「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第8部
白猫夢・散狐抄 1
麒麟を巡る話、第384話。
天狐を狙う邪悪。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
双月暦570年、4月28日――早朝。
天狐と、そして鈴林はまだ、彼女たちの住まう屋敷で眠っていた。
「……ッ!」
だが突如、天狐が跳ねるように起き上がった。
「鈴林! 鈴林ッ!」
天狐は隣のベッドで眠る鈴林に声をかけて起こしつつ、壁にかけた自分の狩衣に向かってくい、と指を引く。
すると寝間着が天狐の体から勝手にはだけ、脱げるとともに、狩衣が体に貼り付き、自動で着替えが終わる。それと同時に、鈴林がむくりと起き上がった。
「なぁに……? まだこんな時間……」
「地下へ行くぞ」
天狐の言葉に、鈴林はぎょっとする。
「地下っ? 地下って、『姉さん』のいる、地下のコトっ?」
「そうだ。すぐ行くぞ」
言った瞬間、二人は「テレポート」により、地下――天狐の本体が封印されている、ミッドランド丘陵地下の遺跡へと移動していた。
「ふにゃっ!?」
まだベッドから上半身を起こした姿勢のままだった鈴林は、どすんと尻もちを着く。
「あいったー……。ひどいよっ、姉さんっ」
「悪い。だが緊急なんだ。この魔法陣内に誰かが入ってきてる」
「えっ……」
二人が今いるこの地下遺跡は地下3階分にも及ぶ、巨大な魔法陣となっており、その中心に天狐の本体が封印されているのだ。
しかし魔法陣は天狐を封印するだけのものではなく、彼女を核として魔力を集め、彼女の父であり師匠でもある克大火にそれを供給する、ある種の「発電所」のような役割も果たしている。
厳重に封印が施されていることもあり、ここに誰かが入り込むようなことは、基本的に有り得ない。
そんな場所にもし何者かがいるとすれば、それは即ち大火、もしくは天狐に害を成す存在であることは明白なのだ。
「お師匠ってコトは……?」
鈴林の問いに、天狐は首を振る。
「こんな朝っぱらから、オレに声もかけずに、か? まあ、親父のコトだし有り得なくはないが、だとしても『無理矢理』ってコトは絶対ねーよ」
「無理矢理ってっ?」
「島に大穴を開けられてる。魔法陣にまで達するほどの、な」
「穴……!?」
鈴林は辺りを見回し、異状が無いか確認する。
「でも、ちゃんと機能してるみたいだよっ?」
「ああ。だからこそヤバいんだ」
天狐は鉄扇を構え、歩き出す。
「親父がこしらえた、この複雑極まりねー超巨大魔法陣の、そのほんのわずかな隙間を縫うようにして穴が穿たれてる。
この魔法陣に異常が発生した場合には当然、センサーが働いてオレや親父に知らせるように設計してあるが、ソレが一切感知してねーんだ。恐らく親父も、異常には気付いてねーだろうな」
「姉さんはどうやって気付いたの?」
「勘、……ってヤツかな。いや、もっとはっきりした感じか。気配を感じたんだ。殺気と言った方がいいかな」
「殺気……? 姉さんを、殺そうとしてるってコトっ?」
「他に生き物なんていねーだろ?
