「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・血風録 3
晴奈の話、13話目。
因縁の発端。
3.
戦いは時間が経つごとに、激しさを増していく。一体何百人、いや、何千人いるのか――教団員は続々と、絶え間なく侵入してくる。
最初の頃は威力が高い反面、長めの呪文や大掛かりな動作を伴う術を使っていた橘も、威力は低くなるが、時間をかけずに発動できる術で応戦し始めており、余裕が無くなっているのが伺える。
柊もあちこちを走り回り、立て続けに教団員たちを切り捨てている。いつものたおやかな表情も、穏やかなしぐさも、今は勇猛な女武芸者のそれとなっている。
そしてこの時、勿論晴奈も戦っていた。15歳と言う若さをほとばしらせる、俊敏で鋭い動きで、師匠でさえも一瞬、目を見張るほどの立ち回りを見せていた。
「でやーッ!」
まるで閃光のような剣閃が、敵に向かって走っていく。
「が、あ……」
敵は短いうめき声をあげて、どさりと倒れる。晴奈はすぐさま倒れた敵を踏み越え、その後ろに立っていた敵に向け、刀を払う。
「うぐ、く……」
瞬く間にもう一人。
「それッ!」
その敵も踏み台にして、また一人。
あまりの攻勢の強さに、晴奈の周囲にいた者たちは、敵・味方関係なく、度肝を抜かれていた。
「何だ、あの『猫』は……!?」
「黄か?」
同輩、先輩らが目を見張る一方で、教団側の士気は明らかに落ち始めている。
「く……、歯が立ちそうも無い……!」
「こりゃマズいぜ! 退くしか無い!」
すぐ横で戦っていた橘に至っては、表情が半ば凍っている。
「せ、晴奈ちゃん。怖いって、ソレ」
だが、当の本人にはそれらの声が耳に入らない。異様な高揚感と陶酔感で、周りが見えなくなり始めていたのだ。
(敵は、敵は……ッ、どこだッ!)
その闘気に引き寄せられたのか、嵐月堂の境内をしゅっと一直線に横切る者が現れた。
柊がその異様な気配を感じ取り、暴走気味の晴奈に向かって手を伸ばす。
「晴奈、危ない!」「え」
柊は彼女の手を強く引っ張り、体勢を崩させる。
その直後、先ほどまで晴奈の頭があった辺りを、ヒュンと黒い棒が横切った。
「チッ、外したか!」
晴奈が顔を上げると、そこには黒い僧兵服に身を包んだ、晴奈と同年代くらいの、狼獣人の少年の姿があった。
「調子に乗っている猫女を葬るチャンスだったが……。なかなか、うまく行かんものだな」
その「狼」は3つに分かれた棍棒をヒュンヒュンと振り回しながら、偉そうに言い放つ。
「10代半ばで得物が三節棍、んで、黒毛の狼獣人……?」
その武器を見た橘が、杖を構えて叫ぶ。
「まさかあんた、ウィルバー・ウィルソン!?」
「ほお、俺の名を知っているのか。クク、俺も有名になったもんだな」
「狼」はニヤつきつつ、橘に向かって片目をつぶる。いわゆる「ウインク」であるが、晴奈には何をやっているのか分からない。
(目にゴミでも入ったか? ……何なのだ、この高慢な『狼』は?)
晴奈はすっと立ち、刀を構え直した。師匠のおかげで少し冷まされたが、まだ頭の中は高揚し、たぎったままだ。
「敵の陣中で、よくもそれだけ余裕が見せられるものだな、犬」
晴奈の挑発に対し、「狼」は「ヘッ」と笑って、馬鹿にした様子を見せる。
「お前、オレと同い年くらいか? やめておけ、様になってないぜ。それから……」
突然表情を変え、怒りに満ちた形相で晴奈に襲い掛かった。
「このウィルバー・ウィルソンをなめるな、猫女ッ!」
飛んできた棍の先端を、晴奈が刀を払って弾く。勢い良く飛び散る火花をものともせず、晴奈はすぐさま第二撃をねじ込む。
今度はウィルバーが防御に回り、不敵な笑みを浮かべる。
「フン、わりとすばしっこいな。だが、オレには敵うまい」
攻撃を受けた部分の棍を軸に、他の棍を回転させる。勢い良く回る棍が、晴奈の目の高さまで上がる。攻撃が来ると構え、晴奈は一歩退く。
ところが――。
「はは、そう来ると思ったぜ!」
ウィルバーは上がってきた棍をつかみ、そこを軸にして、また棍が回転。ヒュンと風を切る音を立て、晴奈の頭上にまで棍が伸びる。
「……ッ!」
退いた直後で、晴奈の動作には余裕が無くなっている。棍は動けない晴奈の額に、鈍い音を立ててぶつかった。
その瞬間、晴奈の視界がぎゅっと、音を立てそうな勢いで暗くなる。額から後頭部にかけて電気の走るような、何かが突き抜ける衝撃を感じながら、晴奈の意識が乱れる。
(な……、あ……、し、しま、った……)
気を失う直前、ウィルバーの勝ち誇った声と――。
「ククク、だから言ったのだ。オレには敵うまいと……」「克の真似なんかしてるヒマあんの、ボウヤ?」「ぐえっ」
相手が倒れる音を、聞いた。
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因縁の発端。
3.
