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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・新月抄 6

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    麒麟を巡る話、第379話。
    20年越しの回答。

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    6.
     外に出て煙草をくわえ、火を点けたところで、ルナはとぼとぼとした足取りで、袋を提げて戻ってきたフィオを見付けた。
    「あら、おかえりなさい」
    「ああ……ども……」
     フィオはそのまま研究所の中に入ろうとし、途中で引き返してきた。
    「……って、ルナさん!?」
    「ただいま。どうしたのよ、そんなガックリして」
    「あ、いや、……何でも」
    「アンタは何のきっかけもなしにいきなり落ち込むの? だったら病気ね」
    「……いや、まあ」
     フィオは研究所の入口をそっと開け、中の様子を確かめてから、ルナに小声で返した。
    「内緒にしててくれよ」
    「いいわよ」
     フィオは研究所の様子を伺いつつ、自分の失敗を打ち明けた。
     それを聞いたルナは、ケラケラと笑って返す。
    「アンタ、バカねぇ」
    「自分でも反省してるよ……」
    「ま、するだけマシね。で、埋め合わせは何か用意してきたの?」
    「それなんだけど……」
     フィオは恐る恐る、提げていた袋からワンピースを取り出した。
    「あら、かわいいじゃない」
    「そ、そうかな?」
     フィオはほっとした表情を浮かべたが、そこで真顔になる。
    「ちょっと聞きたいんだけど、ルナさん」
    「なに?」
    「パラって、いつも同じドレス着てるよね?」
    「そうね」
    「他には持ってないの? って言うか、買わないの?」
    「一応、買ってるわよ。でもね」
     ルナも研究所の方を一瞥し、小声で返す。
    「あの子、『わたくしが人間となった暁には、謹んで拝着いたします』つって、着ようとしないのよね」
    「あ……、そうなんだ。じゃあこれ……」
     しょんぼりした顔でワンピースを袋に戻したフィオに、ルナはポンポンと、彼の頭を優しく叩いた。
    「いいじゃない。着るかどうかは置いといて、あの子は絶対喜ぶわよ。あたしが保証する」
    「そう、かな」
     フィオのほっとした顔を見て、ルナはこう続けた。
    「つーか、それだけは無理矢理にでも着させるわ。あたしもドレス以外の格好したパラは見てみたいし、あの子にそう言うプレゼント贈ったのは、あたし以外にはアンタしかいないんだし、ね」
    「……ありがとう、ルナさん」
    「でも」
     ルナはもう一度、今度は自分の部屋の窓を確認して、肩をすくめた。
    「今はダメね。掃除中だし」
    「そうだね」
     と、研究所の扉が開き、中からマークとシャラン、クオラが出てきた。
    「あれ?」
    「所長だぁ」
    「もう帰ってきたの?」
     驚くマークに、ルナはニヤニヤと笑みを返す。
    「ただいま。お邪魔だったかしら?」
    「あ、いや、そんな」
    「もしかして」
     ルナは3人の顔をじっと見て、こう続けた。
    「あたしを驚かせようと、何かイタズラ仕込もうとしてた?」
    「……」
     3人は顔を見合わせ、そして観念したように、揃ってうなずいた。

     その後、マークたちも交えた研究所の全員で掃除が行われ、ルナの部屋を含む研究所の全箇所が綺麗に清掃された。



    「で、問題なのが」
    「師匠も克大火も見付からなかったってことよ」
     綺麗になったばかりの居間に早速、ルナは紫煙を浮かばせている。
    「考えられる可能性としては、まだあたしが知らない住処があって、そこに籠もってるのか、あのクソ賢者の言ってた『用事』が済んでないか、……ってとこね」
    「ルナさんは、どっちだと?」
     マークの問いに、ルナは手をぱたぱた振りながら答える。
    「後者の方が圧倒的に、可能性が高いわね。
     師匠のことは粗方知ってるつもりだし、師匠も克も生活習慣をコロコロ変えるほど短い人生送ってないから、今更あたしが知らないような研究所や工房なんかを作ってるとは思えないもの。
     となれば、その用事って言うのが相当厄介な代物ってことしか考えられないわ。第一、モールは克の古い友人だって言うし、そいつからの頼みを断らなきゃいけないほどの用事なら、そうそう早く片が付けられるとは考えにくいしね」
    「何なんでしょうね、その用事って」
    「さあね」
     ルナは煙草を灰皿に押し当て、揉み消す。
    「何にせよ、これで央中を訪ねる重要度が上がったわね。あたしでも見当が付かないようなことを知ってそうなのは、天狐ちゃんしかいないもの」
    「なるほど……」
     ルナは席を立ち、フィオに声をかけた。
    「フィオ、確か来月4日に出発だったわよね?」
    「ああ」
    「明日じゃダメなの?」
    「ああ。今行っても意味が無い」
    「ふーん……? ま、いいわ。
     で、どうよ?」
     ルナの問いかけに答える形で、ワンピース姿のパラが居間へとやって来た。
    「あら、いいじゃない」
    「ありがとうございます」
    「お礼はフィオに、でしょ」
     そう言われ、パラは傍らのフィオにくる、と振り向いてお辞儀する。
    「ありがとう、フィオ」
    「いや、こっちこそ。昼間は悪かったなって。……じゃ、僕はこれで。おやすみっ!」
     フィオは顔を真っ赤にして、そそくさと出て行った。
    「……」
     残ったパラは――やはり無表情だったが――どこか、嬉しそうに佇んでいた。
    「覚えてる?」
     と、ルナが声をかけてくる。
    「何をでしょう」
    「20年くらい前、あたしがアンタに言った言葉。『着飾るのには理由があるのよ』って、アンタに言ったこと」
    「はい」
    「今はその意味、分かるかしら?」
    「……」

     その時、傍で二人の様子を眺めていたマークは、後にこう語っている。
    「パラがあんな風に笑うのなんて、初めて見たよ」と。



     そして5月4日、ルナたち一行は央中へと向かった。

    白猫夢・新月抄 終
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