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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第8部

    白猫夢・陥湖抄 2

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    麒麟を巡る話、第381話。
    どっちが先?

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    2.
     白猫党が開発した、最新の舟艇に乗っていた党首シエナは、ロンダ司令からの報告を受けていた。
    「目標地点の港に白旗が掲げられております。どうやら交渉を申し出ているようです」
    「分かったわ。兵士1分隊をよこしてちょうだい。アタシとイビーザとトレッドで、交渉に臨むわ」
    「了解であります」
    「港の様子だけど、どうなって……」
     シエナはそこで言葉を切り、間を置いてこう続けた。
    「……いいえ、自分の目で確認したいから、双眼鏡かなにか貸してくれるかしら」
    「あ、はい。私のものでよろしければ、お使い下さい」
    「ありがとう」
     シエナはロンダから双眼鏡を借り、ミッドランドに向けた。
    「……懐かしいわね。全然、変わってないわ」
    「そう言えば、閣下はミッドランドでご勉学に励んでいらっしゃったとか」
    「ええ。天狐ゼミって言ってね、魔術専門のゼミだったの」
    「ほう……? 政治学などは、どちらで?」
    「独学ね、言ってみれば。まあ、アタシには優秀なブレーンが一杯付いてくれているから」
    「なるほど。……しかし、我々の懸念点はまさに、そのテンコであります」
     ロンダは緊張した面持ちで、裸眼でミッドランドに目を向ける。
    「テンコ・カツミの存在は、ミッドランド占拠と言う我々の第一目標において、非常に高い障壁となります。抵抗を受けた場合、それを押さえ込めるような兵力は、流石の我が軍も有してはおりませんからな。
     しかし事前の幹部会議で、『この日よりミッドランドに、テンコ・カツミの姿は無い』との預言をいただきましたが……、本当に有り得るのでしょうか?
     いや、預言者殿の言葉を疑うわけではありません。しかし我々の調査では、520年にあの地でテンコが活動を始めて以来、半世紀もの間、ミッドランド以外へ移動したことが無いとのことです。
     それが今、折しも我々が強襲しようとしているこのタイミングで、都合よく不在であるとは……」「逆ね」
     シエナはクスクス笑いながら、こう返した。
    「預言は『予言』なのよ。いついなくなるか分かっていたからこそ、あたしたちはこのタイミングでここに来たのよ」
    「む、む……?」
     ロンダは納得の行かない様子で、さらにこう返す。
    「我々の目的は、諜報員殺害に対する、偽白猫党への報復。
     あの手紙には、講演会の開催日は『5月4日』とありましたが、先んじて街を密かに掌握しておき、やって来た偽党員を待ち構えて拘束する、……と言う閣下らのご判断により、我々は本日、こうして向かっております。
     しかし失礼ながら、閣下の今のお言葉は、まるでテンコがいない時を見計らい、その隙に乗じて占拠に向かわれたと、そのように聞こえましたが……?」
    「勿論、本来の目的は偽党員の拘束よ。その目的を満たすために、一つの悪条件が除かれていることを、預言は教えてくれている。そう言うコトよ」
    「……む……う……?」
     まだ納得の行かなさそうな表情を浮かべるロンダをよそに、舟艇はまもなく、港に到着しようとしていた。

     港に着岸した舟艇から、兵士1分隊と、シエナたち最高幹部が上陸する。
    「ようこそ、白猫党の御方々」
     それを緊張した面持ちで、ポエトが出迎える。
    「お初にお目にかかる。私はこのミッドランド市国を治めるラーガ家の主、ポエト・ナルキステイル・ラーガだ」
     ポエトからの挨拶を受け、シエナも応じる。
    「初めまして、ラーガ卿。私は白猫原理主義世界共和党の党首を務めております、シエナ・チューリンと申します」
    「ご紹介、痛み入る。早速だが、こうして無理矢理に、我が街にやってきた理由をお聞かせ願いたい」
     ポエトの質問に、シエナは――党本部で見せたような激情に任せた振る舞いを、一切見せることなく――淡々と、しかし堂々とした態度で応じた。
    「単純な理由よ。我々の同志3名が、我々の名を騙る者によって惨殺され、さらにはその偽党員は貴国市内において、講演会を催そうとしていることが分かった。
     我々はその偽党員を、極めて非常識かつ異常な、決して許すべからざる輩であり、かつ、我々のみならず、貴国をはじめとする央中地域にとっても著しく害を及ぼす存在と断定したため、この地で拿捕すべく兵を率いた。以上が理由よ」
    「納得できかねる」
     威圧的な態度を見せたシエナに対し、ポエトも折れない。
    「その異常なる輩の拿捕だけであれば、我々に一筆送ってくれれば対応するものを、何故こうも大仰に人を送り込み、党首自らが乗り込んでくるのだ? あまつさえ、湖外周の港まで占拠したと聞く。
     到底、あなた方が仰ったような、義憤から来る事情だけが理由とは思えん」
    「これは我々に対する宣戦布告であると、我々は考えているわ。それなのに第三者の兵を当てにして放任しろ、と? 我々はそこまで無責任でも恥知らずでもないし、他国の兵を頼らなければいけないほど脆弱でもないわ。
     そう言うワケだから、我々がこの地に駐留するコトを許可してほしいのだけど」
    「であるから、納得できかねると申しているのだ。
     なるほど、あなた方のメンツが懸かっていることは理解した。あなた方の軍が世界最高水準の兵力と技術力を有していることも、かねがね存じている。
     だがそれと、我が国の所有地である港を奪われることに、何の関係があると言うのだ?」
    「敵に我々の行動を察知され、逃げられでもした場合、その次の足取りを追うことは容易でないコトは明白でしょう? その可能性を消すため、早急に動いたまでよ。
     とにかく、我々の要求は二つよ。ミッドランドに関係する全航路及びその集積地、即ち港を我々の管理下に置くこと。そしてあらゆる抵抗や実力行使をしないこと。
     この二項をラーガ家当主、即ち貴君が公的に容認すると、ここで宣言してちょうだい」
    「なんだと……ッ!?」
     ここまで冷静に応じてきたポエトも、この要求には憤った声を漏らした。
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