って見せた。
「事実の再認識をしていただければ結構です」
「まあ、確かに平和だからこそ、ギアト君がブラブラしていられるわけだ。むしろその太平楽な姿に安堵すべきか」
「でも、なーんかダメなヤツだなって、俺は思いますけどね。カノジョがこうやって一所懸命に仕事してんのに、チラっと見るだけでどこか行っちゃうし」
「確かに……」
「女性の扱いを知らんな」
研究員たちがうんうんとうなずく一方、パラの顔にほんのわずか、困った色が浮かぶ。
「彼女とは、どなたのことでしょうか」
「え?」
パラの問いに、研究員たちは一斉に、パラの方を向く。
「……パラちゃん?」
「何でしょう」
「君じゃないの?」
「何がでしょう」
「いや、俺たちずっと、パラちゃんがギアト君の彼女だと思ってたんだけど」
「え」
困惑する様子を見せたパラの顔に、やはりほんのわずかだが、嬉しそうな気配が浮かんだ。
「それも、『誤った認識』だったかな?」
「否定は、できかねます」
「おや」
パラの反応に、エイブが目を丸くした。
「君がそんなに戸惑うとは」
「いいえ、そんな」
「あの奔放なフラウス所長の娘さんにしては、あまりにも無感動な子と思っていたが……、いやいや、やはり歳相応の感情はあるようだ。
悪かったね、ギアト君を貶すようなことを言ってしまって」
「い、いえ」
パラは研究員たちにくるりと背を向け、そのまま黙り込んでしまった。
と――部屋の外から、驚いたような声が飛んできた。
「あーっ!? アンタたち、何してんのよ!?」
「え? あ、所長」
研究員たちとパラが振り返った先に、ルナの姿があった。
「パラ、あたしの部屋で何やってんの?」
「掃除を行っておりました。皆様はわたくしのお手伝いを」
「もう、別にそんなのいいのに」
唇を尖らせつつ、ルナはコートを脱ぐ。
「ある、……お母様」
パラはきょとんとした仕草で、ルナに尋ねる。
「お帰りは明日、もしくは明後日と伺っておりましたが」
「そのつもりだったんだけどねー」
ルナは机に腰掛けつつ、煙草を口にくわえる。
「いなかったのよね。師匠も、その師匠も。いそうなところ全部回ったんだけど、どこにもいなかったのよ。
で、それ以上ウロウロしててもしょうがないから、さっさと切り上げて帰ってきたのよ」
「そうですか」
どことなくしょんぼりした様子のパラを見て、ルナは笑い出した。
「アハハ……、そんなにあたしの部屋、綺麗にしたかった?」
「はい」
「いいわ、分かった分かった。じゃ、お願いしようかしらね」
「ありがとうございます」
パラはぺこりとお辞儀をし――ルナの口から煙草を抜き取り、灰皿とともに手渡す。
「それでは屋外で喫煙をお願いいたします」
「……ちぇ」
ルナは苦笑しつつ、外に出た。
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