「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・陥湖抄 3
麒麟を巡る話、第382話。
ミッドランド制圧。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「か、閣下。それはあまりにも……」
ここまで傍観していたトレッドが、慌ててシエナを止めた。
何故ならその要求をポエトに呑ませることは、彼の地位と権威を貶めることになる。そして貶めさせた原因は白猫党である。
それは実質的に、ポエトをミッドランド市国の最高権力者の座から引きずり下ろし、白猫党がその座を奪うことと同じ――即ち、力ずくで占領したも同然の結果となるからだ。
当然、穏健派であるトレッドは、央中との決定的な関係悪化を避けるべく、シエナを止めようとした。
しかし、シエナは意に介さない。
「トレッド政務部長。あなたは黙っててちょうだい。
さあ、ポエト・ラーガ卿。要求を呑むの? 呑まないの?」
シエナは凄みながら、片手をそっと挙げる。
それに同じるように、彼女が引き連れた1分隊が武器を構える。
「貴様……!」
当然、ポエトはそんな要求を呑むわけが無い。
「私を虚仮にする気かッ! そんな要求が通ると、本気で思っているわけではあるまいな!?
忘れているわけでは無いだろうな、この街にはあの、カツミ・タイカの弟子が……」「テンコちゃんでしょ?」「……っ」
ポエトの脅しに対し、シエナは冷淡に応じて見せる。
「勿論知ってるわよ。アタシは天狐ゼミ、564年下半期卒業生だもの。そうね、呼んでもらえると言うのならむしろ、ありがたい話だわ。恩師と久々に語り合えるもの。
じゃあ、呼んでちょうだい。早めに、ね」
そう言って、シエナは悪辣な笑みを浮かべた。
対照的に、ポエトの顔色は――未だ堅い表情を崩しはしなかったものの――目に見えて蒼くなっていた。
「……呼んできてくれ」
ポエトは目を合わせず、執事にそう命令した。
「旦那様ぁ……」
執事は絞り出すような声で応じたが、ポエトは顔を向けようとはしなかった。
「呼ぶ、……のだ」
「……かしこまり……ました……」
しかし、居ない者を呼べるはずもなく――1時間後、ミッドランド市国が有する入出国管理局、港湾施設および船舶は、すべて白猫党の管理下に置かれることとなった。
そして同時に、ミッドランドにおける軍組織も武装を解除され、ミッドランドは白猫党に抵抗する術を、完全に奪われた。
また、ポエトを筆頭とするラーガ家一族はラーガ邸に軟禁され、一切の外出と通信を禁じられた。
即ち、これが白猫党の央中攻略の第一歩となった。
「ついに……、ついに、やってしまいましたな、閣下」
敵、味方ともに暴挙としか思えないこの一大政変の最中、シエナだけは平然と、コーヒーを口に運んでいた。
「そうね。これでもう、後戻りはできないわ」
「やはりこれが狙いだったのですか」
恨みがましく睨んでくるイビーザとトレッドに対し、シエナは冷めた目を向ける。
「占領はついでよ。容易にできそうだったからやったまでのコト。アタシたちの本来の目的は、あくまで報復でしょう?