戦いは時間が経つごとに、激しさを増していく。一体何百人、いや、何千人いるのか――教団員は続々と、絶え間なく侵入してくる。
最初の頃は威力が高い反面、長めの呪文や大掛かりな動作を伴う術を使っていた橘も、威力は低くなるが、時間をかけずに発動できる術で応戦し始めており、余裕が無くなっているのが伺える。
柊もあちこちを走り回り、立て続けに教団員たちを切り捨てている。いつものたおやかな表情も、穏やかなしぐさも、今は勇猛な女武芸者のそれとなっている。
そしてこの時、勿論晴奈も戦っていた。15歳と言う若さをほとばしらせる、俊敏で鋭い動きで、師匠でさえも一瞬、目を見張るほどの立ち回りを見せていた。
「でやーッ!」
まるで閃光のような剣閃が、敵に向かって走っていく。
「が、あ……」
敵は短いうめき声をあげて、どさりと倒れる。晴奈はすぐさま倒れた敵を踏み越え、その後ろに立っていた敵に向け、刀を払う。
「うぐ、く……」
瞬く間にもう一人。
「それッ!」
その敵も踏み台にして、また一人。
あまりの攻勢の強さに、晴奈の周囲にいた者たちは、敵・味方関係なく、度肝を抜かれていた。
「何だ、あの『猫』は……!?」
「黄か?」
同輩、先輩らが目を見張る一方で、教団側の士気は明らかに落ち始めている。
「く……、歯が立ちそうも無い……!」
「こりゃマズいぜ! 退くしか無い!」
すぐ横で戦っていた橘に至っては、表情が半ば凍っている。
「せ、晴奈ちゃん。怖いって、ソレ」
だが、当の本人にはそれらの声が耳に入らない。異様な高揚感と陶酔感で、周りが見えなくなり始めていたのだ。
(敵は、敵は……ッ、どこだッ!)
その闘気に引き寄せられたのか、嵐月堂の境内をしゅっと一直線に横切る者が現れた。
柊がその異様な気配を感じ取り、暴走気味の晴奈に向かって手を伸ばす。
「晴奈、危ない!」「え」
柊は彼女の手を強く引っ張り、体勢を崩させる。
その直後、先ほどまで晴奈の頭があった辺りを、ヒュンと黒い棒が横切った。
「チッ、外したか!」
晴奈が顔を上げると、そこには黒い僧兵服に身を包んだ、晴奈と同年代くらいの、狼獣人の少年の姿があった。
「調子に乗っている猫女を葬るチャンスだったが……。なかなか、うまく行かんものだな」
その「狼」は3つに分かれた棍棒をヒュンヒュンと振り回しながら、偉そうに言い放つ。
「10代半ばで得物が三節棍、んで、黒毛の狼獣人……?」
その武器を見た橘が、杖を構えて叫ぶ。
「まさかあんた、ウィルバー・ウィルソン!?」
「ほお、俺の名を知っているのか。クク、俺も有名になったもんだな」
「狼」はニヤつきつつ、橘に向かって片目をつぶる。いわゆる「ウインク」であるが、晴奈には何をやっているのか分からない。
(目にゴミでも入ったか? ……何なのだ、この高慢な『狼』は?)
晴奈はすっと立ち、刀を構え直した。師匠のおかげで少し冷まされたが、まだ頭の中は高揚し、たぎったままだ。
「敵の陣中で、よくもそれだけ余裕が見せられるものだな、犬」
晴奈の挑発に対し、「狼」は「ヘッ」と笑って、馬鹿にした様子を見せる。
「お前、オレと同い年くらいか? やめておけ、様になってないぜ。それから……」
突然表情を変え、怒りに満ちた形相で晴奈に襲い掛かった。
「このウィルバー・ウィルソンをなめるな、猫女ッ!」
飛んできた棍の先端を、晴奈が刀を払って弾く。勢い良く飛び散る火花をものともせず、晴奈はすぐさま第二撃をねじ込む。
今度はウィルバーが防御に回り、不敵な笑みを浮かべる。
「フン、わりとすばしっこいな。だが、オレには敵うまい」
攻撃を受けた部分の棍を軸に、他の棍を回転させる。勢い良く回る棍が、晴奈の目の高さまで上がる。攻撃が来ると構え、晴奈は一歩退く。
ところが――。
「はは、そう来ると思ったぜ!」
ウィルバーは上がってきた棍をつかみ、そこを軸にして、また棍が回転。ヒュンと風を切る音を立て、晴奈の頭上にまで棍が伸びる。
「……ッ!」
退いた直後で、晴奈の動作には余裕が無くなっている。棍は動けない晴奈の額に、鈍い音を立ててぶつかった。
その瞬間、晴奈の視界がぎゅっと、音を立てそうな勢いで暗くなる。額から後頭部にかけて電気の走るような、何かが突き抜ける衝撃を感じながら、晴奈の意識が乱れる。
(な……、あ……、し、しま、った……)
気を失う直前、ウィルバーの勝ち誇った声と――。
「ククク、だから言ったのだ。オレには敵うまいと……」「克の真似なんかしてるヒマあんの、ボウヤ?」「ぐえっ」
相手が倒れる音を、聞いた。



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