気を付けろよ、鈴林。センサーをほんの少しも感知させずに大穴をブチ抜く、精密さと大胆さを併せ持ち、そしてオレの本体の存在を知っていて、その上でオレを殺そうとするヤツだ――ものすげえ強い相手なのは、まず間違いないんだから、な」
「……分かっ」
鈴林がうなずきかけた、その直後――ばきん、と言う硬い破裂音が、鈴林の胸から響いた。
「……あ……がっ……」
「どうした、れい……」
振り返った天狐の目に、背後から胸を剣で貫かれた、鈴林の姿が映る。
「鈴林ッ!?」
「流石にこれでは致命傷とは参りませんか」
鈴林の背後から、抑揚のない声が聞こえてくる。
「そこでじっとしていてくださいませ」
鈴林の背後にいた者は、鈴林を刺し貫いたまま、壁へと突進する。
「は……ぐ……あっ……」
鈴林はそのまま、壁に打ち付けられた。
「あ……ね……さん」
血こそ流してはいないが、鈴林の動きは鈍い。
「てめえ……ッ」
天狐は鈴林を襲った者に向けて、鉄扇を構える。
「さて、一聖(かずせ)様」
鈴林を襲った黒と赤のドレスを着た少女も、もう一振り剣を抜いて構え、天狐と対峙した。
「あなた様もお静かになさいませ」
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天狐を狙う邪悪。
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双月暦570年、4月28日――早朝。
天狐と、そして鈴林はまだ、彼女たちの住まう屋敷で眠っていた。
「……ッ!」
だが突如、天狐が跳ねるように起き上がった。
「鈴林! 鈴林ッ!」
天狐は隣のベッドで眠る鈴林に声をかけて起こしつつ、壁にかけた自分の狩衣に向かってくい、と指を引く。
すると寝間着が天狐の体から勝手にはだけ、脱げるとともに、狩衣が体に貼り付き、自動で着替えが終わる。それと同時に、鈴林がむくりと起き上がった。
「なぁに……? まだこんな時間……」
「地下へ行くぞ」
天狐の言葉に、鈴林はぎょっとする。
「地下っ? 地下って、『姉さん』のいる、地下のコトっ?」
「そうだ。すぐ行くぞ」
言った瞬間、二人は「テレポート」により、地下――天狐の本体が封印されている、ミッドランド丘陵地下の遺跡へと移動していた。
「ふにゃっ!?」
まだベッドから上半身を起こした姿勢のままだった鈴林は、どすんと尻もちを着く。
「あいったー……。ひどいよっ、姉さんっ」
「悪い。だが緊急なんだ。この魔法陣内に誰かが入ってきてる」
「えっ……」
二人が今いるこの地下遺跡は地下3階分にも及ぶ、巨大な魔法陣となっており、その中心に天狐の本体が封印されているのだ。
しかし魔法陣は天狐を封印するだけのものではなく、彼女を核として魔力を集め、彼女の父であり師匠でもある克大火にそれを供給する、ある種の「発電所」のような役割も果たしている。
厳重に封印が施されていることもあり、ここに誰かが入り込むようなことは、基本的に有り得ない。
そんな場所にもし何者かがいるとすれば、それは即ち大火、もしくは天狐に害を成す存在であることは明白なのだ。
「お師匠ってコトは……?」
鈴林の問いに、天狐は首を振る。
「こんな朝っぱらから、オレに声もかけずに、か? まあ、親父のコトだし有り得なくはないが、だとしても『無理矢理』ってコトは絶対ねーよ」
「無理矢理ってっ?」
「島に大穴を開けられてる。魔法陣にまで達するほどの、な」
「穴……!?」
鈴林は辺りを見回し、異状が無いか確認する。
「でも、ちゃんと機能してるみたいだよっ?」
「ああ。だからこそヤバいんだ」
天狐は鉄扇を構え、歩き出す。
「親父がこしらえた、この複雑極まりねー超巨大魔法陣の、そのほんのわずかな隙間を縫うようにして穴が穿たれてる。
この魔法陣に異常が発生した場合には当然、センサーが働いてオレや親父に知らせるように設計してあるが、ソレが一切感知してねーんだ。恐らく親父も、異常には気付いてねーだろうな」
「姉さんはどうやって気付いたの?」
「勘、……ってヤツかな。いや、もっとはっきりした感じか。気配を感じたんだ。殺気と言った方がいいかな」
「殺気……? 姉さんを、殺そうとしてるってコトっ?」
「他に生き物なんていねーだろ?
気を付けろよ、鈴林。センサーをほんの少しも感知させずに大穴をブチ抜く、精密さと大胆さを併せ持ち、そしてオレの本体の存在を知っていて、その上でオレを殺そうとするヤツだ――ものすげえ強い相手なのは、まず間違いないんだから、な」
「……分かっ」
鈴林がうなずきかけた、その直後――ばきん、と言う硬い破裂音が、鈴林の胸から響いた。
「……あ……がっ……」
「どうした、れい……」
振り返った天狐の目に、背後から胸を剣で貫かれた、鈴林の姿が映る。
「鈴林ッ!?」
「流石にこれでは致命傷とは参りませんか」
鈴林の背後から、抑揚のない声が聞こえてくる。
「そこでじっとしていてくださいませ」
鈴林の背後にいた者は、鈴林を刺し貫いたまま、壁へと突進する。
「は……ぐ……あっ……」
鈴林はそのまま、壁に打ち付けられた。
「あ……ね……さん」
血こそ流してはいないが、鈴林の動きは鈍い。
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