それで、ロンダ司令。偽党員は発見できたのかしら?」
「はっ……。目下捜索中でありますが、未だそれらしい報告は上がっておりません」
「そう」
シエナはかちゃ、と音を立てて、カップをテーブルに置く。
「引き続き、捜索を続けてちょうだい。首尾よく拿捕できた場合には、アタシ直々に褒賞を授けるわ」
「ありがたき幸せにございます。ではより一層、力を尽くして捜査に当たります」
「よろしく。……ところで」
シエナはそれまでの鉄面皮を解き、不安そうな目をロンダに向けた。
「テンコちゃんの屋敷、誰もいなかったって?」
「ええ、もぬけの殻でした。預言者殿の啓示が的中しましたな」
「気になるわね……。情勢に余裕が出てきてからで構わないから、いずれテンコちゃんたちについても、捜索をお願いね」
「了解であります」
しかし――市国及びその周辺を封鎖し、その全域をしらみ潰しに探し回ったものの、偽党員と思しき者も、また、天狐と鈴林も、ミッドランドのどこにも現れなかった。
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ミッドランド制圧。
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「か、閣下。それはあまりにも……」
ここまで傍観していたトレッドが、慌ててシエナを止めた。
何故ならその要求をポエトに呑ませることは、彼の地位と権威を貶めることになる。そして貶めさせた原因は白猫党である。
それは実質的に、ポエトをミッドランド市国の最高権力者の座から引きずり下ろし、白猫党がその座を奪うことと同じ――即ち、力ずくで占領したも同然の結果となるからだ。
当然、穏健派であるトレッドは、央中との決定的な関係悪化を避けるべく、シエナを止めようとした。
しかし、シエナは意に介さない。
「トレッド政務部長。あなたは黙っててちょうだい。
さあ、ポエト・ラーガ卿。要求を呑むの? 呑まないの?」
シエナは凄みながら、片手をそっと挙げる。
それに同じるように、彼女が引き連れた1分隊が武器を構える。
「貴様……!」
当然、ポエトはそんな要求を呑むわけが無い。
「私を虚仮にする気かッ! そんな要求が通ると、本気で思っているわけではあるまいな!?
忘れているわけでは無いだろうな、この街にはあの、カツミ・タイカの弟子が……」「テンコちゃんでしょ?」「……っ」
ポエトの脅しに対し、シエナは冷淡に応じて見せる。
「勿論知ってるわよ。アタシは天狐ゼミ、564年下半期卒業生だもの。そうね、呼んでもらえると言うのならむしろ、ありがたい話だわ。恩師と久々に語り合えるもの。
じゃあ、呼んでちょうだい。早めに、ね」
そう言って、シエナは悪辣な笑みを浮かべた。
対照的に、ポエトの顔色は――未だ堅い表情を崩しはしなかったものの――目に見えて蒼くなっていた。
「……呼んできてくれ」
ポエトは目を合わせず、執事にそう命令した。
「旦那様ぁ……」
執事は絞り出すような声で応じたが、ポエトは顔を向けようとはしなかった。
「呼ぶ、……のだ」
「……かしこまり……ました……」
しかし、居ない者を呼べるはずもなく――1時間後、ミッドランド市国が有する入出国管理局、港湾施設および船舶は、すべて白猫党の管理下に置かれることとなった。
そして同時に、ミッドランドにおける軍組織も武装を解除され、ミッドランドは白猫党に抵抗する術を、完全に奪われた。
また、ポエトを筆頭とするラーガ家一族はラーガ邸に軟禁され、一切の外出と通信を禁じられた。
即ち、これが白猫党の央中攻略の第一歩となった。
「ついに……、ついに、やってしまいましたな、閣下」
敵、味方ともに暴挙としか思えないこの一大政変の最中、シエナだけは平然と、コーヒーを口に運んでいた。
「そうね。これでもう、後戻りはできないわ」
「やはりこれが狙いだったのですか」
恨みがましく睨んでくるイビーザとトレッドに対し、シエナは冷めた目を向ける。
「占領はついでよ。容易にできそうだったからやったまでのコト。アタシたちの本来の目的は、あくまで報復でしょう?
それで、ロンダ司令。偽党員は発見できたのかしら?」
「はっ……。目下捜索中でありますが、未だそれらしい報告は上がっておりません」
「そう」
シエナはかちゃ、と音を立てて、カップをテーブルに置く。
「引き続き、捜索を続けてちょうだい。首尾よく拿捕できた場合には、アタシ直々に褒賞を授けるわ」
「ありがたき幸せにございます。ではより一層、力を尽くして捜査に当たります」
「よろしく。……ところで」
シエナはそれまでの鉄面皮を解き、不安そうな目をロンダに向けた。
「テンコちゃんの屋敷、誰もいなかったって?」
「ええ、もぬけの殻でした。預言者殿の啓示が的中しましたな」
「気になるわね……。情勢に余裕が出てきてからで構わないから、いずれテンコちゃんたちについても、捜索をお願いね」
「了解であります」
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